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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説

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フリムンという言葉は沖縄の方言で、バカ・愚か者という意味で使われる。この物語は、日本最南端の石垣島に生まれ、後に全日本空手道選手権大会を制する田福雄市氏の空手人生、そしてフリムン…
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#極真空手

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第10話 七転八倒編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第10話 七転八倒編(3)

【肉体改造】ウエイトトレーニングに没頭するフリムンに、師範から昇段審査を受けるよう指令が出た。

弐段を許されてから5年後のことであった。

前回の審査の時と違い、現役を退いてからかなりの年月が経っていた事もあり、フリムンは審査に向けある事に着手した。

そう、筋肉の質を変える「肉体改造」である。

空手用の筋肉とパワー用の筋肉は全く違う。

パワー競技に筋持久力やスタミナは必要ないが、空手の試合

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【自伝小説】第2話 小学校時代(3) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第2話 小学校時代(3) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

未来少年

その頃の石垣島にはまだ民放はなく、テレビ放送はNHKのみ。更に少年が5年生になるまでアニメ放送は皆無で、子ども向けに放送されていたのは人形劇のみであった。

その日、石垣島に激震が走った。遂にお茶の間でアニメが見られる日が来たのだ。

子どもたちは飛び上がって歓喜し、「ビートルズがやってきたYAYAYA」どころの騒ぎではなかった。

そんな記念すべきアニメ放送の第一弾は、未だ根強いファ

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【自伝小説】第3話 中学校時代(2) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第3話 中学校時代(2) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

ドラゴンロード

あの時代は、全国的に校内暴力が蔓延り、日常的に不良少年が我が物顔で跋扈していた時代であった。

例外に漏れず、この島でもビーバップワールドが広がっていた。

少しばかり郊外に行けば、必ず金銭を巻き上げられるのが常であった。

そんな中でも、群を抜いて暴君が蔓延る地区があった。

通称「七町内」である。

そこは泣く子も更に泣き出す悪夢のような地区だった。

ちなみにそこを通過する

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【自伝小説】第3話 中学校時代(3)最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第3話 中学校時代(3)最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

実戦の定義いきなり始まった代表戦。二人を取り囲んだ敵側の仲間が、少年にのみ次々と罵声を浴びせてきた。

これ以上の恐怖は他にない。しかし、何もしなければフルボッコは確実だ。

少年は仕方なくジークンドー(李小龍が考案した武術)のサイドキック(足刀横蹴り)を繰り出した。

だが、いつもよりスピード、タイミング、角度までもがイマイチだ。

足がすくんでいるのだから当然だ。

直後、その空手野郎が「フシ

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【自伝小説】第4話 高校編(1)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(1)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

FIRST LOVE(初恋)

何だかんだあった中学校生活(あり過ぎやっ)、

入試直前に「深夜徘徊」と「無免許運転」で補導されたにも関わらず、奇跡的に県立Y高に入学する事ができたのは、これが初犯であった事と、先生方へのウケが良かった事などが上げられよう。

昔からよくトラブルに巻き込まれてはいたものの、平和主義で揉め事が嫌いだった少年。それを先生方はキチンと見抜いてくれていたのだ。

ただ、そん

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【目撃談】実録 |新聞沙汰となった「マミドーマ事件」関係者の証言|by フリムン同級生@石垣島

【目撃談】実録 |新聞沙汰となった「マミドーマ事件」関係者の証言|by フリムン同級生@石垣島

この記事では、約45年ほど前、沖縄県石垣市内のN中学校生徒(石垣第N中であろうと思われる)が、天敵のI中学校の生徒(石垣市立I垣中であると推察される)に集団で殴り込みを掛けたという、通称「マミドーマ事件」についての目撃証言を公開した。この事件は全国的に新聞報道されたという。(詳しくはこちらをご覧ください)

【同級生Tさんの証言】

同級生T:
一生忘れられない全国的に報道された事件にふれちゃたわ

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【自伝小説】第4話 高校編(2)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(2)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

