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「山にこもるらしいと言うが、どうも」
「誰です」
「山某さん。謙虚をやるらしい」
「謙虚ですか。誰です」
「若いうちは派手で、うるさくて、謙虚なんて考えてみたこともない」
「そうでしょう」
「それが年取って、偉くなって」
「だんだんと」
「だんだんと頭が薄くなって」
「まァ、それも、しかし」
「そうしてようやく、頭に謙虚が浮かぶようになった。浮かんでいる間は山某さん、頭のてっぺんが非常に分厚い」
「てっぺんが。それは、シリコンですか。いや、いいんです。それで。シリコンでしょう」
「さて、大いにシリコンをやったところが、偉くてシリコンというのは人がなかなか頷かないところのもので、つまり、あれはポーズなんでしょうと、シリコン・ポーズなのでしょうと陰で周りがこんなに言うんだから」
「それで、山に——」
「——おい、しかし山で、一人で、シリコン……謙虚がやれるものだろうか。案外街で、湯になんかに行って、やっぱりそれが本式だろう」
「それは、まァ。けれど兄さん。誰なんです」
「知らないさ。そんな風な知らない人が、しかし一人くらいいたって……いなくたって……」

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