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むるめ辞典–日々−

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むるめ辞典

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雑文を書いていたら力のある漢字の並び(熟語)を見つけました。

いろいろ書き出してみたら楽しくて、ところどころに故・和田誠さんの著書 「ことばのこばこ」を思い起こすところがあります。

面白い絵本ですから心に残るものがあったみたいです。

■風化

[読]ふうか

風と化す

[例文]

恥ずかしい思い出も風と化しました。

■光線

[読]こうせん

光の線

[例文]

敷かれたレールには乗り

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悪馬

[読]あくば

悪い馬

[例文]
子供用のおもちゃ売り場で娘が遊んでいると、髪の長い上品な少女がフラッと近くにやってきた。

私は娘のすぐ後ろに立っていたので、その少女がラルフローレンの馬の絵のかかれた靴の踵の部分で娘の足をグッと踏んづけたのを見た。娘はパッと足を一歩引いた。

それでその少女はこちらを一度も見ずに娘がいた場所にグイッと入り込んで遊び始めた。子供も大人もやることは一緒だな

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■取手

[読]とって

ティファールのような余生

[例文]

手にフライパンを持って、口の端が片一方だけ大きく広がった、特徴のある笑顔で台所にたつ母の写真があった。

写真の中では、赤いセーターを着た母を陽の光がよい加減で明るく健康的に写していて、取手がとれるティファール社製のオレンジ色の大ぶりなフライパンが火加減よく魚を煮ていた。

離婚だなんだと普段言っていても、必要なときに手をとっていれ

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■脂肪

[読]しぼう

こびりついて剥がせない

[例文]

両親は弟の高校卒業を待って離婚する。

お互いに自分の後ろめたさを認められずに相手を憎いことにしておいて、こびりついて落ちない脂肪のような怒りの塊を剥がすことができないでいる。

両親は知らない。早く別れればいいのにと弟も私も思っていることを。

両親は知らない。怒りも脂肪もトレーニングで落とせることを。

私は想像する。両親の感情と

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■通過

[読]つうか

通り過ぎる

[例文]
母の迎えを待っていた。灯りの少ない二階の駐車場に座って、向こうにみえる国道から、こっちに向かってくる車のライトを数えながら弟と二人、あと何台の車が通り過ぎるだけ待つのかしらと話していた。

時間は、長さを感じさせるように伸びていくもんなんだなと、この時に初めて知った。

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■臍繰

[読]へそくり

臍に繰りこんだカメラ

[例文]
父が高いカメラを買ってきたのを不審に思った母が父のヘソクリの嘘を暴いたとき、闇より黒い心の暗室にお互いを引きずり込もうと致命的な言葉を投げつけあった。

それから父のレンズの中に母はいなくなる。アルバムに母の写真は少しずつ少なくなっていった。

うん、お金のトラブルには気をつけよう。親もただの人だという話。

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■内緒

[読]ないしょ

内に緒を結ぶ

[例文]
我が家では少しだけ器量の劣った犬を飼っている。恨めしい目つきをしたパグだ。角度によってはこの世じゃないところを睨んでいるような顔つきをする。

その犬を抱いた母の写真がある。母の方がいくらかブサイクなのは内緒の話だけど、明るい笑顔が眩しい良い写真だ。遺影にいいかもしれない。

お見せできないのが残念だけど、人様に見せるようなものでもないので、ア

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■病気

[読]びょうき

病は気から

[例文]
長女が生まれたその年に、母に乳癌が見つかった。入れ替わりという文字が胃の下の方から薄い狼煙みたいに立ち昇ってくる。

いつかは死ぬもんなと、頭ではわかっていても、不安の煙が口から漏れ続ける日がしばらく続いた。

このままでは私だって病気になってしまうんじゃないかと思った。

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■効率

[読]こうりつ

効果を率いる人たち

[例文]

効果を出そうと無駄を省く時代に突入した。どんどん心は失われて、大気圏で燃え尽きる人が続出する。

この時代を率いるのは、悪の大王でも独裁者でもない。金と便利に目の眩んだそこらにいる大人たちだ。私だってその一員だ。

メーデーメーデーまもなく大気圏に突入します。メーデーメーデーまもなくです。

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■生涯

[読]しょうがい

生まれて涯てまで

[例文]
正解にこだわった効率的な仕事に生きていくつもりだったけど涯てがみえないのでやめることにした。空気の中にピリッとした人をやる気にさせるものことについて考えている。今のところ旅行くらいしか思いつかない。できるだけ常識とかけ離れた場所のことを考える。カチコチの南極とか。

でもわざわざ旅行に行かずにすむかもしれない。いずれにしても、私は生き方を

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■当然

[読]とうぜん

当たり前

[例文]
いつか家名のもつ意味が廃れ、世間の基徳は教育にとってかわった。そこから続く、しがらみの絡んだ複雑な仕組みに、うんざりしつつも慣れてしまった私は、当たり前な顔をして子供を学校に通わせている。

うちの子は学校に行きたくないという。
tvでは貧困に苦しむ子供が教育に夢見ている。子供たちを失望させないためにできることはないか、子を持つ親としての責任はなに

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■渾名

[読]あだな

子供の自由な発想にケチつけることほど、貧相なことはないでしょう

[例文]
近所に「まーくん」が二人いて、ややこしいからどっちか一人は2号にしよう、ということになった。

どうやって決めたか覚えてないけど、小太りのほうが「まーくん」を踏襲した。細長いほうは「まーくん2」になり、いつしかちぢんで「マークⅡ」になった。なので野球の田中選手は僕の中では「まーくん3」であり「幻の

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■浴槽

[読]よくそう

よくそういうことが言えるな

[例文]
浴槽には2種類ある。
保温機能のある浴槽と、ない浴槽だ。
もちろん値段も違う。

うちの家族は風呂上がりに誰も蓋を閉めない。何回注意しても閉めない。

それで保温機能のある浴槽が欲しいなんて、ちゃんちゃらオカシイ。よくそういうことが言えるなと思いませんか?

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■背景

[読]はいけい

うしろに透けてみえるもの

[例文]

心を燃やして会社を興した人間が、若者の心を削って体力を貪り、資本を大きくしようとしている。

自由を奪われていると考えてみると、戦争の仕組みと何が違うのか、果たしてわからない。