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「初めから似合うと楽しい」
「そうでしょう」
「だんだん似合っていくのはもっとありがたい」
「それは、まァ」
「メガネや帽子やなんでもかんでも」
「目が慣れていくんでしょう」
「目が垂れていくんだよ。だんだん鼻は曲がるし頭は禿げたり増えたり」
「意外だなァ」
「山関さんが下駄を止してとんがった靴を始めた」
「郷土博物館の、あの山関ですか」
「うん。それで、だんだん山関さんの肩が丸みを帯び始めるらしい」
「それはなんです」
「靴の分を肩で調整するんだ」
「ありがたいなァ」
「けれど、靴擦れがひどい。下駄に戻すと、また調整が始まった」
「せっかくの肩でしたが」
「そこに、シャベルのように鋭い両肩が現れた」
「大丈夫ですか」
「初めは変だと思ったが、やっぱりだんだん似合ってきた」
「だんだん、下駄が変形しますか」
「お前、そんなわけがない」
「それなら、やっぱり兄さんの目が慣れたんでしょう」
「——おい、いよいよ郷土博物館の工事が始まった」
「あれ、そんな話が」
「山関さんが真っ赤な目でしきりに叫んでいる」
「なんです」
「——霞ヶ関だ!霞ヶ関だ!」

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