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モラトリアム【オリジナルSS】
モラトリアム
ようやく解放される、寂しさよりもそんな安堵感が勝っていた。
今日も彼は誰よりも早く出社していた。悟られないよう挨拶は軽めに、彼が用意したコーヒーを啜りながらメールを確認する。これが日課になっていた。たまに話しかけられるほとんど他愛のない世間話に、私はまた悟られないように適当に合わせ、そのうちに他の社員が出社してくる。これもあと一週間で終わる。
彼は本社からの出向社員として二年前に
Revive【オリジナルSS】
Revive
睡眠時間は30分も取れていない。壁の時計を見るといよいよ植物が生え始め、足の踏み場もないこの部屋には妙な一体感すら感じるほどだ。私はベッドの上から動かず、天井や壁から聞こえてくる言葉を遮るように両手で両耳を塞ぐのだが、ボリュームは変わらず話しかけてくるからどうしていいものだかわからない。
「お前はどうしようもないやつだな。」
部屋中が笑う。
「お前を監視してるんだよ。
篠突く雨【オリジナルSS】
篠突く雨
バスを降りるのが憂鬱で仕方ない。窓に小さな雨粒がつき始めて、傘を忘れたことを思い出したが、もうどうでも良かった。21時、乗客は多くなく、皆一様に疲れているように見えたが、この中で一番暗い自分の顔が窓にぼんやり映った。どこで間違えたんだろう。そんなことを考えていると、バスはあっという間に終着点に着いた。
バスを降りると彼が待っていた。
「傘、忘れてったろ。」
小雨の降る中、右手で傘