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根拠のない自信

相談された上司はいったいどんな気持だったのだろう。どんな顔をして聞いていたのだろう。時間を巻き戻せたら、見てみたいものだ。

「女優になりたいのですが」

入社して1年、配属が変わると知らされた私は
新しい配属先の上司に折り入って相談しておきたいことがあると言って、部長室に行った。

当時、新入社員として最初に配属されたグループセクレタリーという仕事に七転八倒。
どうもがいてもやりがいを見出せなくて

青春の特権「人生一度きり」をまんま実行。
会社帰りに通い始めた劇団の夜学が半年経った頃だった。見様見真似でなんとか形にした卒業公演が終わった頃だった。頭も身体も、まだ熱に浮かされていた。

同時に

会社の方針で始まった新人育成プログラムの一環「コピーライター候補」に応募して(運よく!)入れてもらえたところだった。時は、コピーライターという職種が世間の注目を浴び始めた、ちょうどその時代。
コピーライターの「コ」の字もわからない新人が養成講座に通わせてもらえるという!
社内のベテランコピーライターの元で指導してもらえるという!
身に余る光栄。2度とないチャンス。

ここで、青春病真っ盛りだった私は、悩んだ。思い詰めた。(青春病の典型的な症状)
「人生一度きり」というネオンサインが頭の中で点滅する。ここぞとばかりの眩しさで。

私は、女優になるべきか
コピーライターになるべきか
(ハムレット?じゃないんだから)

「勝手にしなさい」の一言で片付けられる質問をその時の上司はよくぞ聞いてくれたものだと、今では思う。

真っ赤な顔して、もじょもじょ
女優、夜学、夢、一度きりと、繰り返す私の話を一通り聞いた後、ひとこと、

「それでその女優になるためにはどうしたらいいの?」

あ、はい、劇団に入るのです。

「で、その劇団には入ったの?」

あ!いや、まだ夜学を卒業したばかりで、、、
(そうだ、昼間の劇団にはまだ入ってなかったんだ!)

「そう。では、昼間の劇団に受かったら、またお話をしましょう。結論はその時、また考えればいい。」

は、はいっ、ありがとうございます!
深くお辞儀の後は、後も見ずに部長室から飛び出した。

The rest is history.

昼間の劇団を受験した私は、見事に落ち、
そのことを報告しに行った時の記憶は無い。
その件に関する脳内のデータは飛んだのだと思う。

青春って恥ずかしい。
青春って凄い。
2度と味わえないという意味で。
その根拠のない自信、妄想力、破壊力で
時に、とんでも無いところに突破口が開いたり開かなかったり。

いろんな人に、いろんなところで、恥ずかしかった私の青春。受け止めてくれた、たくさんの人達のおかげで、今、どこかに着地できていれば良いのだけど。

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