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600字前後の小説
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#創作小説

居酒屋にあるアレ

居酒屋にあるアレ



トイレの中でこんにちは。

トイレの中まで大変失礼致します。
でも、ここが一番ゆっくりお話の出来る
場所だと思い、筆をとらせて頂きました。
約束の品は、ラバーカップの裏に複数あります。
お気に入りのブツはありましたでしょうか?
少しでもお気に召さない点がございましたら
どうぞご遠慮なく、店長に扮したその手の者までお申し付け下さい。
責任をもって善処させ

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好き嫌い

好き嫌い



 男が徐にカレー苦手だというので
「カレーが嫌いな人間が存在するとは…」
とこぼすと、不特定多数の普通を正解とするな、と怒られた。
 一方的に言われて気分が悪い私は、しばらくしてから
「私は花束が嫌いだ」
と不意をついてしゃべりかけると
「花束を貰って喜ばない女がいるとは…」
と宣ったので、しつこいほど揚げ足をとってやった。
 「しかしお前が死んだとき、棺の中に何を入れれば良いのだ」
などと問

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2021年成人の日

2021年成人の日



「今日からあなたは大人です」
 なんて定められても、私はまだまだ甘ちゃんで、「じぇじぇじぇ」なんて言ってみたけれど小学生時代の朝ドラのことを覚えている友は極めて少ない。
 何が正解なのかちっとも分からないまま振袖を選び「どんな髪にしたい?」など問われても、今までの人生にヘアーアレンジなんてとんと縁がなかったものだから、何の気なしにSNSで見つけた成人式のヘアーを願う。
「今日からあなたは大人で

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ガーリックディスタンス

ガーリックディスタンス



 政府は先の某ウイルスの感染拡大に伴い、国民全員にニンニクを一房配給した。
 国民はこの、支給されたニンニクを毎食一欠片食べなくてはならなくなった。
そうなるとどうしても、マスクをせずに会話をした場合酷く臭う。
吐息の激烈な臭さに人々は、思わず距離を取り自ずからソーシャルディスタンスを保てるのであった。
 更に、もし近距離にいたとしても相手の悪臭が感じられない場合は、嗅覚に異常をきたしているか

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こんな夢を見た

こんな夢を見た



こんな夢を見た。
そこは眠ることを必要としない世界で、人々は一日中布団やベッドに入ることなく、時間をフルで活用していた。
ある日、ぼんやりと空を眺めていた男が、突如記憶を失ったと騒ぎ出した。
日頃からよく分からない言葉を発したり、ぼーっとしている男だった為、気のせいだと皆から言われたが、男はこと細かく記憶が飛んだ状況や、感覚、それに当てはまりそうな造語を作って説明した。
つまりそれは、ただ眠り

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あざとい

あざとい



 Hama Project(ハマプロジェクト)は、日本の大手事務所によるガールズグループプロジェクトである。
 メンバーそれぞれの男性に対する媚が連なり、大海を泳ぐ”ハマチ”のようにいずれ立派な鰤(ブりっ子)になる存在を発掘・育成するというH.M.Chiiの想いから「Hama Project」と命名された。
 本日は、そんなHama C選抜オーディションの日である。
「失礼しますぅ。はぢめまし

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お弁当箱の闘争

お弁当箱の闘争



 キリンさん組とぞうさん組は、本日近くの公園へピクニックに出かける。
園児たちは、瞳を輝かせて鼻息を荒くし、テンションをこれ以上無いくらい上げてオーバーヒート、楽しみのあまり昨晩眠れなかった子どもは鼻血を噴いた。
 彼ら彼女らの楽しみはというと、もっぱらお昼のお弁当。
 うきうきとした気持ちは背負われたリュックの中の、お弁当箱の中にまで揺すぶられて波紋。お弁当箱の具材たちも、気持ちを高ぶらせて

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ネオ桃太郎

ネオ桃太郎



 昔の話ではなく、現在進行形の某所。イケおじと美魔女は第一子を授かった。
 実に健康的な男の子で、名を桃太郎と言い、共働きの両親や児童館の大人たちに見守られながらすくすくと育った。
 ある日、桃太郎はイケおじと美魔女に
「おれ鬼退治系YouTuberになりたい」
と伝えた。イケおじが
「鬼という表記は、コンプライアンス的に問題であるから『怖いもの掃除』とか『怒りっぽい人』とか、なんかイイ感じに

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生かし屋

生かし屋



 オレは生かし屋。人を生かすのがオレの仕事だ。
 報酬さえ貰えば、いくらでも生きることを後押しする。
 育児放棄された子どもに飯を振るまったり、ビルの屋上から飛び降りようとする若者を救ったり、病に侵された老人に希望を与えたりする。
 オレは青少年保護団体や医者ではない。
 なにかを生かす仕事であれば受ける。そして生かす為には目的も、手段も選ばない。
 だから製品会社で没になった企画を生かす仕事

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我利我利くん

我利我利くん



※我利我利亡者
仏教用語。他人を顧みず、自身の利益ばかり考えること。または、他人を顧みずある物事に執着すること。やせ細った人に対する形容はここから由来。

***

オレは我利我利くん。いつも飢えている。
髪の毛は五分刈り。いつも何かを欲している。
オレは我利我利くん。欲しいものは何がなんでも手に入れたい。
そんなオレはソーダ味の某棒アイスをむしゃぶりながら、まれに棒切れに刻まれる当たり印を欲

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こにゃる

こにゃる



金に困ったらタピオカを始めろ、なんて言葉を至る場所で耳にするほど、タピオカの経済効果というものはすごい。
それはタピオカの原価がとんでもなく安いからであるのだが、しかしながらそうなると、原材料の争奪戦になる訳で、今まさに経済的、金銭的ピンチの僕にとってはキャビアと同等なくらい手に届かない存在だ。
 とにもかくにも丸くて、プニプニしていればいいのだ。
そう言い聞かせて、試しに玉こんにゃくをほうじ

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待てば役所の日和あり

待てば役所の日和あり



 今までずっと避けてきたが、そんな僕にもついに役所を訪れる日が来た。
 自然災害、謎に包まれる病、失業や都市開発など、様々な事柄が日々生まれる中、それらの対処に追われる役所では人手不足も相まって、手続きにかなりの時間を要する。
多くの知人から「役所に行くと想像している三倍時間がかかる」などと聞かされていた為、できるだけ関わりのない人生を歩んでいた僕だったが、第一子の出生届を出すべくその地に足を

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もぐら娘

もぐら娘



 彼女は異常なほど、光と音に敏感だ。
 見事な秋晴れの空を皆が嬉しそうに仰いでも、彼女だけは俯いてサングラスをかけているし、駅のホームに電車が入ってくると必ず両手で耳を塞ぐ。
 工事現場の近くを通る際は唇を噛みしめながら駆け足で通り過ぎるほどで、あまり都会に向いていない。
 日差しに弱くてとても音に繊細だから、社内では彼女のことをもぐらみたいだから、と『もぐちゃん』と呼んでいた。
「私、安心す

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後期高齢恋愛化社会

後期高齢恋愛化社会



 待機児童、高い学費、教師の減少、増税…。子どもを育てる為の環境が極めて劣悪な日々が続き、多くの人が子どもを持たなくなった。
 子どもたちの笑い声が消えた今、日本国は六五歳以下の人間がいない、超高齢化社会となっていた。
 カフェで取り扱う飲み物は全て前茶、ほうじ茶、白湯となり、若者の街原宿は、巣鴨と化した。
 皆一様にどこかしらが痛く、昔流行したスポーツジムは、今や全てリハビリテーション施設と

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