Birthday Myao【オリジナルSS】
Birthday Myao
今日のご主人は忙しない。部屋の中を行ったり来たり、大嫌いな掃除機をかけた上にコロコロをし、ああでもないこうでもないと言いながら片付けをしている。私は安眠を妨げられなければ問題はないが、やや落ち着かない。
「ちょっとお邪魔しますにゃ」
安眠を妨げる要因のひとつ、新参のこいつ。
「入ってくるにゃ!ここは私の場所にゃ!」
「まあまあ、姉貴。そう言わずに。」
コタツへの侵入者に必殺猫パンチをお見舞いし追い出す。今日の私の居場所はこのコタツの中で決まっているんだから仕方ない。
「もー、またケンカしてるの?」
ご主人の声。新参がそれににゃおと返事をしたところで、ピンポーンと音が聞こえた。
「はーい。」
誰か来たようだ。・・・聞き慣れない声がする。
「姉貴、知らにゃい男が登場ですにゃ。」
新参がコタツの外から報告にげんなり。
「私はもうここから出にゃいからにゃ。」
「美味しいもの持ってるかにゃ〜。」
新参はあまりにもお調子者すぎる。食べ物につられるだなんて、私にはない感覚だ。
足音が近づいてくる。ご主人とは違う少し重たい足音だ。すぐ帰るといいのだけど。
「おー、これが噂の猫ちゃんかぁ!・・・あれ?黒猫じゃなかった?」
「黒猫のほうはコタツの中にいるの。人見知りだから出てこないと思うわ。」
「そっか。あ、これワイン買ってきた。冷やしておける?」
「あー・・・うん、あのさ、その前に話あるんだけど・・・。」
ご主人の声のトーンが一気に落ちる。そういえばここ数日ため息が増えていた。嬉しそうに電話したり、ちょっと遅く帰ってきたときはご機嫌だったのに、ある日を境にそれはなくなっていた。
「話?どうしたの。」
「うん・・・。」
嫌な沈黙が流れる。
「彩?どうした?」
「・・・結婚してるんでしょ。」
「え?」
「奥さん!子どももいるでしょ!?」
急にご主人が大きな声を出すからびっくりしてしまった。新参のにゃお〜と情けない声が聞こえた。
「インスタ、見つけたの。奥さんの。」
「・・・人違いじゃない?」
「・・・はぁ。じゃあ見て確認する?」
ご主人が悲しんでいる。この男、悪いやつだ。
「わかった。いやー、参ったな。うん、ごめん。」
「ごめん、って・・・。」
気になって顔だけ出して様子を見るが、少し後悔した。床に座って静かに泣き出したご主人と、男がそれをしゃがんでのぞき込んでいる、悪びれる様子がないのがわかった。動揺すらしていない。
「彩、黙ってたのは本当に悪かった。でもな?うちはもう終わってるんだよ。俺が必要としてるのは彩だけなんだ。」
「・・・っ、うそ・・・」
「嘘じゃないよ。わかってほしい。」
「とりあえず、今日は・・・帰って。」
男は、はぁ、とため息をついてわざとらしく太ももを叩き立ち上がる。
「わかった。今日は帰る。また連絡するから。」
ご主人は泣いて答えない。男が何も言わず部屋を出て行ったのを確認し、私はコタツを出た。ご主人、泣かないで。
「最低な誕生日になっちゃった・・・。」
私を撫でる手は優しい。
「ご主人どうしたにゃー!ご飯食べて元気出すにゃ!」
新参が元気に鳴いている。ごろにゃあお、ごろにゃあお。
それを見てご主人が少し笑った。
「君たちのご飯あげなきゃね。」
ごろにゃあおごろにゃあお。優しい手が私の頭から離れ、そのまま私たちのご飯の用意を始めた。
「ちょっと待ってねー。」
私たち猫にはなにもしてあげることは出来ない。でも今日ばかりは新参の馬鹿みたいな鳴き声が救いになったかも知れない。大きな声で鳴くのは私のガラじゃないから、控えめに言おう。
「みゃおー」
誕生日おめでとうご主人。私たちはいつでもそばにいる。
End.
【後書き】
猫を飼っているので、なんか猫目線の話を書きたいなと思ったんですが、可愛いお話にはできませんでした。フィクションですが、不倫あるあるっぽい男性像になったかと思います。猫と話したい。
この作品は著作権フリーです。
朗読、演劇に使って頂いて構いません。
使用報告があると喜んでごろにゃお。
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