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池上エリアリノベーションプロジェクト|池上を紡ぐvol.06「行動すれば、池上の人は全力で応援してくれる」健康スタジオの西尾さん

東京都大田区、池上(いけがみ)駅。池上本門寺の門前町として発展してきた、どこか懐かしさを感じるまちです。大田区と東急株式会社の公民連携基本協定に基づく「池上エリアリノベーションプロジェクト」は、池上の魅力を掘り起こし、まちをさらに活性化させるために発足されました。
本プロジェクトの企画として立ち上がったのが、「池上を紡ぐ(つむぐ)」。長年池上で商売してきた方の歴史や想いを、丁寧に糸をつむぐように、池上で新しいことを始めたい次の世代に繋げていきたい。そんな気持ちで、この企画は誕生しました。

取材を受けていただいた方に、次にお話を伺う方をご紹介してもらう。そうやって丁寧にご縁を結んできた本企画。とうとう、今回が最後の取材となりました。前回お話をお聞きしたのは、英語教室を運営する永冨さん。そして、永冨さんにご紹介いただいた方が、健康スタジオ「manaviva(マナビバ)」を運営する西尾章(にしお あきら)さん!

マナビバ池上店の初代店長を務めつつ、現在はマナビバ川崎店の店長と店舗全体のマネージャー業務を担当している西尾さん。西尾さんは、マナビバを通して「高齢の方の予防介護を広めたい」と語ります。

健康スタジオってなに? マナビバを池上で始めようと思ったきっかけは? 地域の方との交流はどうしてる? などなど、詳しくお聞きしました!

介護が必要になる前に、健康をサポートしたい

―― まずは、マナビバのサービス内容についてお聞きしたいです。シニア・ミドル世代に向けてレッスンを行っているそうですが、具体的にはどのようなことを?

マナビバでは、シニア・ミドルの方の予防介護を目的に、体と頭の健康をサポートするさまざまなレッスンを提供しています。

体のレッスンは、ヨガやフラダンス、体幹トレーニングやストレッチなど。頭のレッスンは、英会話やペン習字、あとはボーカルレッスンも人気ですね。健康を促進するために、体と頭のどちらにもアプローチできるレッスン内容を意識しています。

―― 年を重ねても豊かに暮らすために、「予防介護」はとても重要なポイントだと感じます。マナビバを運営する株式会社スマイルラボが設立したのは2016年7月ですが、当初から予防介護を目指している点は変わっていないですか?

変わっていないですね。誰でも等しく年を重ねる中で、「介護を受ける状態になりたい」と考えている人は少ないと思います。みんな、健康に生きることを望んでいる。だからこそ、介護が必要になる前に、健康を維持するための工夫を取り入れることが大切なんです。

マナビバの運営会社であるスマイルラボは、代表取締役である成田と、あと僕を含めて、合計4人でスタートしました。成田は、前職では老人ホームを運営する会社の代表だったんです。僕と他の立ち上げスタッフも、もともとはその会社で働いていました。

―― なるほど! スマイルラボを立ち上げた初代のスタッフさんは、前職から介護に深く関わっていたんですね。

そうなんです。介護が必要な方たちと触れ合う中で、介護保険でできることの制限を痛感しました。僕たちが提供したい内容と、実際にできることに、少しずつズレを感じるようになったんですよね。

そんな中で、代表の成田が「健康寿命を伸ばすために、予防介護を形にできる民間企業を作りたい」と発案して。その思想に共感して、他のスタッフと一緒にスマイルラボの立ち上げに参加しました。マナビバ池上店は、スマイルラボの命運を背負った第一号店なんです。

―― 介護の現場を見てきたからこそ、予防介護の重要性も実感したんですね。マナビバでレッスンを受けている方の平均年齢は、どれくらいなんでしょう?

マナビバ池上店の生徒さんの平均年齢は、70歳くらいですね。70歳と聞くと、すごく高齢の方を想像する方も多いと思いますが……。

レッスンを受けている方たちは、みんな本当に元気! パワフルな姿に、こちらが元気をわけてもらっているくらいです。

―― 先ほどスタジオにお邪魔した際に、レッスン開始を待っている方たちの様子を拝見しました。皆さまワイワイとお喋りしていて、楽しそうで……。生徒さんにとって、同世代の方との憩いの場にもなっていると感じました。

心身を健康に保つには、気の合う方たちとのお喋りも大切ですから。社交場としてマナビバを活用していただけたら、僕たちスタッフとしても嬉しいです。

生徒さんの中には、その日の最初のレッスンから参加して、お昼は生徒さん同士で近くのお店で食べて、午後のレッスンを受けて夕方に帰宅する……なんて方もいらっしゃいます。学校のように通ってくれているなぁと思いますね。

「想定外のことばかり」手探りで進んだスタジオ運営

―― 西尾さんは、池上のご出身ではないんですよね。どうしてマナビバ一号店を池上に出そうと思ったんですか?

僕の出身は東京の稲城市なんですが、祖母が大田区の鵜木に住んでいて。子ども時代はよく祖母の家に遊びに行ったので、大田区の土地勘は多少あったんです。なので、大田区の中でいいところがあれば……とは思っていました。

マナビバを出店するときに考えていたポイントは、地域密着型の店舗が多い土地であること、そして、生徒さんになっていただけそうなご高齢の方が多く住んでいることでした。

会社を立ち上げた初代スタッフと相談しながら、さまざまな地域の特色を調べていくうちに、東急池上線沿いが希望に近いとわかりました。そこからさらに池上駅に絞ったのは、もうフィーリングとしか言いようがなくて……。池上の商店街の活気、ご高齢の方のパワフルさ、お店とお客さまの距離の近さなどを肌で感じて、「この駅がいい!」とピンときたんです。

―― 池上に第一号店を出してみて、運営は順調でしたか?

