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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2023年9月の記事一覧

『パパなにゆってんの?』

『パパなにゆってんの?』

まったくさいきんの子どもは

何に喜びを見出しているのか…

妙なウイルス騒ぎもようやく収まって

我が息子もオンラインではなく

毎日通学をするようになっている

私たちはつまり

日常を取り戻したというわけ

ただ10歳にも満たない

子どもたちからすれば

学校へ毎日通うことのほうが

むしろ非日常であって

給食や遠足

運動会に卒業式など

そういったさまざまな学校行事に

一同に人が会

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『「え、ゆとりちゃん弟子とってたの?」』

『「え、ゆとりちゃん弟子とってたの?」』

「そんな言葉をな…ワシに遺したまま、あいつは二度と帰ってくることはなかった…というわけじゃ…あぁ遠い遠い昔のことじゃよ…」

はいカぁーーーーーット!

「美田園さんお疲れ様でしたぁ!」

「だいじょぶだったかな?」

「えぇーもちろん最高ですよ!ありがとうございます!」

「こちらこそありがとう監督、しっかし俺も歳だね、疲れたよ」

「はっはは何をおっしゃります美田園さん!」

「これに懲りずま

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『お坊さんがビートを刻む』

『お坊さんがビートを刻む』

フラッシュモブとかいう

なんとも日本人の気質とは

相反するイベント

あれをおじいちゃんのお葬式で

せっかくだからやってみようと

イトコと意気投合したわけ

わたしもイトコも

けっこうそういうのスキなんだけど

友達の結婚式で提案したら

案の定却下されたっていう話から

じゃあ今回死んだおじいちゃん

せっかくだからよろしくねってなって

親とか親戚に反対されるかなって

ちょっと心配

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『残業の夜に』

『残業の夜に』

きょうは我が家に

ふるさと納税で

シャインマスカットが

届いているはずなんだ

昼にスマホをチェックしたら

お届けのお報せが来てたから

まちがいない

届くのはきっと二房

粒にしてええと…

我が家に陣取る小学生3人を

侮ってはいけない

会議が終わらない

この会議が終わったあと

明日の朝イチに提出する予定の

データをまとめる残務もある

妻からメッセージが届く

今夜は遅くな

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『KOMUSOが良いのか?って』

『KOMUSOが良いのか?って』

スパイの同業者組合の懇親会があって

なんでそんなのやるんだよって

みんな思うかもしれないけど

そこは案外ふつうなのよね

そんで※国のスパイの人と

いろいろ雑談してたんだけど

やっぱりN本に潜入するには

KOMUSOが良いのか?って

本人には面と向かって言えなかったけど

はっきり言って呆れたね

世界の警察

天下の※国のスパイですら

そんな認識なんだから

まさか虚無僧が

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『吉と出た日』

『吉と出た日』

鈴木と田中と俺と三人で

通りすがりの神社をお参りして

おみくじを引いてみた

吉だった

三人でメシを喰って

帰る途中

交差点で車に轢かれてしまった

いま俺は意識こそあるけど

身体が全く動かない

妻は駆けつけてくれると思いきや

これを機に若い男と

家を飛び出てしまったらしい

気分を晴らそうと

ニュースでも見てみる

手持ちの株が大暴落している

財産ほとんどもってかれた

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『※これから綴られることは嘘のようで本当の話です。』

『※これから綴られることは嘘のようで本当の話です。』

※これから綴られることは嘘のようで本当の話です。信じるか信じないかは読者のみなさんに委ねますが

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呼び鈴が鳴る

小包が届く

見覚えのない差出人だけど

間違いなく宛先は俺

小さなレコーダーがひとつ

「今夜7時に〇〇広場で赤いキャップを被った男から封筒を受け取れ」

久々の指令だった

「なおこのレコーダーは5秒後に消滅する」

ジュワッと音を立てて

白い煙となってレコーダーは消え

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『ちらし寿司ってことにして』

『ちらし寿司ってことにして』

「お電話ありがとうござます『酒処やをい』でございます。はい、ご予約の確認でございますか?えぇどうぞ…山田商事様ですね、明日…19時…はい、確認いたしますので少々お待ちくださいませ…

えぇ、お時間とにんず、あ、19時からですよね…で、28名様で…はい…はい…えぇ…明日…22日で…えぇ山田商…えぇ…あ、はい、えぇ…19時…にじゅうはち…あ…えぇ…はい、うん!はい!間違いなくご予約いただいております!

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『「あの子、昔は綺麗だったのよねぇ」』

『「あの子、昔は綺麗だったのよねぇ」』

A子とB子は同期

同じ部署になったことこそないけど

常に隣の部署で

比較され続けてきた

どちらも才色兼備

多少性格に難はあったものの

かつてはオフィスにおいても

もてはやされた

そんな時代も流れて

とはいえふたりは

いまでもライバル同士

確固たるオツボネの座に

どちらも君臨している

「あの子、昔は綺麗だったのよねぇ」

A子とB子

双方揃ってこれが口癖

A子はB子を評

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『夕立』

『夕立』

オフィスビルの中にいても

その雨音が聴こえるほどの夕立

部下の激川さんが

悔しそうに窓の外を見つめる

「あぁー洗濯物、びしょびしょになっちゃう」

彼女は独り暮らしと聞いている

それは洗濯物ひとつとっても

苦労なことだろう

「課長のお宅、洗濯物大丈夫ですか?」

うちが共働きなことも知っているからか

私が同じ状況にあるのではと

彼女なりに心配してくれているようす

「課長のお宅、

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『「しかもゴミ箱じゃなくて、完全にデリートしてる!」』

「これで何度目ですか牟野生さん…」

わたしはほとほと困り果てている

「この資料を印刷して、スクラップファイルに入れる、それだけ!」

今月から来ている派遣社員の方

わたしだってあまり叱りたくはないのだけど

「それをどうして、削除してしまうのですか?」

初日から同じようなミスを重ねて

「しかもゴミ箱じゃなくて、完全にデリートしてる!」

こうも連発されると

フォローする立場もかなり大変

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『私の原稿書きが大詰めというところで』

『私の原稿書きが大詰めというところで』

私の原稿書きが大詰めというところで

妻が会社から帰宅した

にわか雨が降っていたから案じたが

準備のいいことに

折りたたみ傘を持っていたようだ

そういえば夕食の準備を失念していたが

妻は百貨店の紙袋を顔の高さに掲げてみせた

おいしそうな惣菜があったから

今夜はこれにしましょうと

デパ地下メシは助かる

手軽でおいしいうえに洗いものも少ない

そんな楽ができるのもひとえに妻のおかげ

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『「えコレも福袋だっけ」』

『「えコレも福袋だっけ」』

ユリさんの空気の読めなさには

呆れを通り越して

むしろ感心している

明日からウチのスーパー

創立記念日週間で

一年でいちばんの書入れどきの

特売セールなんだけど

そんなのもう

5年もパートやってるユリさんなら

ぜったいわかってるはずなのに

急に明日休みますって

元々のシフトを崩して

店長に詰め寄ってみたら

ご家族の具合が悪いってことみたい

あの人

旦那に先立たれて

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