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パゴウパ ー 秘密の隧道 ー

 「消化管は体の内側になるのか、外側になるのか、どちらだと思いますか?」
 これは昔、内科学の先生が講義中に生徒に尋ねた質問である。
 
 消化管とは、口から肛門までにある臓器などの総称で、食べ物を食べてから排泄するまでに関わる部分である。消化管には、口を先頭に、食道、胃、小腸(十二指腸・空腸・回腸)、大腸(盲腸、結腸、直腸)、肛門があり、名前の通り管状の構造でできている。
 この消化管をホースに見立てたときに、その内側は体の中なのか、外なのか、先生はそういうことを聞かれたのである。

 質問の意味がすぐに理解できた生徒たちは「外だと思います」などと答え、先生も「そうです、外なんです」と、すこし嬉しそうにその理由を説明していた。だが、理解できなかった生徒たちは「どうしてかなぁ」と怪訝そうな顔をしていた。
 たしかに、迷うところがある。というのも、スタート地点である「口」は、ホースに例えると先端部にあたり、通常は空洞が外界と通じているわけだが、ここをクリップか何かで挟むと空洞が閉じられて、外界と遮断されることになる。つまり、外界とつながっていた空洞(外)が、外界と遮断された空洞(内)へと変わることになる。
 人間の「口」だと、唇を開いているときの口の中は「外側」で、閉じているときの口の中は「内側」ということになる。

 というわけで、消化管が、体の「内側」なのか、「外側」なのかは、口の開閉状態によって変わるのではないか、と、思うのである。そうなると、ホースのもう一方の端のことも気になってくる。つまり、肛門である。「口」のときと同様に考えていくと、肛門が閉じているときの直腸粘膜は「内側」であり、開いているときの直腸粘膜は「外側」である。だから、人間の消化管が、体の「外側」になっているときというのは、口を開けていて、かつ、肛門が開いているとき、なのだ。わかりやすく言うと、消化管が口から肛門を貫くトンネルになっているということである。

 この状態にするのはとても簡単で、排便中に口を開くだけでいいのである。「私の消化管は今、完全に体の外側になっている」という、常人には理解され得ない満足感を味わえること間違いなしである。
 ただ、より厳密に言えば、排便中は肛門が開いているとはいえ、それはまだ、便が肛門をふさいでいる状態であり、直腸粘膜は外界とは通じていない。なので、ここは一応、形だけは「開いている」ということで、ひとつご容赦願いたい。もし、さらなる正確性を求めるということであれば、肛門鏡の使用をお勧めする。

 と、ここまでオイラなりに、「人生で大切なことの、下から数えたほうが早い話」をしたつもりなのだが、実は、排便中もしくは肛門鏡の使用中に口を開いたとしても、消化管は体の外側になっていないということに気づいてしまった。胃の存在を忘れていたのだ。いや、噴門と幽門と言ったほうがいいか。説明すると、噴門は、食道と胃のつなぎ目にある・・・、幽門は、胃と十二指腸のつなぎ目にある、それぞれ、管の開閉を行う部位の名称である。

 噴門は、食べたものが食道を通過し胃に入るときに開き、それ以外のときは、胃酸が逆流しないように閉じている。
 幽門は、胃で粥状になった食べ物が十二指腸に送られるときに開き、胃が空になるまでの3~5時間は開いているが、それ以外のときは、やはり胃酸が十二指腸に流れていかないように閉じている。
 だから、この2つのどちらかが閉じていたら、もう消化管はトンネルではなくなってしまうのだ。ではどうするか。噴門と幽門が開いているときに、先ほどと同じことをすればいいのである。

 さぁ、これで消化管を限りなくトンネルの状態に近づける準備は整った。    
 食後3~5時間のあいだにトイレに行って座ったら、おやつをパクッと口に入れ、ゴクンと飲み込んで、そうして、ウニュ~と便を出そう。そして、便が途切れないうちに、急いで口をパカッと開けよう。鯉がエサを食べるときのようにだ。
 恐らく、これで消化管にある開閉部分がすべて開いた状態になるはずだ。
 大切なのはリズム。

 パクッ、ゴクン、ウニュ~、パカッ。
 パクッ、ゴクン、ウニュ~、パカッ。 

 「ウニュ~」のとこは、レガートね~。※

 (参考)手順をはやく覚えたい人は、「パゴウパ」と覚えよう。




※ 隧道   :すいどう、ずいどう、トンネル
※ レガート :(音楽用語)なめらかに演奏すること


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Ⓒ2021  Namio Kotori 


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