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むるめ辞典

悪馬

[読]あくば

悪い馬

[例文]
子供用のおもちゃ売り場で娘が遊んでいると、髪の長い上品な少女がフラッと近くにやってきた。

私は娘のすぐ後ろに立っていたので、その少女がラルフローレンの馬の絵のかかれた靴の踵の部分で娘の足をグッと踏んづけたのを見た。娘はパッと足を一歩引いた。

それでその少女はこちらを一度も見ずに娘がいた場所にグイッと入り込んで遊び始めた。子供も大人もやることは一緒だな、と少し暗い気持ちになりながら私は妙に感心した。

身勝手で意地の悪い人と上手に付き合うためには、全く無視するか、自分も身勝手になるか。娘は前者を選んだ。

何事もなかったかのように違う場所で遊び始めた娘は、しばらくすると私を呼んで「みて!これかわいいよ」と言って笑った。

穏やかで怖がりな娘の、雲間から覗く太陽みたいな笑顔に差されると、それに傷をつけたくないな、という気持ちになる。

意地の悪い馬の一瞬の悪意に踏みつけられた程度では娘の笑顔に傷はつかなかった。それで私の気持ちも少し晴れた。

サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。