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『「えコレも福袋だっけ」』
ユリさんの空気の読めなさには
呆れを通り越して
むしろ感心している
明日からウチのスーパー
創立記念日週間で
一年でいちばんの書入れどきの
特売セールなんだけど
そんなのもう
5年もパートやってるユリさんなら
ぜったいわかってるはずなのに
急に明日休みますって
元々のシフトを崩して
店長に詰め寄ってみたら
ご家族の具合が悪いってことみたい
あの人
旦那に先立たれて
それから身よりもいないって
しょっちゅう休憩中に
こぼしていたけど
きょうは閉店後に事務所で
セール用の福袋を詰める
子供向け袋にお菓子やおもちゃ
主婦向けには保存食品や日用品を
指定されたとおりに詰めて
ホッチキスで留めて
色つきテープでその上から覆う
これがけっこうキツイ作業なのよね
そもそも普段の業務をこなしてから
いくら時給が発生するとはいえ
こんなのやらなくちゃならないなんて
ユリさんがひょっこり現れた
いちおうご家族はだいじょぶなのって
みんなきくけど
誰ひとり心配してないし
そもそも何しにきたのよあんたって
心の中では思ってる
特売セールの準備で忙しいのに
急に休んでごめんなさいって言いたくて
なんて
彼女らしくないことを言うから
みんなちょっと怯んでしまって
それから
これつまらないものですけどって
けっこうな量のお菓子を
差し入れしてくれたの
それより袋詰め
手伝ってほしかったけど
シフト外だからしかたないか
ユリさんはそのまま
店をあとにして
レジ閉めの作業から
事務所へ戻った店長が
ユリさんがくれたお菓子の山をみて
「えコレも福袋だっけ」
なんて言うものだから
ユリさんの差し入れですよって
「いやコレ、廃棄のやつだ、ほら」
さすが店長
よく見たら賞味期限過ぎてる
本来ならもっと早く見切るんだけど
なんでユリさん抱えてたんだろうって
ザワザワし始めて
「ユリさん、エコだなぁ」
店長だけひとり
見当違いなコメントを残して
また棚卸のために
売り場のほうへ戻っていった
わたしたちはなんだか
やる気が突然失せちゃって
だからこの件は
店長の奢りということにして
売り場のアイスをひとり一本ずつ
いただくことにしたの
アイスってたしかに
賞味期限書いてないわね