とある質屋の話【オリジナルSS】

とある質屋の話


ここはとある質屋。毎日代わる代わる品物が預けられていく。今日もまた一つ、新たな指輪がショーケースの中にやってきた。

「いらっしゃい。立派なダイヤモンドねぇ。」

「なんなんですかここ・・・私こんなところ嫌!」

初めはみんな口を揃えてこう言うのだ。だってみんな綺麗で高級で扱われてきたジュエリーたちだったから。

「まぁすぐ慣れるわよ。運が良ければ出られるし。」

幸せの象徴、立爪のエンゲージリング。ダイヤモンドは0.5ctはあると見える。

「本当なら結婚式に出る予定だったのに、婚約破棄だなんて・・・うぅ・・・。」

こうやって言って泣き出すことも珍しくはない。磨きあげられたショーケースに大事に大事に並べられ、高揚した表情の男性やカップルの元へ行くのがこの子たち。ただ、そう上手く行くばかりでないのも現実。一転、失望感溢れる顔で持ち込まれ、現金と引き換えにこんな質屋に並べられることだってある。

「あなたは傷もなくて綺麗だからすぐ出られるわよ。」

「・・・あなたは?そんなに大きなエメラルドなのに、どうしてここにいるの?」

「私はデザインが古いし、使いこまれた傷物だからね。でも看板なの。」

そう、私は何十年も、とある女性の手元にいた。持ち主は亡くなってしまい、娘に譲る、孫に譲ると揉め事の一因となり、最終的にここに来た。本来であれば流れてしまってもおかしくはなかったのだけど、「こういう指輪が集まれば」という店主の願いから、ずっとショーケースの真ん中に飾られている。

「あなたプラチナでしょう?綺麗ね。」

「それでもこんなところに連れて来られちゃ意味ないから・・・。」

プラチナのプライドね。自分の傷だらけの18金の台座と思わず比較してしまう。

「だから運が良ければ出られるのよ。買い戻しは珍しくないわ。」

「そうなの!?私、結婚式に出るのが夢なんです!指輪の交換で花嫁の指にはめてもらうの憧れで。」

キラキラと輝くダイヤモンドが夢を語る。

「今の男の人が戻ってくることを祈ってるわ。」

「あなたはここに来て長いんですか?」

「1年前よ。色んな子を見てきたわ。買い戻される子、流れてオークションに出される子、可哀想なのは台座を溶かされる子ね。みんな綺麗なのにね。」

「えぇっ!?」

「プラチナのエンゲージリングはそんなことないから安心して。」

特に私のような古いデザインの金の指輪がそう。傷がなければアンティークとして価値もあっただろうけど、まぁ溶かされないだけまだマシね。新入りの心を落ち着けるのも、運良く看板商品にされた私の使命と思いながら、話を聞いてあげている。


―2週間後―

「ねぇエメラルドさん!みてみて!」

新入りの声で目が覚める。まだ開店時間前だっていうのに、高い声色で話しかけてきた理由を、店内を見てすぐに察した。急かすようにやってきたのは、新入りを質に出した男性と、それに連れ添う女性だった。

「こちらの指輪ですね。思い直されたようで良かったです。」

ショーケースが店主によってあけられ、新入りは取り出された。

「エメラルドさん、ありがとう!私出られるわ!」

「ふふっ、良かったわね。もう戻ってくるんじゃないわよ。」

こうして新入りはリングボックスに入っていき、見事買い戻された。さしずめ何かで喧嘩した勢いで婚約破棄になったが、冷静になって仲直り、といったところだろう。そういうドラマが見れるのも質屋のいいところかもね、なんて思っている。

「あった!おばあちゃんの指輪!」

気がつくと小さな女の子が男性に抱きかかえられ私を指さしている。

「お孫さんに譲られるんですね。良かったです。」

私をショーケースから取り出す優しい店主の声。

「宝物にするの!」

女の子は嬉しそうに私を眺めている。

「良かったね。大事にしてね。」

お世話になったわね。ありがとう。私もまだ運が良いみたい。

ここはとある質屋。毎日色んなドラマがある。


End.


【後書き】

RadioTalk演劇部用に書いた気がします(曖昧)
大好きなジュエリーの話が書きたかったのと、ちょっとファンタジーっぽい雰囲気にしたかったはず。

この作品は著作権フリーです。
朗読、声劇、演劇などに使ってもらえると喜びます。


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