小さな羽で軽やかに、大きな世界に挨拶を。
ずっとこのまま、なあんにも
気づかないフリをしていられたら
しあわせだったのかもしれない。
心が新しい世界に向いていることを
無視して、知らんぷりしていられたら。
わたしはここにいるのがふさわしいと、
自分に言い聞かせていられたら。
けれど少しだけ開いた扉の先を、
見てみたいと思ってしまった。
知ってみたいと願ってしまった。
未知の風がふわりと吹き込んで、
わたしの頬をするりと撫でる。
ああ、この風に、乗れるだろうか。
朱色と金色で編まれた蝶々が、
わたしの耳元でシャラリと揺れる。
わたし、あなたみたいに、
軽やかに飛び立つことができるかな。
はじめての風に乗って、遠く遠く、
扉の向こうに行くことができるかな。
「やめようよ」と不安が言う。
「失敗するよ」と恐怖が言う。
「ここにいようよ」と億劫が言う。
だけど、透き通る美しさで
未来を見ているこの子だけが、
蝶の羽で風を受けているこの子だけが、
たった一言、わたしに言うんだ。
「もう、扉は開いてるよ」。
そうよ、壁を壊す必要はない。
誰かを踏みつけ進むわけでもない。
目の前に開かれている扉に
そっと手をかけて、ただ一歩。
動き出すことさえできたなら。
ふうわり、ふうわり。
髪をなびかせる春の風に
蝶のように身をあずけて、
いまから行くよ、扉の先に。
今までの自分を抱えながら、
知らない自分に会いに行く。
はじめまして、こんにちは。
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