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  • プロ空港おじさんの憂鬱

    空の旅にまつわる400字コラム

  • 1995

    一生に一度の大学受験なる体験

  • 若きサムライのために

    中高時代の恩師に依頼されて書いたショートコラム(全7回)

最近の記事

プロ空港おじさんの憂鬱(5) 男と女

チャラ男の友人が、成田空港のチェックインカウンタで地上係員をナンパしようとして旨くゆかなかったと嘆いていて、そりゃ駄目だろうと僕は思った。 彼女たちは並み居る乗客を素早く捌いて、出発時刻に遅れないよう導くことに集中しているし、旅券やビザに不備があれば送り出した航空会社の責任になるので実は厳重に確認もしていて、短い時間に沢山のことをやっている。 友人が自分を絶世のイケメンだと思っていても、これから海外に飛んでしまう奴に誘われてどうすんだという、相手の気持ちが丸々抜け落ちてい

    • 【過去の800字コラム】 それ以前の問題

      (初出:n-mizuno.com 2015年4月19日付) 最初に勤めた会社で仕えていた上司が 「自分が悪く言われるのは、自分に徳がないから」 と言うのを聞いて、憑き物が取れたように気持ちがスッキリしたことがある。 いわれのない陰口や中傷であっても、自分に足りないものがある所為だという認識を持てば、そこに改善の余地が生まれる。自分が暮らす世界は、その目に映る景色だけではないことを知れば、やはり自分には至らぬ点があると知ることができる。 反対に、「自分は何も悪くない」という

      • あの日

        きょうは、アルバイト先の仲間だった学部の先輩の法要に参列した。 彼女が突然に、そして衝撃的に旅立ってしまってから、28年が過ぎてしまった。 平成8年(1996)のあの日、大学2年生だった僕は前月末までフランスを旅していて、時差ボケが残っていたところに、F1中継を前夜に観てしまい、日本に戻りかけていた時間の感覚がまた欧州になってしまっていた。 当時、友達とのコミュニケーションはもっぱらイエデンだった。 インターネットや電子メールは大学の電子計算機センター(デンサン)に出向い

        • 【400字コラム】奇怪なイデオロギー

          朝ドラ『虎に翼』に突如現れた夫婦別姓議論。 モデルの和田嘉子が再婚して三淵姓になったのは昭和31年(1956)だけど、本当にあんな議論があったのか。 史実から4年後の昭和35年(1960)に、政治学者の中村貞子が結婚している。 ご主人が結婚に際して出した条件は「博士論文を書き上げて学位を得ること」だったという。 満州事変を論じた彼女の博士論文は、改姓後の名前で提出された。 のちの活躍でその名が知られることになる緒方貞子はご主人の姓だけど、旧姓でないからといって彼女の業績や

        プロ空港おじさんの憂鬱(5) 男と女

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        • プロ空港おじさんの憂鬱
          5本
        • 1995
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        • 若きサムライのために
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          令和6年/2024年8月の総括と雑感

          8月はお盆休みがあったけれど、特に遠出はしなかった。普段から出張の多い僕は良いけれど、家族のことを思えば何かしら考えておくべきだったかとも思う。 日航ジャンボ機墜落から39年。近年、日航元社員で博士号を持つとの触れ込みの女性がしきりに自衛隊による陰謀説を展開しているが、これは何年かに一度盛り上がるハシカのようなもので、余りにも現実離れした論理展開という気がする。 「自衛隊の訓練機または標的機が日航機と衝突し、証拠隠滅の為に123便を山岳地帯に誘導し、軍用機からミサイルを発

          令和6年/2024年8月の総括と雑感

          プロ空港おじさんの憂鬱(4) ゴロワーズを吸ったことがあるかい

          僕の初めての海外は平成4年(1992)、高校のカリキュラムで行ったフランスでのホームステイだった。 夏休みに南仏で3週間過ごした後パリで数日観光というのは、16のガキにはいかにも贅沢だったと今にして思う。 ニースからパリに向かう国内線は、今はもうないエール・アンテールだった。 この便のドリンク・サービスの時、隣席の級友が 「オランジーナ」 ぶっきらぼうに言ったら、CAが何やらまくし立ててきた。 早口なので言葉は聞き取れないけど、察した僕が 「プリーズをつけろってことだよ」

          プロ空港おじさんの憂鬱(4) ゴロワーズを吸ったことがあるかい

          【800字コラム】 ラスト・サムライたちの夏(3)

          田中静壱陸軍大将・東部軍管区司令官は陸軍のエリートコースを歩んできた。 陸大優等卒業の栄典としてオックスフォード大学留学を許され、米国駐在武官時代にはダグラス・マッカーサー参謀総長とも親交があった。 昭和20年3月、東日本の本土防衛を担う東部軍管区司令官に就任するも、相次ぐ空襲を防げず帝都は壊滅。宮城まで被災して進退伺を提出したが、天皇陛下ご自身が慰留なさったといわれる。 田中の執務室は東部軍が接収した日比谷の第一生命ビルにあった。 8月14日。ご聖断が下ると田中は副

          【800字コラム】 ラスト・サムライたちの夏(3)

          【800字コラム】 ラスト・サムライたちの夏(2)

          鈴木の侍従長時代、若き阿南惟幾中佐が侍従武官として宮中に着任、互いに深く尊敬し合う仲となっていた。 天皇陛下も阿南の誠実な人柄を殊のほか気に入り、時代が下り阿南が師団長として中国大陸への出征が決まると、陛下から2人きりの会食に招かれた。 この異例の厚遇に阿南は感激を句にした。 「大君の深き恵に浴みし身は言ひ遺こすへき片言もなし」 陸軍内では派閥に属さず、実直な性格で人望が厚かった。 上官を平気で馬鹿呼ばわりする石原莞爾さえも 「阿南さんが言うなら」 と素直に従ったとされ

