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フリー台本(オリジナルSS)

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オリジナルSSまとめ。 フリー台本としてお使い頂けます。 5〜10分ほどで読めます。
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記事一覧

Get back 35years【オリジナルSS】

Get back 35years


3月になったのでカレンダーを捲ると、すでに予定が書き込まれていた。よく見ると、破いた2月にも週1〜2回、予定が入っている。そういえば、母はここ3年くらいでずいぶん外出するようになった。今もいそいそと、出かける支度をしている母の元へ行くと、

「今日ジャズ聞きにいってくるから。」

と首元に小花柄のストールを巻きながら、母は言う。

「ジャズって、いつも

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モラトリアム【オリジナルSS】

モラトリアム

ようやく解放される、寂しさよりもそんな安堵感が勝っていた。
今日も彼は誰よりも早く出社していた。悟られないよう挨拶は軽めに、彼が用意したコーヒーを啜りながらメールを確認する。これが日課になっていた。たまに話しかけられるほとんど他愛のない世間話に、私はまた悟られないように適当に合わせ、そのうちに他の社員が出社してくる。これもあと一週間で終わる。

彼は本社からの出向社員として二年前に

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三文小説【オリジナルSS】

三文小説

「2021年2月19日金曜日に撮っています。驚いた?びっくりしてる?初七日終わったら、お姉ちゃんからヒロキにこの動画送るようにお願いしました。メイクもね、あ、ウィッグも、お姉ちゃんがやってくれました。おかしくないかな?出会った頃はこのくらいの髪の長さだったよね。懐かしいなって思ってます。えっと、ヒロキに伝えたいことがあってこうやって動画を撮っています。・・・今ヒロキはどんな表情してるの

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Birthday Myao【オリジナルSS】

Birthday Myao

今日のご主人は忙しない。部屋の中を行ったり来たり、大嫌いな掃除機をかけた上にコロコロをし、ああでもないこうでもないと言いながら片付けをしている。私は安眠を妨げられなければ問題はないが、やや落ち着かない。

「ちょっとお邪魔しますにゃ」

安眠を妨げる要因のひとつ、新参のこいつ。

「入ってくるにゃ!ここは私の場所にゃ!」

「まあまあ、姉貴。そう言わずに。」

コタツ

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とある質屋の話【オリジナルSS】

とある質屋の話

ここはとある質屋。毎日代わる代わる品物が預けられていく。今日もまた一つ、新たな指輪がショーケースの中にやってきた。

「いらっしゃい。立派なダイヤモンドねぇ。」

「なんなんですかここ・・・私こんなところ嫌!」

初めはみんな口を揃えてこう言うのだ。だってみんな綺麗で高級で扱われてきたジュエリーたちだったから。

「まぁすぐ慣れるわよ。運が良ければ出られるし。」

幸せ

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Revive【オリジナルSS】

Revive

睡眠時間は30分も取れていない。壁の時計を見るといよいよ植物が生え始め、足の踏み場もないこの部屋には妙な一体感すら感じるほどだ。私はベッドの上から動かず、天井や壁から聞こえてくる言葉を遮るように両手で両耳を塞ぐのだが、ボリュームは変わらず話しかけてくるからどうしていいものだかわからない。

「お前はどうしようもないやつだな。」

部屋中が笑う。

「お前を監視してるんだよ。

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地球最後の日【オリジナルSS】

地球最後の日

うだるような暑さで目が覚めた。時計は8時を30分ほど過ぎたところをさしている。ここ数日ぐっすり眠る、ということは出来ていない。起き上がりキッチンへ向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してパンジー柄のグラスに注ぐ。あの人がプレゼントでくれたお気に入りのレトロなグラスを見つめ、「今日はどう過ごそうか」について考えようと思ったが、やめにして喉を潤す。日に日にひどい暑さになってきて

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夕立に消える【オリジナルSS】

夕立に消える

夏休みも残り少なくなる頃にはすっかり日常に飽きていた。僕はゲームはそんなに好きじゃないし、外でサッカーするようなタイプでもない。宿題はもちろん夏休みが始まってすぐに終わらせ、読みたい本は全部読んだし、観たかった映画も観終えてしまった。数少ない友達からも「お前つまんないな」なんて、冗談なのか本気なのかわからない言葉を投げかけられる。つまらない、確かに僕自身でもそう思う。中学2年の夏休

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真っ白【オリジナルSS】

真っ白

「お世話に、なりました。」

「・・・またいつでも戻ってこい。」

今日で夢が終わる。5年所属した事務所で挨拶を済ませると、もう涙は出なかった。ずっと悩んで、でも諦めきれなくて縋りついていた女優になる夢は、今日で終わったのだ。ビルを出ると天気はずいぶん気持ちの良い晴れ模様、風はない。これからのことを考えなければならないから、感傷に浸る暇もない。今の私は無職、職歴もない。人混みのざわめきが

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篠突く雨【オリジナルSS】

篠突く雨

バスを降りるのが憂鬱で仕方ない。窓に小さな雨粒がつき始めて、傘を忘れたことを思い出したが、もうどうでも良かった。21時、乗客は多くなく、皆一様に疲れているように見えたが、この中で一番暗い自分の顔が窓にぼんやり映った。どこで間違えたんだろう。そんなことを考えていると、バスはあっという間に終着点に着いた。

バスを降りると彼が待っていた。

「傘、忘れてったろ。」

小雨の降る中、右手で傘

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さよならエレジー【オリジナルSS】

さよならエレジー

夏の気配が消えかけた涼しい真夜中、スタジオからの帰り道になっている公園を歩いていると揉めている男女の声がした。痴話喧嘩か、と最初はスルーしようとしたが、どうやら様子がおかしいので声の方へ近寄ると、そこにはいかにもガラの悪そうな男2人と、長い髪の女?が声を張り上げている。女は身体に合わないビッグサイズの半袖Tシャツに、これまたダボついたジーンズを履いていて、髪が長くなければ少年の

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月には君が【オリジナルSS】

月には君が

「お月様にはうさぎさんが住んでるんだって!」

随分と元気な妹の声に、僕は思わず呆気に取られた。

「お兄ちゃん、聞いてる?」

「ごめんごめん、うさぎがなんだって?」

「だから、お月様にはうさぎさんが住んでるの!今日メイちゃんが教えてくれたの。」

メイちゃんは妹の元に足繁く通ってくれるクラスメイトだ。うさぎが何よりも大好きな妹に、いつも絵を描いてくれたり、シールやキーホルダーを

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Firewood〜私の恋愛観〜【オリジナルSS】

Firewood〜私の恋愛観〜

みんなどうやって恋愛しているだろう。楽しく幸せな恋愛のさなかで、私はしばしば疑問に思う。

「もしもし?え、声が聴きたかった的な?ちょっと話そうよ。10分だけ!」

今は仕事が忙しい5つ年上の男性と付き合っていて、私が一生懸命に押して押して押してようやく振り向いてくれたのが経緯だ。仕事と息抜きのカメラにしか興味のない彼を押し続けるのはなかなかの苦難だったが、それで

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Balance〜僕の恋愛観〜【オリジナルSS】

Balance〜僕の恋愛観〜

そんなに恋愛に積極的なほうじゃない、むしろ煩わしいものとすら思っている。毎日仕事に追われてはいるが、それでもやりがいはあった。自分の努力がきちんと形になって返ってくるのは仕事のいいところ。だが恋愛はどうだろう。どれだけ愛情を注いでいたとしても、いつか終わるってしまうのなら、恋愛なんてしないほうが時間も無駄にせずに済む。

「…もしもし。うん、起きてた。なんだそれ。…

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