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「心配で泥棒がやれない」
「いやだなァ」
「邸に忍び込むやいなや、留守にした自宅が急に気になりだすらしい」
「誰ですか」
「心配と言ったって、結局、家の中に盗られては困るものがあるだけのことだろう」
「それは、まァ」
「だから、僕がそれを預かってやる。君は気にせず大いに泥棒をやりたまえ、つい軽い気持ちでこう言ったものが、いつか返す機会を失ってしまった」
「何がです」
「——おい、弟よ。だんだん兄さんも泥棒みたいだ」
「返せばいいです。長く借りていただけですから」
「それは、返したいが」
「モノはまだあるんでしょう」
「けれど中々大きいんだよ。お前協力してくれるか」
「まァ、ええ」
「ありがとう。それじゃ、住所を教えるから。明日にでもそこにお帰りなさい」

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