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「思い出なんて寂しいね」
「感じやすいなァ。年頃ですか」
「少年だ。じいさんだ」
「どっちですか。じいさんですよ」
「じいさん風だ。お前もだよ」
「僕は、じいにです。なんて。アハハハハハ。——それで、思い出は」
「じいいち」
「いいです」
「じいいち、」
「ジィ、ワン——ji,zero.all engine running」
「——」
「いいです。思い出」
「それが、昨日のことのように生々しいんだ」
「それなら、そうでしょう。いつの話です」
「昨日だ」
「昨日ですか」
「はっきりと昨日の尿意だ」
「ほお、それは」
「果たせなかった。果たさないうちにうっかり忘れた。それを思い出した」
「やっぱり寂しいですか」
「今もう一度果たしてこいと言われた気分だが、どうもしかし実感がこない」
「——いいですか、次は二時間後の談山坂です。今果たさないと思っても毎年途中で果たす人がいます。それは先生辛いです。必ず皆んなここで果たすように」
「——おい、ごちゃごちゃ言ってるうちにだんだん温かいんだ」
「感傷ですか」
「全然寂しくない」
「あれ、皆んな出て行くなァ」
「出たよ」
「出ましたか」

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