「伸びるか、縮むか」 「まァ、そうです」 「なにが」 「それは、まァ、そういうものです。なんですか」 「鼻」 「鼻ですか」 「マスクの中の鼻だよ」 「それが、なんです…
「ぬいぐるみに雑巾を巻いた味」 「いいえ」 「何が」 「そんな味は、こんにゃくの布団に寝ながら滑るようなものです」 「けれど、魚を食って——まるで肉のように……こう…
「煎餅があるだろう」 「ありました、ありました」 「それが、ぬれ煎餅になったら」 「誰かが、ぬらすでしょう」 「そうだね。それは、横歯さんだよ」 「そんな人が、もう…
「なんだか、気のせいのようで」 「そういうものです」 「気のせいばかりでもないようだ」 「まァ、そうです」 「だんだん、じっくりと」 「ええ、だんだん」 「もうほとん…
「それまで、いつものように済ましていた奥様」 「まァ。それまで。済ましていました」 「それが受話器を取った途端、人が変わってしまった」 「まァ、それも」 「変に上擦…
「心配で泥棒がやれない」 「いやだなァ」 「邸に忍び込むやいなや、留守にした自宅が急に気になりだすらしい」 「誰ですか」 「心配と言ったって、結局、家の中に盗られて…
「歩いていて」 「ええ、どこでしょう」 「そこにあるから蹴った」 「どこです」 「蹴ったら、蹴れるもんだね」 「まァ、そんなものです」 「何が」 「それは、まァ。だい…
「山にこもるらしいと言うが、どうも」 「誰です」 「山某さん。謙虚をやるらしい」 「謙虚ですか。誰です」 「若いうちは派手で、うるさくて、謙虚なんて考えてみたことも…
「初めから似合うと楽しい」 「そうでしょう」 「だんだん似合っていくのはもっとありがたい」 「それは、まァ」 「メガネや帽子やなんでもかんでも」 「目が慣れていくん…
「どうしたんです」 「いや」 「そんな顔は止めた方がいいです」 「まァ、しかし」 「どうしたんです」 「思ったことが全部、もう誰かに思われている気がするんだ」 「そん…
「思い出なんて寂しいね」 「感じやすいなァ。年頃ですか」 「少年だ。じいさんだ」 「どっちですか。じいさんですよ」 「じいさん風だ。お前もだよ」 「僕は、じいにです…
「変なんだ」 「なんです」 「板長が手袋して寿司を握っている」 「寒いでしょう」 「どうして」 「それは、まァ。そういうものです」 「その手袋した手で次に撫でた」 「…
「掘ってやった」 「困るなァ」 「どうして」 「どうしてって、だいたい何を掘ります。順番に困りますから」 「山な君が穴があったら入りたいと言い出した」 「どうしたん…
「本当のことを言おうか」 「まァ。全然」 「ありがとう」 「それは、まァ」 「うん」 「そうです」 「——卵の可食部がけご飯」 「さァ、とにかくあちらへ」 「まァ。僕の…
「美しい」 「ええ」 「純白の……」 「まァ、そうです」 「——ももひき」 「ありますか」 「あるとも。それから、転ばぬ先の……」 「杖でしょう」 「——杖学校」 「ど…
奥野森
2021年3月9日 19:10
「伸びるか、縮むか」「まァ、そうです」「なにが」「それは、まァ、そういうものです。なんですか」「鼻」「鼻ですか」「マスクの中の鼻だよ」「それが、なんです」「押さえつけられて鼻が縮む」「まァ、それは」「その刺激が鼻を伸ばす」「それも、まァ。どっちですか」「両方の運動を繰り返す」「困るなァ」「——おい、世の中はだいたいどっちもだね」「けれど、兄さん」「なに」「なんだか
2021年2月24日 18:56
「ぬいぐるみに雑巾を巻いた味」「いいえ」「何が」「そんな味は、こんにゃくの布団に寝ながら滑るようなものです」「けれど、魚を食って——まるで肉のように……こう、脂が……」「……これは、ほんとに……肉ではないですか?」「それなら肉を食えばいい」「肉が食えないのです」「どうして」「そういう信念でしょう」「味を知ってるじゃないか」「知らない間はまだ食えたのです」「けれど、肉を食って
2021年2月12日 20:29
2021年1月21日 19:41
「煎餅があるだろう」「ありました、ありました」「それが、ぬれ煎餅になったら」「誰かが、ぬらすでしょう」「そうだね。それは、横歯さんだよ」「そんな人が、もういますか」「いるもなにも、誰かがぬらさなければならない」「それは、まァ。いや、ほんとです」「それで、横歯さんが新しく、びしょぬれ志願煎餅を募った」「なんですか」「びしょぬれになるということだ。けれど、醤油にくぐらせるのは難しい
2021年1月7日 21:15
「なんだか、気のせいのようで」「そういうものです」「気のせいばかりでもないようだ」「まァ、そうです」「だんだん、じっくりと」「ええ、だんだん」「もうほとんど、それらしい」「ほぅ。そんなものですか。いや、そうでしょう」「なにが」「なにがって、そうですから。そうなのでしょう」「ふん。今にも出そうだ」「出そう、ですか」「もう出ているようでもある」「まァ、もう」「——おい、だめ
2020年12月24日 20:06
