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てのひらの物語

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物語を綴るように、体験を通したエッセイ。
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#海外生活あれこれ

野花のベッドで眠りたい

野花のベッドで眠りたい

北国にも、ようやく遅い春がやって来て、スプリング・エフェメラル(Spring Ephemeral)と呼ばれる、春の儚い花たちも咲き始めた。
これらの野花は、可憐でひっそりとした風情というよりも、蔓延っていると言ったほうがいいくらい旺盛にびっしりと咲いていて、その様は、まるで花の絨毯というか寝床のようにも見え、思わずその上に寝そべってみたくなる。

たぶんこの国では、本当に寝そべっても誰にも何も言わ

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氷の芸術

氷の芸術

朝、海沿いを歩いていると、凍っていた海が溶け出しており、海風に吹き付けられた無数の氷が岸辺に打ち上げられている風景を目にした。
薄いガラスの層が幾重にも積み重ねられているようで、一枚ずつ手に取り眺めたくなるような光景だった。

透明な氷のプレートが朝陽にきらきら輝いて美しい。
まるで自然が作り上げた現代アートのようだ。

とりあえずスマホで撮影して、翌日は一眼レフ持参で同じ場所に駆けつけたものの、

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白鳥は歌う

白鳥は歌う

冬の初め頃から、近所の島で見かけるようになった白鳥のつがいと子供がいる。
マイナス10度以下の気温になり本格的な寒さがやって来ても、白鳥ファミリーはまだ留まっている。
普段白鳥は春先になると南からこの国へやってくるため、春を運んでくる鳥だ。
そして冬の訪れと共に再び南へと飛び立つので、こんな季節までこの地に残っていることは珍しい。

朝、島へ散歩に行くと、凍りかけた海上にまだ白鳥ファミリーがいた。

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白夜〜夏至祭の魔法

白夜〜夏至祭の魔法

真夜中0時近くなっても空は仄かに明るいまま、夜はなかなかやって来ない。

私の住む国は今、白夜だ。
白夜というのは夜になっても太陽は沈まず、"Midnight Sun 真夜中の太陽" と言われる現象のことだ。
完全な白夜になるのは北極圏付近だけだが、私が暮らす南部の街も0時を過ぎても宵闇のように薄暗くなるだけで、ほんの数時間でまた朝陽が昇る。
どちらにしても昼間がとても長くなり、夜はとても短くなる

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焚き火がしたい

焚き火がしたい

人はどうして火を見ると落ち着くのだろう。
他の動物たちは恐れて逃げてゆくというのに。

パチパチ木の枝が爆ぜる、しゅんしゅん薬缶のお湯が沸く、ゆらゆら自在に形を変えながら揺らめく炎は、いつまででも眺めていられる。
ずっと炎を見ていると催眠術にかけられたようにだんだん瞼が重くなり眠たくなってくる。これぞ焚き火ヒーリング。

私は一年中、オトーサンに焚き火がしたいと言っている。
とくに夏から冬にかけて

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