          【800字コラム】 ラスト・サムライたちの夏(2)

          【800字コラム】 ラスト・サムライたちの夏(1)

          鈴木貫太郎海軍大将は、日露戦争で敵艦のサーチライトを浴びるまで甲板で新聞を読んでいたほど肝が座っていたといわれ、更には敵艦を沈めまくったので「1隻は他人の手柄ということにして譲ってくれ」と上官に頼まれたほどの御仁。 第12代海軍軍令部長を最後に退官し、侍従長に着任する。 当初は宮中に入ることをためらい固辞を続けたが、説得にあたった山縣有朋が 「陛下も貴官の就任を希望されている」 と殺し文句を放ったとも言われる。 器の大きな侍従長として頼りにされる一方、軍部の横暴が広がる中

          【800字コラム】 ラスト・サムライたちの夏(1)

          【800字コラム】 Often

          高校1年の頃、C君というカナダ人が交換留学で学校に来ていた。 ある日そのC君が英語の授業で、先生からのリクエストで教科書の英文を読んでくれることになった。 僕のいた中高一貫校では中学入学時に第1外国語として英語かフランス語を選べるんだけど、僕のようなフランス語選択者は圧倒的に少なく、英語科の教員もフランス語を取るような異端児には冷たくて、第2外国語の授業には学生上がりの若い非常勤講師を宛てがうことが多かった。 ただでさえつまらない英語のクラスはかくして、学級崩壊になるべくし

          【800字コラム】 Often

          令和6年/2024年7月の総括と雑感

          7月は、月初の展示会が名古屋で催されてその対応に追われたのと、その後にややイレギュラーな出張が重なって1ヶ月があっという間だった 後述の通り、取引先の方と会食する機会があり、二次会で女性のいるクラブにいざなわれたところ、僕についた子が永野芽郁にそっくりで若くてかわゆい、大学の3回生だという子で、ふだんこの手のお店や女性には全く興味を持たない僕も一瞬こころがグラついたことを告白せねばなるまい 若い女性と接する機会などない世のオヂさんたちは、こうやって夜の女性にからめとられて

          令和6年/2024年7月の総括と雑感

          プロ空港おじさんの憂鬱(3) インド人もびっくり

          昔働いていた会社で、インドに多く出張していた。 今にして思うと、オンボロのクルマで高速道路を走ったり国内線のLCCに乗りまくったりして、よくぞ生きて帰れたものだと思う。 ある時、デリーから成田に向かう日航機で、ターバンを巻いたインド人2人連れが搭乗していた。客室乗務員が彼らに近づき 「スペシャル・ミールをご注文されていますね?」 と確認してきた。しかし、彼らの答えはノー。 CAの手許のメモには特別食の指定が書かれているらしく、何度も質問するが、彼らの言い分は変わらない。

          プロ空港おじさんの憂鬱(3) インド人もびっくり

          【書評】『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で』小山靖史(NHK取材班)・著

          UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のトップを10年間務めたことで知られる緒方貞子を追うNHK取材班。 外交官だった父の転勤に伴い、幼少期をサンフランシスコで過ごし、のち支那に異動した際、父は英語を忘れないようにと日系アメリカ人の家庭教師をつけたという。 平成21年(2009)頃、僕はアフリカ某国の駐日大使の離任レセプションに参加した折、彼女が来賓としてスピーチするのを目撃したことがある。 当時既に80を越えていたのに、原稿も読まずに滑舌の良い英語を話していたのが凄く印

          【書評】『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で』小山靖史(NHK取材班)・著

          令和6年/2024年6月の総括と雑感

          5月末に恩師を囲む会を催して、それからあまり経っていないと思っているうちに、6月があっという間に過ぎてしまった。 (1) 読書 今月は70冊読んだ。1月からの通算は429冊。年間目標200冊に対して達成率215% Q2(第2四半期)のベスト26冊を別記事にまとめている。 (2) 映画 7本観る。 『ちひろさん』 有村架純主演の話題作。第三者として観ているぶんには、主人公やそれを取り巻く人たちの生き様は面白いのだろうけど、自分の身近なところや親類にいた時に、心から共感できる

          令和6年/2024年6月の総括と雑感

          2024 Q2 Best Books

          令和6年(2024) 4月〜6月で245冊も本を読めた。 この四半期で読んだ本の中から約1割の26篇を選んだ。 必ずしも良いと思ったものだけではないけれど、印象に残ったものとして選んでいることをお断りしておきたい(読了順)。 『そうか、もう君はいないのか』 城山三郎/著 『平成監獄面会記』 片岡健/著 『男のリズム』 池波正太郎/著 『一瞬を生きる君を、僕は永遠に忘れない』 冬野夜空/著 『証言 班目春樹 原子力安全委員会は何を間違えたのか?』 岡本孝司/著 『紳士協定 私

          【書評】 『同時通訳者の頭の中』関谷英里子・著

          題名の通り、同時通訳を手掛ける筆者が、ノウハウや心がけを惜しげもなく開陳してくれる。 本書の冒頭で筆者が指摘し、何度も引き合いに出される通訳の要諦「イメージ力」「レスポンス力」は、たしかにその通りだなと強く頷ける。 前職で、代理店向けのディナーで本社の社長のスピーチの通訳をやらされて(さすがに同時通訳ではなく逐語訳)、俺は1外フランス語なんだから英語出来ないのに!と内心バクバクながら、何とかやり切ったことがあった。 あとになって、代理店の方から 「ミズノさん、通訳凄かっ

          【書評】 『同時通訳者の頭の中』関谷英里子・著