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「ぬいぐるみに雑巾を巻いた味」
「いいえ」
「何が」
「そんな味は、こんにゃくの布団に寝ながら滑るようなものです」
「けれど、魚を食って——まるで肉のように……こう、脂が……」
「……これは、ほんとに……肉ではないですか?」
「それなら肉を食えばいい」
「肉が食えないのです」
「どうして」
「そういう信念でしょう」
「味を知ってるじゃないか」
「知らない間はまだ食えたのです」
「けれど、肉を食って——まるで魚のように……こう、水中を……」
「……あ、いま……いま、陸に打ち上げられました……なんでしょう……なんだか、気持ちの悪い魚だなァ」
「——おい、味は例え合わないと、だんだん優劣が生まれそうだ」
「だいたい兄さん、味というのはなんですか」
「味は、暇つぶしのような味だよ」
「なんですか、暇つぶしのような味というのは」
「そんな味は、暇をつぶしたような後味だよ」

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