くまのなな
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沈みたい夜に、物件サイトで夢をみた
むかしから、物件情報を眺めるのがすきだった。自分に手が届きそうな賃貸マンションやアパートをチェックすることもあれば、理想をつめ込んだ憧れの物件を探すこともある。目がまんまるになるほどの豪邸を見て、どこのセレブが住むのだろうと想像するのも楽しかった。
ただ、物件情報をひととおり眺めたあと、満足して「あぁ楽しかった」とカラリと言えないときもあった。どろりとした気持ちですがるように物件サイトを見ていた
雨の日、傘の中で流れた涙。
あなたがわたしを手に取るときは、
いつもちょっとだけ不安そうな顔。
やさしい指先でわたしに触れて、
そうっと耳元に添えて鏡を見る。
そうして、小さくつぶやくの。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
きっと人間の世界には、
わたしが想像できないくらい
苦しいことがあるのでしょう。
ぼんやりするほどに悲しいことも、
笑うしかないほどに切ないことも、
数えきれないほどあるのでしょう。
ただ咲くことだけを
小さな羽で軽やかに、大きな世界に挨拶を。
ずっとこのまま、なあんにも
気づかないフリをしていられたら
しあわせだったのかもしれない。
心が新しい世界に向いていることを
無視して、知らんぷりしていられたら。
わたしはここにいるのがふさわしいと、
自分に言い聞かせていられたら。
けれど少しだけ開いた扉の先を、
見てみたいと思ってしまった。
知ってみたいと願ってしまった。
未知の風がふわりと吹き込んで、
わたしの頬をするりと撫でる。
ああ、こ
秘めた言葉を、受け取る相手は。
あなたに言葉を求められるたび
わたしの口が結ばれていくことに、
あなたは気づいていたのかな。
「言わないとわからない」と、
「黙っていたらわからない」と、
あなたは言っていたれど。
視線で、態度で、ため息で。
わたしが取り出そうとする言葉を
上から封じ込めていたことに、
ねぇ、あなたは気づいていた?
まるで氷のような美しさの中に、
天然石とパールが静かに眠っている。
わたしが心に秘めている言葉の
生きる姿を、ただ耳元で見ていて。
あのね、本当は、つい逃げ出したくなるの。
人の視線にさらされず、言葉を求められず、
現実味のない場所でただ微笑んでいられたら。
傷つくことはないのかもしれないなって。
ああ、でも、わたしには自我がある。
意志がある。言葉がある。権利がある。
なにも見えていないフリをして
ひたすらニコニコしていたら、
きっとそのとき、わたしは聞くんだ。
心が潰される音を。尊厳が崩れる音を。
家の中の、いつもと同