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「それまで、いつものように済ましていた奥様」
「まァ。それまで。済ましていました」
「それが受話器を取った途端、人が変わってしまった」
「まァ、それも」
「変に上擦ったような、日頃とまるで違う声をして、全然奥様らしくない」
「それは。愛想ではないですか」
「そうだよ」
「それなら、そうでしょう」
「それが、そうでもない。普段より高い声というのは、つまり相手が普段の声を知っていて初めてわかるものだよ」
「すると、誰と電話しますか」
「——おい、だんだん受話器というのが恐ろしい気がする……」
「だいたい、誰です。奥様という人」
「奥様はいつも済ましている……」
「名前は」
「奥様は……いつもの奥様だ……」

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