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いらんけど面白いんじゃなくて、面白いためにいるんだぜ【キナリ読書フェス後出し】

キナリ読書フェスの課題図書にならずとも読まねばならなかった必須本。
それは、もちろん、主催者・岸田奈美さん著「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」

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noteのエッセイの大ファンなので、大満足するのはわかってる。

それでもそんな読前の期待を、セルゲイ・ブブカもびっくりの飛び越えっぷりで軽々と越える満足感だった。

内容が素晴らしいのはあえて置いといて、岸田奈美さんの文章を面白くするポイントを重箱の隅を爪楊枝でつつくようにほじくりたい。

いやね、ボクがほじくらなくても読者はみんな気付いてると思う。

岸田奈美さんの文章が面白いのは、一見するといらんような小ネタが仕込まれているからだ(失礼な断言!)。

良太の表情はびくともしない。姉のユーモアが、かっぱ寿司のすし特急のようにだだすべりしていく。
(弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった)

ここですし特急が通過するセンス。

どんだけ心配なんだ。たぶん、藤岡弘探検隊の類いだと思われている。
めんどうなので、オオアリクイと死闘していることにしようと思った。
(奈美にできることはまだあるかい)

岸田奈美さんにかかれば、藤岡弘探検隊さえ仲間である。なぜにオオアリクイ?てか、昭和生まれか。

話したいことが、売れる前の五木ひろしの名前並にコロコロ変わる。
(どん底まで落ちたら、世界規模で輝いた)

岸田奈美昭和生まれ疑惑2。

奇怪な状況すぎるので、実の親であろうとも迷いなく他人のフリをした。全力で演じまくった。演技などしたことがなかったわたしが、ミャンマーの地で、倍賞千恵子を彷彿とさせる名女優になった。
(ミャンマーで、オカンがぬすまれた)

岸田奈美昭和生まれ疑惑3。

わたしと母が沖縄に行く術はGoogle検索では見つからなかったのだ。というわけで、すがる思いで旅行代理店の門をたたいた。実際には自動ドアだったけど。
(Google検索では、見つからなかった旅)

自動ドアだとたたく前に開いちゃうよぉ(別府ちゃーん)

なんていうか。そびえ立ってるっていうか。
幼稚園児の列にならぶ、安岡力也っていうか。
(先見の明をもちすぎる父がくれたもの)

地元・深川の祭では有名人だった安岡力也。神輿を担ぐ屈強なオッサンの中にあってもそびえ立ってたのに、幼稚園児とは。岸田奈美昭和生まれ疑惑は確信へ。

すごい。めちゃくちゃカッコいい。
眩しい。直視できない。目で見るタイプの点滴だった。
ポタポタ、じゃなくて、点滴の袋を力の限り、押ししぼられてる感じ。ギュウウッ。急患はここだ。
(櫻井翔さんで足がつった)

「目で見るタイプの点滴」までは聞いたことあるげだけど、次の文の畳み掛けがすごい。三者連続ホームランでサヨナラコールド勝ちの勢い。

そんな折、さらなる「渡りに船」の情報を入手した。どれくらいの船かというと、プール・カジノ付きの20階建て豪華客船レベルだった。「渡りに豪華船」といっても過言ではない。
(よい大人ではなかった、よい先生)

渡りに船の船を語ることで続く文章への期待を高めるという高レベルのテクニック。

この連載はめちゃくちゃいい。なにがいいって、幡野さんの答えには、うそも期待もない。ただ思ったことがそのまま書かれている。これはいい。読後の心の軽やかさたるや、元大相撲力士・琴欧洲のブログに匹敵する。
(選び続ける勇気)

突然の力士っ!(CV:粗品)
幡野広志さんの連載を褒めながら琴欧洲のブログを宣伝する離れ業(違)

「アホちゃうか」
父のくちぐせだった。それだけで、賞賛も、憤怒も、悲哀も、ありとあらゆる感情が表せるといっていた。ミツカンのめんつゆに匹敵する万能さである。
(家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった)

ステマ!(CV:粗品)
じゃないのはわかってるけど、ミツカンのめんつゆを使いたくなる流麗な文章だ。

一見「いらん文章」に見えなくもない。
実際、他の表現に代えたり、モノによっては無くしても意味は通る。
意味が通るだけではなく、それでも十分面白い。

でもあえて入れる。

それはセンスと勇気だと思う。

センスの源は、岸田奈美さんの圧倒的な吸収力だと思う。
吸わせるテンプルもビックリの吸収力で森羅万象隅から隅まで取り込んでいなければ、ここまで当意即妙でかつ高センスの一文は浮かばない。

そして、浮かんだ一文を絶妙な位置にハメ込む勇気。
結局のところ、浮かんだ一文を活かしているのは勇気が100%だ。ジャニーズのアイドルグループが綿々と歌い継ぐに違いない。

筆で飯食う生活に憧れる自分にとっては、お手本であり、目標であり、指標である。
我が文章にとっての北極星なのだ。

というわけで、岸田奈美さんにこれからも注目だしついて行きます。

余談だけど、岸田奈美さんはなんとなくフルネームになっちゃう。
岸田さんだとよそよそしげで、奈美さんだと近すぎる。
岸田さんだと、ひろ実さんか良太さんかわからないというのもある(のか?)

なので、しばらくは岸田奈美さんでお願いします。
…誰に、何をお願いしてんだか。

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