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「掘ってやった」
「困るなァ」
「どうして」
「どうしてって、だいたい何を掘ります。順番に困りますから」
「山な君が穴があったら入りたいと言い出した」
「どうしたんです」
「何が」
「恥ずかしいことがあるんでしょう」
「ないよ」
「ないですか。困るなァ」
「ただ穴に入りたい山な君じゃないか」
「まァ。それじゃァ、穴はどんなです」
「直径5メートル」
「なかなかです」
「半径にしておよそ2・5メートル」
「まァ、もともと」
「そして0・6ミリ」
「ほゥ、なんとなく——だいぶ浅いなァ。ほんとに穴ですか」
「程よい雨が土をほぐして……」
「なあんだ。雨か。それじゃァ、穴の深さは」
「いや」
「いやって」
「それはいいんだ……」
「何言います。穴は深さで決まりますよ」
「人に言うほどの深さはないし……30センチ……」
「掘ったことに穴の意味がありますからね」
「30センチ」
「凄い雨だなァ」
「——おい、だんだん山な君がもじもじしている」
「丸見えで恥ずかしいでしょう」
「他人事だな」
「そりゃ、そうでしょう」
「あれは僕らみんなだよ」

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