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書評

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読んだ本について書きます。個人的な感想です。
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#読書感想文

名医・伊良部一郎との再会

名医・伊良部一郎との再会

奥田英朗の「イン・ザ・プール」を久々に読んだ。

精神科医・伊良部一郎のドタバタ診療を描いた連作中編集。

確実に一度読んでいる。
読んだという事実だけでなく、面白かったという感想も覚えている。

だからこそ、続編にあたる「空中ブランコ」「町長選挙」も買って読んだ。

そして再読。

驚いた。

表題作「イン・ザ・プール」はそれなりに筋も覚えていて、細かい描写を捉え直して読んだのだが、他の作品はほ

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嘘こそがボクたちを救う

嘘こそがボクたちを救う

岸田奈美著・「飽きっぽいから、愛っぽい」を読みました。

小説現代での連載とあって、noteのマガジンに綴られるのとは違うテイストに見えるのは気のせいなのでしょうか?

とはいえ、安定の岸田奈美ワールドに笑いと癒しと救いを得るのでした。

しかし、本著におけるこれまでの著作との違いは、ブクログのレビューにも書いたとおり、最終章にあると思います。

noteのマガジンと違い、最終回がある連載ゆえの、

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まだ選べていない君へ

まだ選べていない君へ

阿部広太郎さんの著作、「あの日、選ばれなかった君へ」読了。

これまで「心をつかむ 超言葉術」「それ、勝手な決めつけかもよ?」と読ませていただき、阿部広太郎さんの言葉に対する熱意や造詣とともに、優しさも感じてきた。

その優しさが、ご自身の来し方にある「選ばれなかった」経験に由来しているのだろうと腑に落ちた(それ、勝手な決めつけかな?)。

本著で印象深いのは、過去の自分に対して「君」と呼びかけて

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「ノルウェイの森」再読記録

「ノルウェイの森」再読記録

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ノルウェイの森(上)
https://books.rakuten.co.jp/rb/1709070/

ノルウェイの森(下)
https://books.rakuten.co.jp/rb/1709071/

村上春樹氏の代表作「ノルウェイの森」

初めて読んだのは大学生の時。
20か21の

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“ジョバンニの夢”としての銀河鉄道【キナリ読書フェス】

“ジョバンニの夢”としての銀河鉄道【キナリ読書フェス】

宮沢賢治の名作・「銀河鉄道の夜」は、主人公ジョバンニとその友人カムパネルラが銀河鉄道での不思議な世界を旅する物語。

銀河鉄道の旅がジョバンニの夢の中のことであるという視点で、物語を振り返ってみたい。

ジョバンニの夢に親友のカムパネルラが出て来る。
近現代的な感覚で言えば、ジョバンニがカムパネルラを想う気持ちの強さである。

父が日本を離れ、母は病に伏せ、幼いジョバンニが働いてその母を支えている

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「贈与」と名付けられて救われた自分の感覚【キナリ読書フェス】

「贈与」と名付けられて救われた自分の感覚【キナリ読書フェス】

「贈与」という単語から連想したのは、経済的な話とか相続云々の話とかで、あまり縁のない世界かなとか思ってしまった。

今回、本著がキナリ読書フェスの課題図書にならなかったら、手に取ることはなかったかもしれない。

だから、キナリ読書フェスとこの本を課題図書に指定した岸田奈美さんにはすごく感謝している。
この本が、私がぼんやりと抱えていた自分の感覚の違和感を解消し、救ってくれたからだ。

「恩返しより

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いらんけど面白いんじゃなくて、面白いためにいるんだぜ【キナリ読書フェス後出し】

