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てのひらの物語

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物語を綴るように、体験を通したエッセイ。
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#写真好きな人と繋がりたい

霧の朝に

霧の朝に

霧雨にしっとりと濡れながら

白く煙る景色の中に佇んでいると

夢の中に迷いこんでしまったような

ぼんやりとした心持ちになってくる

港の方では何度も霧笛が鳴っている

その音に誘われるかのように

靄に包まれ歩いてゆくと

このままどこか知らない世界へ

吸い込まれてしまうような気がする

こんな霧の朝に

自分と同じ姿をしたもう一人の自分

ドッペルゲンガーに

会ってしまうのかもしれない

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彼方人の11月

彼方人の11月

11月は、こちらの国の言葉では ”死者の月” と書く。

第一週目の土曜日は「万世節」で、死者を弔う日であり、ハロウィンの習慣はないが、「万世節」は大切な日とされていて、故人を偲び、墓参りをしたりもする。

だから11月は、彼方人の月だ。

彼方人とは
あの世の者、別世界の人
他国から来た者のことも指すらしく
これは自分のことでもあるな…と思う。

私はこの国では永遠に異邦人だ。

彼方人は
"あ

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夢の中へ帰る

夢の中へ帰る

夢を見たことを久しぶりに起きた後も覚えていた。

以前よく夢の中に出てきた、知らないはずなのによく知っている場所に私は居た。

煙のように消えてしまった、あの町へまた帰って来たのだ。

今までと少し違っていたのは、その町から別の町へ電車に乗って出かけ、またあの町へ帰ろうとしていることだ。

だけれど、私は帰れない。
降りる駅の名前が思い出せない。

夢の中で私は迷っていた。

仕方がないので次の駅

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氷の芸術

氷の芸術

朝、海沿いを歩いていると、凍っていた海が溶け出しており、海風に吹き付けられた無数の氷が岸辺に打ち上げられている風景を目にした。
薄いガラスの層が幾重にも積み重ねられているようで、一枚ずつ手に取り眺めたくなるような光景だった。

透明な氷のプレートが朝陽にきらきら輝いて美しい。
まるで自然が作り上げた現代アートのようだ。

とりあえずスマホで撮影して、翌日は一眼レフ持参で同じ場所に駆けつけたものの、

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