青春は綺麗な言葉だけでは語れない
額賀 澪さんの小説、「風に恋う」
私がこのコロナによる自粛期間(ステイホーム期間)で読んだ本の中では、ダントツ1番好みの本だった。
間違いなく多くの高校生、大学生にオススメしたい本である。
この本はいわゆる「高校の部活動における青春」の話である。
全国大会出場に向けて頑張る、高校の吹奏楽部の話である。
主人公 茶園基(1年生、サックス)と その幼馴染 鳴神玲於奈(3年生、部長、オーボエ)と 不破瑛太郎(コーチ、OBで現役時代は全国大会で優勝した経験を持つ)
主にこの3人を中心に物語は描かれる。
あらすじを読んだ時、いわゆる「チアダン」のような物語なのかなぁ、と思った。
チアダンでは全米優勝に向けて女子高生たちがもがきながら確実に前に進んでいく、
そんな輝かしい様子が主に描かれている。
もちろんこの話はこの話で好きである。
だがこの「風に恋う」という本が多くの青春小説と違う点がいくつかある。
まず1つ目に、先生目線のシーンが多いということ。
そしてこの不破瑛太郎という男が発する言葉の多くに、なんだか感動できる。
瑛太郎は、ただただ全国へ行く、という青春の部活動生活を送ったわけではない。
むしろその逆なのだ。
彼はむしろ、高校時代に吹奏楽にしか一生懸命になれなかった自分を、少し後悔しているのだ。
だからこそ彼の輝かしい思い出は、後悔や苦味を含んだものへと姿を変えてしまったのだ。
そして2つ目に、「ブラック部活動問題」について書かれているということ。
青春の裏側にある、決して綺麗で輝かしいとは言い難いような部分まで、きちんと描かれているのだ。
瑛太郎自身、良い指導者とはなんなのかについてや、あらゆるものを犠牲にしてコンクールに出場することで苦しんでいる人間がいるという事実に考えさせられていく。
生徒たちに自分と同じ間違いを犯してほしくないからこそ、自分と同じ人生を歩んでほしくないからこそ、彼は自分自身と、そして生徒と向き合っていくのだ。
青春は綺麗なだけじゃ語れない。部活動に全力を注ぐことだけが正しいことかなんて、わからない。
それでも"やりたいこと"と"やるべきこと"に折り合いをつけて頑張るしかない。
最後に、瑛太郎の言葉の中で私が好きだと思うものを2つ載せる。
好きなものを好きでいる覚悟、我慢、努力
好きなものを真剣に抱きしめた時間が、人を大きくすると信じたい
やるしかない。やらなきゃいけないこととか考えなきゃいけないことを背負いこんで それでも自分の気持ちを貫くしかない。
私も時々過去を振り返って思うことがある。
あの頃の眩しかった頃のままの自分でずっといたかった、と。
瑛太郎と同じように思う。
どこで高校生の頃の自分を直視できなくなってしまったんだろう、と。