『ちらし寿司ってことにして』
「お電話ありがとうござます『酒処やをい』でございます。はい、ご予約の確認でございますか?えぇどうぞ…山田商事様ですね、明日…19時…はい、確認いたしますので少々お待ちくださいませ…
えぇ、お時間とにんず、あ、19時からですよね…で、28名様で…はい…はい…えぇ…明日…22日で…えぇ山田商…えぇ…あ、はい、えぇ…19時…にじゅうはち…あ…えぇ…はい、うん!はい!間違いなくご予約いただいております!『秋づくしのコース』で…えぇはい…お待ちしております…はい…失礼いたしますぅ…」
やってしまった
予約台帳に
書き忘れた…
この団体予約
2か月くらいまえに
俺が電話で受けたやつだ
社名も幹事の声も聞き覚えがある
あまりに忙しくて
ついメモ用紙に書いたまま
転記をしそこねたようだ
俺バカすぎるだろ
明日は週末金曜日
19時なんて書き入れ時
団体こそ入っていないものの
予約でほぼ満席
28名のコースなんて…
そしてもっとバカなことに
幹事からの確認の電話に
嘘をついてしまった
さあこれはあとがないぞ俺
飛ぶか?
いやそんな
客のことも店のことも
正直どうでもいいけど
このバイトを紹介してくれた
先輩にメンツが立たない
バカな俺よ
よく考えろ
とりあえず休憩時間になった
近くの喫煙所でぼうっと考える
スマホを取り出して
管轄の保健所を検索する
電話する
「あ、もしもし?XX町の『酒処やをい』って店だけど、あそこできょう昼飯喰ったらめちゃくちゃ腹いたくなったんですけど。そう、俺だけじゃなくてツレの人も」
休憩の後半は
まかないを喰う
先輩も同じ時間だから
先輩のぶんも用意する
さっきタバコの帰りに
店の裏のゴミ袋で拾った
刺し盛りの残飯を
ちらし寿司ってことにして
先輩すんません
道連れになってください