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発達障害(developmental disorder)概論:一般的な解説の行間を埋める

「発達障害」という用語が世に浸透して久しいが、どのように発達障害を捉えているだろうか。僕自身は発達障害の専門家ではないので、詳しいことについては明るくないのだが、一応の医学教育を受けた身として考えるところはあるので概説したい。詳しい概念については様々な記事があるので(ここでは Wikipedia を貼付)、その行間を埋めるような解説をしたいと思う。

(1)発達障害の定義と概要

発達障害について明確な定義はないように思うが、Wikipedia では以下のように記載されている。下の記載は文部科学省のホームページ上にも記載されている。

発達障害は、身体や、学習、言語、行動の何れかにおいて不全を抱えた状態であり、その状態はヒトの発達期から現れる。原因は先天的である事が殆どで、発達の遅れに伴う能力の不足は生涯にわたって治る事はない。
日本の行政上の定義では、発達障害者支援法が定める「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥・多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」とされる。

要するに、発達段階=子どものうちから生じる何らかの身体的・精神的な障害であり、基本的には先天的なものである。成長につれて一般的には対処法を身につけていくが、基本的な性質なので、成長しても根本的に解決する訳ではない。また、大人になってから問題点が浮き彫りになってはじめて判明する場合もある(大人の発達障害)。

なお、本記事では発達障害 developmental disorder として記載している。Wikipedia には disability と記載されているが不適切であると思う。また、昨今では発達障害という用語に関しても、神経発達症群あるいは神経発達障害群(neurodevelopmental disorder)が提唱されている。


(2)主な発達障害:ASD、ADHD、LD

有名な病態は自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD)注意欠陥多動性障害(attention-deficit hyperdynamic disorder:ADHD)の2つであるが、学習障害(learing disorder:LD)を含めて3つが主たる病態である。なお、一般的に ASD の中でも「言語の発達の遅れ」がある場合を自閉症、ない場合をアスペルガー症候群と呼称する。

発達障害は脳の機能障害と言われていて、一部オーバーラップしているので、概念図としては以下のようになる。

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(3)スペクトラムとしての発達障害

しかし、これらの発達障害の間には明確な線引きはなく、オーバーラップもこんなに簡潔ではなくて、実際には複雑であるため、必ずしも区別は容易ではない。また、ここに挙げている以外にも他にも細かな病態が多数存在している。

あくまで人による「分類」=「便利な類型化」であるので、自分がどれに当てはまるかを一生懸命議論する意味はないと思っている。気質もそうであるが、基本的に根本的に解決しない「自分の特性」なので、僕個人は自分の特性を知っていかに上手に付き合っていくかが重要と考えている。

発達障害は「脳の機能の偏り」によるとされていて、どれかの診断基準に当てはまらなくても、誰だって何らかの要素を強弱の違いはあれど持っているものだ。発達障害全体としても有病率は1割程度とされているが、僕個人の感覚で言うと(知人の小児科医の感覚も同じくらい)、男性の9割、女性の1割くらいは「発達障害的な要素」を持っている。特にアスペルガー症候群~ ADHD のスペクトラムの要素は世の中の多くの人が持っている感触がある。

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(4)実際の発達障害に関する診断内容と解釈

さて、以下は僕自身の心理テストの総合的な結果である。僕個人としては ADHD の気があると感じているが、実際に ADHD と正式に診断されたわけではないし、診断してほしいとも思っていない。いや、「診断名が必要」であれば分類に当てはめてもらえばいい訳だが、分類すること、当てはまることが本来の目的ではないと思っている。

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大切なことは、

複雑な自分の特性を把握して、それに対処できるように訓練したり、環境を整えたり、周囲に助けてもらったりすること

なのである。

僕の場合で言えば、

▶ 自分の状況を把握したり、場面の変化に気づくことが苦手なので、作業を書き出す、行動をスケジュール化するなどの視覚化することが有効

▶ 複数のタスクを頭の中で同時に進行するのが苦手で、計算などでの不注意もあるので、メモをするなど、やはり視覚化が有効

▶ 目の前のことにいっぱいいっぱいになりやすいので、判断に迷う場合には周囲にアドバイスをもらって早めに助けを求めた方がいい

といった感じである。この中には ADHD の要素もあるし、ASD の要素もあるし、今流行りの HSP(Highly sensitive person)の要素も入っている。別にこれをもって、自分は ADHD だ!とか、HSP なんじゃないかって思う必要はなくて、分類のレッテルを貼るのではなくて、自分自身の特性を知って対処すればいいと思うのである。


(5)子育ての観点で考える発達障害

昨今、発達障害というものが世間に浸透してきたがために、かえって難しい状態になるケースもある。

例えば、学校などで上手く溶け込めないことを「発達障害」だからということで逆に簡単に対処されすぎる場合がある。簡単に対処されすぎるというのは、「受診だけでなく投薬を促される」「差別的に扱われる」「問題が生じたときの悪者にされる」「簡単に特別支援学級などを薦められる」などである。

簡単に発達障害のレッテルを素人が貼るべきではないと思っている。かなりの人が発達障害の診断基準を満たさなくても、発達障害の要素は持っているからである。微妙なラインの場合は「発達障害グレーゾーン」などと呼ばれる。重要なのはレッテルを貼ることではなく、個々人の特性を理解して個々人およびコミュニティで上手く対処することである。もちろん、診断そのものが必要であるならば、診断を受ければいいし、診断名が付くことで得られる利益もあるので、それは上手く活用すれば良いと思う。場合によって投薬や特別支援学級が役に立つこともあるので、個々の特性に応じて適切に検討されることを望んでいる。

一方で、親でさえも、我が子の特性に対して受け入れられないという現象が起きる。「なんでこの子はこんななんだ」「理解ができない」「わかってあげられない(理解してあげられない自分を責める)」などである。一般に自分自身に発達障害の要素が少ないと、我が子の発達障害的な部分を受け入れ難いことがある。学校に上手く溶け込めず、学校に行きたくないという我が子に対して、理解不能と感じ怒りが先行してしまったりする。子どもが自分とは違う人間であることを受け入れて「そういう人間なのだ」と理解して上手く付き合っていくのが肝要かと思われる。


(6)まとめ

1.発達段階は基本的には先天的なもので、治療をするものではない。

2.多くは小児期に分かるが、大人になってから問題点が浮き彫りになってはじめて判明する場合もある(大人の発達障害)。

3.発達障害は「脳の機能の偏り」によるもので、自閉症スペクトラム障害、ADHD、学習障害が主要な3つであり、有病率は1割程度である。

4.誰だって何らかの発達障害の要素を強弱の違いはあれど持っているし、特にアスペルガー症候群~ADHD の要素は多く、男性の9割、女性の1割くらいは「発達障害的な要素」を持っていると思われる。

5.発達障害は有用であれば診断名を活用すれば良いが、重要なのはレッテルを貼ることではなく、個々人の特性を理解して個々人およびコミュニティで上手く対処することである。

以上、教科書的な内容に加えて個人的な意見を交えて、発達障害に対処する上で重要と思うことを解説しました。ご意見、ご質問、ご指摘などあればコメントいただければ幸いです。なお、本記事の内容はサークル【病理医がつなぐ医療の架け橋】内での成果です。


【非病理関連領域(精神科・一般小児・総合内科・救急など)の記事まとめ】はこちらを参照ください。

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