ケンカ空手
部活を辞め、町道場に通う決意をした少年。

退部した後も、顧問の先生から執拗に戻るよう説得されるも、意固地な少年の心が揺らぐことはなかった。

これが少年の良いところでもあり、悪いところでもあった。

しかし、この一本気な性格のお陰で、俗に言うミラクルを何度も引き起こすのだから、それはそれで良かったのだろう。

ただ、それもまだまだ先の話しである。

それから暫くして、知人の紹介で極真

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(2)

救世主声が聞こえた方向に目をやると、作業服を着たおっちゃんがタバコを銜えながら立っていた。

いきなり店の入り口からホフク前進で男が出てきたのである。きっと驚いたに違いない。

その声を聞いた瞬間、フリムンは心の中で神に感謝した。

しかし、それで痛みが消えるわけではない。

声を振り絞り、事の次第を説明しながら救急車を呼んでくれるよう哀願した。

すると、そのおっちゃんが「兄ちゃん少し痛むぞ」と

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

東京ラブストーリーそれから数ヶ月後、そろそろ労災が切れるとの事でフリムンは東京に引き返す事にした。

もちろん、時間差で彼女も後を追い掛ける約束をしてくれた。

帰省時と違い、東京に戻る時のフリムンはまるで別人だった。

これから始まる「東京ラブストーリー」を想像しながら機上の人となったフリムン。

東京に着くまで、ずっとニタジー(ニヤケ顔)が止まらなくなっていた(笑)

それから更に数ヶ月後、彼

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(3)

ダダダダ·ダディ何とかカミさんに許してもらい、空手を再開する事に成功したフリムン。

そんな、空手しか頭になかったフリムンに朗報が届いた。
待ちに待った愛娘とご対面する日が来たのだ。

あの感動の披露宴から4ヶ月後の事であった。

フリムンはより一層稽古に力を入れ、「絶対にこの子が自慢できる父親になって見せる」と心に誓った。

それから新米ダディとしての最初の仕事、『命名』に取り組んだフリムン。

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(4)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第6話 帰省編(4)

ゴッドハンド来沖極真会館が沖縄に支部を設立して5年目の事である。

遂に県内で初めての公式大会、「全九州空手道選手権大会」が開催される運びとなった。

まだ沖縄県大会が始まる1年前の事である。

フリムンは、この大会を是が非でも観戦しなければならなかった。

何故なら、この世界で本格的に活動するために、県内に住む空手家たちのレベルを知っておく必要があったからだ。

石垣島ではまだ脅威となる相手に出

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|カミングアウト編

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|カミングアウト編

はじめに初の自伝小説を書いていて思うのは、やはり人の記憶には“限の界”があるという事に尽きる。

自分の記憶と他人の記憶とでは、見る角度が異なっているため若干の違いが生じるのは仕方のないこと。

しかし、自分の記憶が自分の記憶と異なるという現象に、半ば唖然としているところである。

今回は、そんな記憶違いを新たに発見された写真を元に検証してみたい。

カンフーシューズ中学校時代編の回想録の中でも、

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(1)

【カチコミ前日】父の眠る仏壇に手を合わせ、神妙な面持ちで物思いに耽っていたフリムン。これまで生きてきた27年と10か月という人生の中で、父と過ごしたのは僅か2年。

よって彼の記憶の中に、写真以外の父の姿は存在しない。

子を授かり、親となって初めて父の無念さを痛いほど感じることができたフリムン。

「きっと、親父も我が子に背中を見せたかったに違いない」

そう思うと、志半ばでこの世を去った父が不

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第7話 黎明期編(2)

ターミネーターここまで順調に駒を進めてきたフリムン。
そんな彼の鼻を、根元からポッキリと折る初めての空手家と相まみえる事となった。

開始早々、フリムンは得意の突きの連打に加え、左ミドルやローをガンガン飛ばしながら早い段階で試合を終わらせようとしていた。

何故なら、彼の肉体が“細胞レベル”で相手の強さを感じ取っていたからだ。

スパーリングの相手も居らず、実戦不足によりスタミナに自信の無かったフ

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