おっかしいなぁ~。

開口一番にそう発してしまう。

なぜなら、いつも通っている道のはずなのに、迷ってしまった。

今日は仕事が早く終わったので、どこも寄らずに家に向かっている最中だった。

居酒屋とかに飲みに行く趣味はない、言うなれば、家でのんびりしたい。

そのはずが、今道に迷っている。

なんだよ~、家に帰って買ったばかりのゲームやりたいのに。

普通に歩いていた足が徐々に速くなる。


はぁ…はぁ…はぁ…………。


疲れてしまって道の端に腰を下ろす。

空を見上げると、青のような、紫のような、オレンジのような色の空へと変わっていた。

段々と落ち着いてきて、冷静になると周りを見渡す。

見ると、辺りはブロック塀ばかり、地面もアスファルトではなく土が剥き出した道だ。

耳を傾けると、どこからか賑やかな音がする。

音の方へ向かうと、商店街に出た。

ーーーーが、様子が違う。

なんというか、建物の感じが昭和の…そう、レトロな感じであった。

歩いている人もなんだか古いというか、何というか…。

キョロキョロしていると不思議と目があったお婆さんに話しかける。

すみません、ここってどこだが教えてもらえませんか?

あらぁ、道にでも迷ったのかい?

ええ、そのようなんです。

大丈夫ですよぉ、もう、道に迷うことなんてないんだから。

どういうことです?

なんも心配しないでゆっくり時間に身を任せれば、あの夕日が少しずつ、少しずつ、嫌な思い出を洗い流してくれるさ。

ちょちょちょっと待ってください。

わかりやすく説明してください、どういうことなんです?

ここは、あの世に行く前の洗濯場みたいなものさ。

善人、悪人、関係なしに思い出をあの夕日が全て洗い流す。

んで、きれいさっぱりになったら、あの道を通るんじゃ。

お婆さんの指さす方へ視線を移すと、深く生い茂った森の真ん中に荒れたアスファルトの道が通っている。

って言うことは、ここは…。

ここは、死んだ人の町じゃ。

俺は少しの間、放心していた。

俺は死んだのか!?

ありえない、だって、ただ帰りの途中で近道を通っていただけだ。

お婆さん!俺は、俺は死んでいないんだ!

ん?いやいや、それはありえませんよ。

さっきも言ったけど、ここは死なないと来れない町なんですよ。

でも、それが本当だったら困りましたね。

貴方はこの夕日に全ての思い出を洗い流されてしまって、まっさらなままあの森を通ることになりますよ。

嫌だ、嫌だ!!何か方法は無いのですか。

さぁ…?

俺は深く肩を落とした。

お婆さんに礼を言ってあてもなく歩き出す。

俺はふと土埃の道に近くにあった枝でまず、彼女の名前を書こうとした。

俺は愕然とする。

書けないのだ。

両親の名前を書こうとした。

全く書けなかった。

あ……あ…。

言葉にならなかった。

眼の前が霞む、涙が止まらなくなった。

地面へ恐怖と焦りと無念さが詰まった雫が落ちて一部が湿る。

だが、泣いていても仕方あるまい、顔を上げて立ち上がると、目の前に神社が佇んでいた。

俺は何を思ったのか、境内へ入る。

そして罰当たりにも神社の神様を祀る建物の扉を開いた。

中には大きな丸い鏡が祀られていた。

すると次第に強い光を帯びて俺は余りの眩しさに手で顔を覆った。

気が付くと、俺はビルとビルの間の道に立っていた。

ハッと我に返ると周りを見た。

いつもの光景だ。

戻って来れたんだ。

俺はホッと胸を撫で下ろして逃げるようにその場から去っていった。



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