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葉枝幹根

 文章術の本を読んでいると、よく「起承転結」という説明に遭遇する。どの本にも、「起」は文章内容への導入を、「承」は導入からの展開を、「転」は展開からの転換を、「結」は結果や結論を示す、と、概ねこのような説明が載っているのだが、どうもこの説明には親近感が持てない。もともと漢詩の指導用だったこともあってか、「起承転結」の、それぞれの漢字と説明内容のつながりを理解することがムズい !? のだ。
 
 しかし、この「起承転結」形式は、本当に多くの指導書で遭遇するので、他に、もう少し分かりやすくて、親しみやすい形式はないものかと思っていたところ、『うる星やつら』のラムちゃんにそっくりな雑文の女神から、「他力本願じゃダメ。コトリンの創造力で、新しい形式を生むだっちゃ♡ 」と、まっすぐな目で、たしなめられてしまった。
 そこでオイラも、雑文家の端っことして、もとい、端くれとして、この問題と格闘したところ、新たに「古鳥式文章術[完結編]」を考案することができたので、ここに公開する。少し漢字が多いが、YOU なら大丈夫。

1.「葉枝幹根《ようしかんこん》」形式
 「起承転結」形式に最も近く、その他すべての形式の基礎となるものである。以下、音楽のソナタ形式の用語を借りて説明する。
 「葉枝幹根」形式は、樹木の構造を参考に考案したものである。「葉」が題名と提示部を、「枝」が展開部を、「幹」が主題部を、「根」が終結部を、それぞれ示し、「幹」の部分が美メロになるほど中毒性が増す。
 また、師管や導管を通る水の流れを想像しながら文章を書くことで、言葉が光合成のように生まれ、創作過程を円滑にする。そして、頭の中に緑の葉でいっぱいの樹が見えたら、それが完成の合図である。

2.「魚」形式
 短編作品などの創作に最適な形式である。
 これは、魚の構造を参考に考案したものである。「頭長」が題名と提示部を、「躯幹」が主題部を、「ひれ(背びれ・胸びれ・腹びれ・尻びれ・尾びれ)」と「尾部」が、話の尾ひれを、それぞれ示す。「躯幹」はさらに、「中とろ部」「大とろ部」「中落ち部」に分かれ、読者の嗜好に合わせた文章づくりを容易にする。
 また、各「ひれ」に、ストーリーを推進する様々な小エピソードを配置することで、文章がバサロキックをしているかのように躍動感のあるものに仕上がる。この形式も、頭の中に海中をウオーッと泳ぎ回る魚が見えたら、それが完成の合図である。

3.「ヒト(動物)」形式
 大衆娯楽作品などの創作に最適な形式である。
 これは、人体の構造を参考に考案したものである。「頭」が題名と提示部を、「上肢(腕)」と「下肢(脚)」が展開部を、「体幹(胴体)」が主題部を、「骨盤(臀部)」は終ケツ部を、それぞれ示す。「上肢・下肢」では、利き手・利き足の設定で、エピソード内容の重みづけをすることが可能である。
 「骨盤」ではさらに、「恥部および秘部」として、読者の覗き見的な好奇心を充たす赤面エピソードを配置することができる。しかし、文章の品位との兼ね合いに慎重を期さねばならないので、「チューするときの(中略)がクセになっている」(拙作『チュウ厨』)とか、「トイレに行って座ったら(中略)ウニュ~」(同『パゴウパ』)などという話には注意が必要だ。
 また、「頭部」にも、「目部」「眉部」「鼻部」「口部」「耳部」などの小区分があり、タイトルや導入部分で五感を刺激するような工夫が可能である。この形式でも、頭の中に成長期を過ぎた全裸のオトナが見えたら、それが完成の合図である。

4.「昆虫」形式
 長編作品などの創作に最適な形式である。
 これは昆虫の構造を参考に考案したものである。「頭部」が題名と提示部を、「脚部」が展開部を、「胸部」が主題部を、「腹部」が終結部を、それぞれ示す。
 「脚部」はさらに、左右1対の「前脚部」「中脚部」「後脚部」に分かれ、全6脚分の展開パターンを設定することができる。さらに、その大きさや形に着目すると、カマキリのような前脚なら猟奇的でスリリングな場面を、バッタのような後脚ならストーリーを大きく跳躍させる場面を、などと、描き分けることができる。
 また、他の形式にはない「翅部《しぶ》[羽]」は、「前翅部」「後翅部」とに分かれる。「翅部」では、左右1対の前・後翅により、4翅分の場面を設定することができる。「羽」は飛ぶためにあるので、バッタの後脚に配置した場面よりも大きな飛躍を狙う場合に最適だ。この形式でもまた、頭の中に変態を終えた蝶々が見えたら、それが完成の合図である。
 
おわりに
 以上、4つの形式の紹介を終わるが、最後に、「生き物」の形式について共通する原則を説明しておく。
 生き物には、走る能力、飛ぶ能力、擬態する能力など、様々な能力があるが、どの能力においてもナンバーワンという生き物はなく、各々が、自分の得意分野の能力を伸ばして生き残っている。このことから、どの形式を使うにしろ、常にその文章の長所を生かすようにして書くということを忘れてはならない。
 そもそも、テーマ、構成、文法、句読点の位置、言葉の選択、人物描写、心理描写、情景描写などの、すべてが完璧な文章など存在しゅるだろうか ?
 だから、創作に行き詰まったときは、生き物の姿を思い出そう 。
 
 なお、これらの形式では物足りないという人には、「葉枝幹根」形式、「魚」形式、「ヒト(動物)」形式、「昆虫」形式のすべてを統合した、「生物多様性」形式の活用をお勧めする。
 ちなみにオイラは、「単細胞生物」形式(非売品)を絶賛活用中なので、今、頭の中にアメーバたちが、ウニャウニャしている。




▬ 恥部です。


▬ 
秘部です。


▬ 文章が書けないときの慰めに・・・。


Ⓒ2021  Namio Kotori 


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