奥野森

「あの湯、この湯」書いてます。 純文学が好きです。 https://www.insta…

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「あの湯、この湯」書いてます。 純文学が好きです。 https://www.instagram.com/mori_okuno/

記事一覧

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「伸びるか、縮むか」 「まァ、そうです」 「なにが」 「それは、まァ、そういうものです。なんですか」 「鼻」 「鼻ですか」 「マスクの中の鼻だよ」 「それが、なんです…

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3年前
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「ぬいぐるみに雑巾を巻いた味」 「いいえ」 「何が」 「そんな味は、こんにゃくの布団に寝ながら滑るようなものです」 「けれど、魚を食って——まるで肉のように……こう…

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3年前
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「伸びるか、縮むか」 「まァ、そうです」 「なにが」 「それは、まァ、そういうものです。なんですか」 「鼻」 「鼻ですか」 「マスクの中の鼻だよ」 「それが、なんです…

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3年前
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「煎餅があるだろう」 「ありました、ありました」 「それが、ぬれ煎餅になったら」 「誰かが、ぬらすでしょう」 「そうだね。それは、横歯さんだよ」 「そんな人が、もう…

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「なんだか、気のせいのようで」 「そういうものです」 「気のせいばかりでもないようだ」 「まァ、そうです」 「だんだん、じっくりと」 「ええ、だんだん」 「もうほとん…

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3年前
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「それまで、いつものように済ましていた奥様」 「まァ。それまで。済ましていました」 「それが受話器を取った途端、人が変わってしまった」 「まァ、それも」 「変に上擦…

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3年前
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「心配で泥棒がやれない」 「いやだなァ」 「邸に忍び込むやいなや、留守にした自宅が急に気になりだすらしい」 「誰ですか」 「心配と言ったって、結局、家の中に盗られて…

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3年前
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「歩いていて」 「ええ、どこでしょう」 「そこにあるから蹴った」 「どこです」 「蹴ったら、蹴れるもんだね」 「まァ、そんなものです」 「何が」 「それは、まァ。だい…

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3年前
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「山にこもるらしいと言うが、どうも」 「誰です」 「山某さん。謙虚をやるらしい」 「謙虚ですか。誰です」 「若いうちは派手で、うるさくて、謙虚なんて考えてみたことも…

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3年前
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「初めから似合うと楽しい」 「そうでしょう」 「だんだん似合っていくのはもっとありがたい」 「それは、まァ」 「メガネや帽子やなんでもかんでも」 「目が慣れていくん…

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3年前
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「どうしたんです」 「いや」 「そんな顔は止めた方がいいです」 「まァ、しかし」 「どうしたんです」 「思ったことが全部、もう誰かに思われている気がするんだ」 「そん…

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3年前
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「思い出なんて寂しいね」 「感じやすいなァ。年頃ですか」 「少年だ。じいさんだ」 「どっちですか。じいさんですよ」 「じいさん風だ。お前もだよ」 「僕は、じいにです…

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3年前
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「変なんだ」 「なんです」 「板長が手袋して寿司を握っている」 「寒いでしょう」 「どうして」 「それは、まァ。そういうものです」 「その手袋した手で次に撫でた」 「…

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「掘ってやった」 「困るなァ」 「どうして」 「どうしてって、だいたい何を掘ります。順番に困りますから」 「山な君が穴があったら入りたいと言い出した」 「どうしたん…

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3年前
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「本当のことを言おうか」 「まァ。全然」 「ありがとう」 「それは、まァ」 「うん」 「そうです」 「——卵の可食部がけご飯」 「さァ、とにかくあちらへ」 「まァ。僕の…

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3年前
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「美しい」 「ええ」 「純白の……」 「まァ、そうです」 「——ももひき」 「ありますか」 「あるとも。それから、転ばぬ先の……」 「杖でしょう」 「——杖学校」 「ど…

