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2024年5月の記事一覧
「ファミリア」第一話
プロローグ 澄み切った十月の青空の下、わたしたちはサウスフィラデルフィアにあるとある教会の墓地に立っている。
墓石に彫られた名前はジェシカ・クーパー。
大好きなお母さんの名前だ。
教会の鐘の音が晴れやかに響くと、それに驚いた鳥たちが一斉に青空の中へと飛び立っていく。
「ワン! ワン!」
威嚇めいた鳴き声を上げて一匹の小さな犬が飛び出すと、わたしの隣で車椅子に座るマギーおばさんが笑いなが
「ファミリア」第三話
CateCooper(2)
それから一週間ほど経った十月の始め頃、その日は朝から肌寒くて、薄曇りの空は今にも雨を降らせそうな気配だった。
「今日はきっと土砂降りよ、傘を持って行きなさい」
手渡された傘を持って、お母さんと一緒にアパートを出る。玄関では、チク・タクが尻尾を大きく揺らし、元気に送り出してくれた。
わたしだって、いつも男の子相手に喧嘩ばかりしてる訳じゃない。たまには女の子らしいこ
「ファミリア」第四話
CateCooper(3)
お母さんたちが買い物に出掛ける日、わたしとチク・タクはいつもより遅く起きた。目覚まし時計を止めて柔らかいシーツでたっぷり惰眠をむさぼってから下へ降りると、家の中は静まりかえっていて、お母さんはもう出掛けた後だった。
キッチンへ行き、おやつやフードを入れてあるコンテナを開くと、チク・タクが一番好きなビーフジャーキーの袋が空っぽなのに気づいた。
「あれ、ジャーキー切れ
「ファミリア」第五話
CateCooper(4)
チク・タクと散歩から帰りアパートに着く頃、当然まだお母さんとマギーおばさんは帰って来てはいなかった。
二人が買い物に出掛ける日は、決まってその夜にはピザを頼んでディナーを共にする。お喋りをしながら一日中歩き回って、「ただいま!」って玄関のドアを開けるときにはすっかり二人はクタクタにくたびれている。いつも、「あぁ! お腹が空いた! 早くシャワーを浴びたいわ!」なんて
「ファミリア」第六話
Cate Cooper(5)
店からの帰り道、膨れっ面でブツブツと独り言しながら歩く。
「チク・タクは小型犬だし、だいたいバスケットに収まってて、店内を出歩いてる訳でもないんだから別に良いじゃない! きっと、犯人が見つかりそうにない憂さを、わたしで晴らしたに違いないわ!」
バスケットの中の相棒が、心配そうに顔を覗かせる。
「ねぇ? チク・タク! まったく許せないと思わない? でもおじさんの言
「ファミリア」第七話
Cate Cooper(6)
ディランシー総合病院が、フィラデルフィアのどの辺りにあるか見当もつかない。運転手にそんなことを訊く余裕もないし、窓から街の景観を確認する余裕もない。今すぐにでも病院に着いてくれれば良いのに! その思いだけで頭の中はいっぱいだった。
タクシーに飛び乗ってからどのくらい経ったのか?
通り過ぎていく景色が異様にゆっくりに感じられる。それがゆっくりに感じられれば感じら
「ファミリア」第八話
Cate Cooper(7)
「ケイト? ……ケイト?」
聞き覚えのある声がわたしを呼んでいる。
「ケイト? 起きて」
この声は、マギーおばさんの声?
目を覚ますと知らない部屋だった。お母さんもいない。ここはどこ……? 起きたばかりの頭を持ち上げて周りを見渡すと、沢山のドクターが廊下を行き来している。
「ケイト?」
目の前で心配そうに見つめるマギーおばさんと、そして看護師のレイチェル、