「それまで、いつものように済ましていた奥様」「まァ。それまで。済ましていました」「それが受話器を取った途端、人が変わってしまった」「まァ、それも」「変に上擦ったような、日頃とまるで違う声をして、全然奥様らしくない」「それは。愛想ではないですか」「そうだよ」「それなら、そうでしょう」「それが、そうでもない。普段より高い声というのは、つまり相手が普段の声を知っていて初めてわかるものだよ
2020年12月17日 19:42
「心配で泥棒がやれない」「いやだなァ」「邸に忍び込むやいなや、留守にした自宅が急に気になりだすらしい」「誰ですか」「心配と言ったって、結局、家の中に盗られては困るものがあるだけのことだろう」「それは、まァ」「だから、僕がそれを預かってやる。君は気にせず大いに泥棒をやりたまえ、つい軽い気持ちでこう言ったものが、いつか返す機会を失ってしまった」「何がです」「——おい、弟よ。だんだん兄さ
2020年12月10日 19:06
「歩いていて」「ええ、どこでしょう」「そこにあるから蹴った」「どこです」「蹴ったら、蹴れるもんだね」「まァ、そんなものです」「何が」「それは、まァ。だいたい蹴ったら、蹴れるものですから。何がです」「岩だよ」「岩ですか」「そうだよ」「岩を蹴りますか」「蹴るよ。蹴って、向こうまで転がったさ」「そんなことがありますか。けれど、ちょっと、いいですか足」「——おい、アハハ、止めな
2020年12月3日 20:41
「山にこもるらしいと言うが、どうも」「誰です」「山某さん。謙虚をやるらしい」「謙虚ですか。誰です」「若いうちは派手で、うるさくて、謙虚なんて考えてみたこともない」「そうでしょう」「それが年取って、偉くなって」「だんだんと」「だんだんと頭が薄くなって」「まァ、それも、しかし」「そうしてようやく、頭に謙虚が浮かぶようになった。浮かんでいる間は山某さん、頭のてっぺんが非常に分厚い」
2020年8月27日 19:47
「初めから似合うと楽しい」「そうでしょう」「だんだん似合っていくのはもっとありがたい」「それは、まァ」「メガネや帽子やなんでもかんでも」「目が慣れていくんでしょう」「目が垂れていくんだよ。だんだん鼻は曲がるし頭は禿げたり増えたり」「意外だなァ」「山関さんが下駄を止してとんがった靴を始めた」「郷土博物館の、あの山関ですか」「うん。それで、だんだん山関さんの肩が丸みを帯び始めるらし
2020年8月24日 20:30
「どうしたんです」「いや」「そんな顔は止めた方がいいです」「まァ、しかし」「どうしたんです」「思ったことが全部、もう誰かに思われている気がするんだ」「そんなものですか」「この前、見下ろした」「ええ、なんです」「——地球は緑だった」「そんな見方が、もう。ありますか」「怪しいもんだ」「まァ。けれど、それは兄さんどこにいるんです」「どこって、遥か彼方さ」「遥か彼方」「ちょっ
2020年8月17日 19:33
「思い出なんて寂しいね」「感じやすいなァ。年頃ですか」「少年だ。じいさんだ」「どっちですか。じいさんですよ」「じいさん風だ。お前もだよ」「僕は、じいにです。なんて。アハハハハハ。——それで、思い出は」「じいいち」「いいです」「じいいち、」「ジィ、ワン——ji,zero.all engine running」「——」「いいです。思い出」「それが、昨日のことのように生々しいんだ
2020年8月13日 20:42
「変なんだ」「なんです」「板長が手袋して寿司を握っている」「寒いでしょう」「どうして」「それは、まァ。そういうものです」「その手袋した手で次に撫でた」「撫でた。なんでしょう」「——スケートリンク頭」「寒いなァ。まァ。それで、やっぱり握りますか」「さっきより握る。だんだんシャリがうまい」「すると、演技点でしょう」「ほんとうか」「つまり、客の頭の中にわざとまずい寿司を置いたで
2020年8月10日 20:04
「掘ってやった」「困るなァ」「どうして」「どうしてって、だいたい何を掘ります。順番に困りますから」「山な君が穴があったら入りたいと言い出した」「どうしたんです」「何が」「恥ずかしいことがあるんでしょう」「ないよ」「ないですか。困るなァ」「ただ穴に入りたい山な君じゃないか」「まァ。それじゃァ、穴はどんなです」「直径5メートル」「なかなかです」「半径にしておよそ2・5メート
2020年8月6日 20:12
「本当のことを言おうか」「まァ。全然」「ありがとう」「それは、まァ」「うん」「そうです」「——卵の可食部がけご飯」「さァ、とにかくあちらへ」「まァ。僕の卵かけご飯を見て山多摩さんが喜んでいる」「兄さんの卵ですか」「僕の鶏の卵かけご飯」「鶏飼ってますね」「——あなた、殻、割りましたね。黄色いそれ。今出ました。でも違いますよ。それは卵じゃないです、卵の可食部というのです。どうで
2020年8月3日 20:22
「美しい」「ええ」「純白の……」「まァ、そうです」「——ももひき」「ありますか」「あるとも。それから、転ばぬ先の……」「杖でしょう」「——杖学校」「どうして」「どうしてって時代さ。それから、食い終わり……」「もう僕は箸をしまいます」「——食い終わったはずの焼きそばの群れ」「……そっと箸を出す。——お母さん、ここの焼きそば。やっぱり食い終わってからが一番だねェ」「どうして