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3年前
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「伸びるか、縮むか」
「まァ、そうです」
「なにが」
「それは、まァ、そういうものです。なんですか」
「鼻」
「鼻ですか」
「マスクの中の鼻だよ」
「それが、なんです」
「押さえつけられて鼻が縮む」
「まァ、それは」
「その刺激が鼻を伸ばす」
「それも、まァ。どっちですか」
「両方の運動を繰り返す」
「困るなァ」
「——おい、世の中はだいたいどっちもだね」
「けれど、兄さん」
「なに」
「なんだか

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「ぬいぐるみに雑巾を巻いた味」
「いいえ」
「何が」
「そんな味は、こんにゃくの布団に寝ながら滑るようなものです」
「けれど、魚を食って——まるで肉のように……こう、脂が……」
「……これは、ほんとに……肉ではないですか?」
「それなら肉を食えばいい」
「肉が食えないのです」
「どうして」
「そういう信念でしょう」
「味を知ってるじゃないか」
「知らない間はまだ食えたのです」
「けれど、肉を食って

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「伸びるか、縮むか」
「まァ、そうです」
「なにが」
「それは、まァ、そういうものです。なんですか」
「鼻」
「鼻ですか」
「マスクの中の鼻だよ」
「それが、なんです」
「押さえつけられて鼻が縮む」
「まァ、それは」
「その刺激が鼻を伸ばす」
「それも、まァ。どっちですか」
「両方の運動を繰り返す」
「困るなァ」
「——おい、世の中はだいたいどっちもだね」
「けれど、兄さん」
「なに」
「なんだか

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「煎餅があるだろう」
「ありました、ありました」
「それが、ぬれ煎餅になったら」
「誰かが、ぬらすでしょう」
「そうだね。それは、横歯さんだよ」
「そんな人が、もういますか」
「いるもなにも、誰かがぬらさなければならない」
「それは、まァ。いや、ほんとです」
「それで、横歯さんが新しく、びしょぬれ志願煎餅を募った」
「なんですか」
「びしょぬれになるということだ。けれど、醤油にくぐらせるのは難しい

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「なんだか、気のせいのようで」
「そういうものです」
「気のせいばかりでもないようだ」
「まァ、そうです」
「だんだん、じっくりと」
「ええ、だんだん」
「もうほとんど、それらしい」
「ほぅ。そんなものですか。いや、そうでしょう」
「なにが」
「なにがって、そうですから。そうなのでしょう」
「ふん。今にも出そうだ」
「出そう、ですか」
「もう出ているようでもある」
「まァ、もう」
「——おい、だめ

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「それまで、いつものように済ましていた奥様」
「まァ。それまで。済ましていました」
「それが受話器を取った途端、人が変わってしまった」
「まァ、それも」
「変に上擦ったような、日頃とまるで違う声をして、全然奥様らしくない」
「それは。愛想ではないですか」
「そうだよ」
「それなら、そうでしょう」
「それが、そうでもない。普段より高い声というのは、つまり相手が普段の声を知っていて初めてわかるものだよ

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「心配で泥棒がやれない」
「いやだなァ」
「邸に忍び込むやいなや、留守にした自宅が急に気になりだすらしい」
「誰ですか」
「心配と言ったって、結局、家の中に盗られては困るものがあるだけのことだろう」
「それは、まァ」
「だから、僕がそれを預かってやる。君は気にせず大いに泥棒をやりたまえ、つい軽い気持ちでこう言ったものが、いつか返す機会を失ってしまった」
「何がです」
「——おい、弟よ。だんだん兄さ

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「歩いていて」
「ええ、どこでしょう」
「そこにあるから蹴った」
「どこです」
「蹴ったら、蹴れるもんだね」
「まァ、そんなものです」
「何が」
「それは、まァ。だいたい蹴ったら、蹴れるものですから。何がです」
「岩だよ」
「岩ですか」
「そうだよ」
「岩を蹴りますか」
「蹴るよ。蹴って、向こうまで転がったさ」
「そんなことがありますか。けれど、ちょっと、いいですか足」
「——おい、アハハ、止めな