いらんけど面白いんじゃなくて、面白いためにいるんだぜ【キナリ読書フェス後出し】

キナリ読書フェスの課題図書にならずとも読まねばならなかった必須本。
それは、もちろん、主催者・岸田奈美さん著「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」

noteのエッセイの大ファンなので、大満足するのはわかってる。

それでもそんな読前の期待を、セルゲイ・ブブカもびっくりの飛び越えっぷりで軽々と越える満足感だった。

内容が素晴らしいのはあえて置いといて、岸田奈美さんの文章を面白くす

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呼応する母と子の物語

呼応する母と子の物語

noteでご活躍の岸田奈美さんが初の書籍を上梓されると知って、合わせて買いたい!と思って手にしたのが、母である岸田ひろ実さんが上梓された「ママ、死にたいなら死んでもいいよ」でした。

本のタイトルになった逸話は岸田奈美さんのエッセイでも知っていましたが、改めて読むと大病を患って抱いた将来に対する悲観を、母として、親としていかに乗り越えて今があるのかが母の視点で語られていて、親目線で感じるもの、響く

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書くことの意味

書くことの意味

岸田奈美さんの「もうあかんわ日記」を読み終わった。

読みながら、そして読み終わって、内容そのもの以上に、“書くこと”の意味に思いが拡がっていった。

なぜ、ボクはnoteに文章を綴るのか。

岸田奈美さんは、自分の身に起こる悲劇を喜劇にするために書いた。

いわば、悲劇性を文章化して人目に触れさせることで、咀嚼して消化して、そこにある喜劇性を生み出し、一種のエンタメとして昇華するということだと解

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フィクションに求めていたもの

フィクションに求めていたもの

岸田奈美さん主催で昨年開催された、 #キナリ読書フェス

5冊の課題図書全てを入手して臨むも、フェスに間に合ったのは、高校生から持っていた「銀河鉄道の夜」と、フェスきっかけで手に取った「世界は贈与でできている」だった。

残された3冊のうち、主催者・岸田奈美さんの「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」はフェス後すぐ読んだが、「くまの子ウーフ」と「さくら」は残ってしまった。

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目指せ、スリムなノーティスト

目指せ、スリムなノーティスト

note連続投稿で文章力を磨かんと意気込む上で、文章力を高めるためのインプットは欠かせない。

今回のこちらも、そのために手に取ったし、大変有意義だった。

意識しないと、というか、意識がズレる余計な言葉が増えるというとは、何となく実感しているのだけど、改めて解説を受けると納得が深まる。

そもそも、この本自体がとても読みやすいので、そこも説得力がある。

文例を用いた解説がわかりやすい。

時折

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親の来し方を想う

親の来し方を想う

村上春樹『猫を棄てる』を読んだ。

戦争に翻弄された時間を胸にしまって生きる父。

その父の人生を記憶と記録を辿って綴る息子。

時空を超えた親子の結び付き。

強過ぎず、弱過ぎず、か細くも切れることのない、糸。

親の過去を受け継いで、今の自分がいる。
どういう形であれ、それは揺るがぬ事実。

それをどう受け止めて今を生きるか。
そしてそれをどう子に繋ぐか。

村上春樹さんがしたようにはできない

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出会いと出会い直し

出会いと出会い直し

今週はこちらを読んだ。

著者のじろまるいずみさんと出会ったのは何年前だろう?
今となってはきっかけも思い出せないけど。

なんて書くと、まるでじろまるさんと面識があるかのようだが、一切面識はない。

Twitter上でアカウントを知ってフォローし、ずっとツイートを追ってきた。
ただそれだけだ。相互フォローですらない。

にもかかわらず、私はじろまるさんに出会ったという感覚を拭えない。

すぐ近く

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「会って、話すこと。」が贅沢な今だからこそ、「会って、話すこと」を問い直す

「会って、話すこと。」が贅沢な今だからこそ、「会って、話すこと」を問い直す

「会って、話すこと。」(田中泰延・著)を読んだ。

なんなら2回読んだ。

前著「読みたいことを、書けばいい。」も何回でも読みたい本だが、本著はさらに何回でも読みたい本である。

会話術の本である。

いや、そう見せかけて、違う。

会話“術”という表面的なハウツーとは全く違う。

本著を通して、ユーモアとジョークを端折って伝わって来るのは、相手とどう向き合うかということだ。

会話である以前の、

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