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「山にこもるらしいと言うが、どうも」
「誰です」
「山某さん。謙虚をやるらしい」
「謙虚ですか。誰です」
「若いうちは派手で、うるさくて、謙虚なんて考えてみたこともない」
「そうでしょう」
「それが年取って、偉くなって」
「だんだんと」
「だんだんと頭が薄くなって」
「まァ、それも、しかし」
「そうしてようやく、頭に謙虚が浮かぶようになった。浮かんでいる間は山某さん、頭のてっぺんが非常に分厚い」

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「初めから似合うと楽しい」
「そうでしょう」
「だんだん似合っていくのはもっとありがたい」
「それは、まァ」
「メガネや帽子やなんでもかんでも」
「目が慣れていくんでしょう」
「目が垂れていくんだよ。だんだん鼻は曲がるし頭は禿げたり増えたり」
「意外だなァ」
「山関さんが下駄を止してとんがった靴を始めた」
「郷土博物館の、あの山関ですか」
「うん。それで、だんだん山関さんの肩が丸みを帯び始めるらし

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「どうしたんです」
「いや」
「そんな顔は止めた方がいいです」
「まァ、しかし」
「どうしたんです」
「思ったことが全部、もう誰かに思われている気がするんだ」
「そんなものですか」
「この前、見下ろした」
「ええ、なんです」
「——地球は緑だった」
「そんな見方が、もう。ありますか」
「怪しいもんだ」
「まァ。けれど、それは兄さんどこにいるんです」
「どこって、遥か彼方さ」
「遥か彼方」
「ちょっ

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「思い出なんて寂しいね」
「感じやすいなァ。年頃ですか」
「少年だ。じいさんだ」
「どっちですか。じいさんですよ」
「じいさん風だ。お前もだよ」
「僕は、じいにです。なんて。アハハハハハ。——それで、思い出は」
「じいいち」
「いいです」
「じいいち、」
「ジィ、ワン——ji,zero.all engine running」
「——」
「いいです。思い出」
「それが、昨日のことのように生々しいんだ

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「変なんだ」
「なんです」
「板長が手袋して寿司を握っている」
「寒いでしょう」
「どうして」
「それは、まァ。そういうものです」
「その手袋した手で次に撫でた」
「撫でた。なんでしょう」
「——スケートリンク頭」
「寒いなァ。まァ。それで、やっぱり握りますか」
「さっきより握る。だんだんシャリがうまい」
「すると、演技点でしょう」
「ほんとうか」
「つまり、客の頭の中にわざとまずい寿司を置いたで

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「掘ってやった」
「困るなァ」
「どうして」
「どうしてって、だいたい何を掘ります。順番に困りますから」
「山な君が穴があったら入りたいと言い出した」
「どうしたんです」
「何が」
「恥ずかしいことがあるんでしょう」
「ないよ」
「ないですか。困るなァ」
「ただ穴に入りたい山な君じゃないか」
「まァ。それじゃァ、穴はどんなです」
「直径5メートル」
「なかなかです」
「半径にしておよそ2・5メート

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「本当のことを言おうか」
「まァ。全然」
「ありがとう」
「それは、まァ」
「うん」
「そうです」
「——卵の可食部がけご飯」
「さァ、とにかくあちらへ」
「まァ。僕の卵かけご飯を見て山多摩さんが喜んでいる」
「兄さんの卵ですか」
「僕の鶏の卵かけご飯」
「鶏飼ってますね」
「——あなた、殻、割りましたね。黄色いそれ。今出ました。でも違いますよ。それは卵じゃないです、卵の可食部というのです。どうで

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「美しい」
「ええ」
「純白の……」
「まァ、そうです」
「——ももひき」
「ありますか」
「あるとも。それから、転ばぬ先の……」
「杖でしょう」
「——杖学校」
「どうして」
「どうしてって時代さ。それから、食い終わり……」
「もう僕は箸をしまいます」
「——食い終わったはずの焼きそばの群れ」
「……そっと箸を出す。——お母さん、ここの焼きそば。やっぱり食い終わってからが一番だねェ」
「どうして

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