いえ、それが、最初はなにをやってもうまくいきませんでした(笑)

まず間違えたのは、生徒さんの想定です。当初僕たちが用意していたレッスンは、折り紙教室やお花教室など、体を動かさない内容がほとんどでした。生徒さんのイメージ像を、“周りのサポートが必要なご高齢の方”にしていたからです。

だけど、池上を歩いているシニア・ミドル世代の方は、僕たちの想像よりずっと元気でした。僕たちのイメージとは真逆の、“エネルギーに満ちたご高齢の方”だったんです。

―― 想定していたお客さま像とのズレは、事業をするうえでは大打撃ですね……! イメージの違いに気づいてから、その後どう対処したんですか?

英会話などの人気のあるレッスンは残して、体を動かすレッスンを増やしました。レッスンを受けていただいた生徒さんの声を聞きつつ、他のスタッフや講師の方とみんなで頭を悩ませながら、反応のいいレッスンだけを残していった感じですね。

現在提供しているレッスンはどれも安定した人気がありますが、僕ひとりの力ではなく、生徒さんやスタッフと協力しながら、少しずつ作り上げてきたものです。

池上の生徒さんは「いいものはいい、悪いものは悪い!」とハッキリ伝えてくれる方が多くて。生徒さんの声を真摯に受け止めてきたからこそ、マナビバはここまで成長できたんだと感じています。

―― 当初の想定とズレがあったとき、西尾さんや他のスタッフさんのように柔軟に方向転換できる方もいれば、変化を受け入れることに抵抗を感じる方もいると思います。やり方を変えるのは、怖くなかったですか?

僕は、自分のやり方を変えなかった結果、事業が頓挫してしまうほうが怖いです。

池上店のオープン当初は、もう全員が必死だったんですよ。「理想通りに進まないことばかりだ、どうしようどうしよう」って、眠れない夜も多くて。

だから「なにか手があるなら、とにかくやってみよう!」と、スタッフ同士で協力しながら手探りで進むしか方法はありませんでした。

―― 運営が上向く兆しがない中の生活は、精神的にも負担が大きいですよね……。マナビバ池上店を地域の方に知ってもらうために、なにか効果的だった方法はありますか?

一番効果があったのは、スタジオの前でチラシを配りながら、歩いている方たちに声をかけたことです。スタジオで過ごしているうちに「中には入ってこないけど、興味ありそうに覗いていく方が多いよね」とスタッフの間で話題に上がって。「これはきっかけが作れるかもしれない!」と、話しかけてみたんですよね。

商店街を歩く方にヒアリングをするうちに「運動はしたいけど腰が痛くて……」など、“体に不調を抱えつつも運動への意欲はある方”がいると知りました。そこで、腰に負担をかけずに体を動かせるレッスンを考えてアプローチしてみたら、とても反応がよかったんです。

池上で暮らす方たちの生の声を聞くことで、よりレッスンの質が高まったんだと思います。そこから、本当に少しずつですが、生徒さんがじわじわと増えていきました。

―― 反対に、効果がなかったアプローチの方法はありましたか?

まったく効果がなかったのは、SNSなど、インターネットを使っての販促活動です。

まぁ、僕たちが情報を届けたい年齢層の方たちは、多くがSNSを見ないので(笑)アプローチしたい方たちに合わせた販促活動の大切さを痛感した出来事でした。

難しく考えない。ただ「挨拶」だけはしっかりと!

―― 池上のご出身ではなく、かつ現在も別の場所で暮らしている西尾さんですが、池上の地にとても馴染んでいるように見えます。地域の方と接するうえで、なにか意識していることはありますか?

マナビバ池上店をオープンしたときに、商店街の端から端まで、菓子折りを持ってご挨拶に伺いました。でも、それくらいかな? 商店街のお店が集う「商店会」には入っているし、地域のイベントがあれば参加はしますけど……。

それよりも、日々のお声がけが大切だと感じています。最初の挨拶で面識はできているから、次にお会いしたときも「こんにちは~」「今日は寒いですね~」と話しかけていました。相手が気づいていなくても、こちらから肩をたたいていましたね。

お話をするうちに、こちらの顔と名前を覚えてもらえるので。コミュニケーションって、そういう小さな行動の積み重ねだと思います。

―― 挨拶……。言われてみれば基本的なことなんですけど、意識しないとつい「相手が気づいていないからいいや」となってしまいそうです。

そうそう。やっぱりこちらは受け入れてもらう側なので、機会があれば積極的に話しかけたほうがいいと思います。イベントなどで会う機会があっても、その後の関わり方が雑だと、関係性が深くならないかもしれないし。

―― 西尾さんは、昔から人に話しかけることに躊躇しないタイプでしたか?

いや、実はすごく人見知りです。前職で営業も担当していたので、そこで少し慣れましたけどね。

ただ、池上の方たちは、こちらが話しかけたら受け入れてくれたので。話しかけたら聞いてもらえる経験をするうちに、自然と交流できるようになったのかもしれないです。

―― 緊張はするかもしれないけど、まずは自分からコミュニケーションを取ることが大切なんですね。

そうですね。あくまで僕の感じたことですけど、池上の方たちは、信用さえしてもらえたら自分の損得は関係なく全力で応援してくれます。「この子たちがんばってるから、応援してあげて!」って、自分の周りの人にもアピールしてくれたり。

ただ、最初から向こうが来てくれるわけではないので、受け身ではなにも始まらない。自分から、地域の方に関わっていく必要があると思います。

―― 「話しかけられるのを待つ」では、なにも始まらない?

はい。マナビバ池上店の運営が上向き始めたのも、スタジオの前で積極的に地域の方に話しかけたからです。池上で商売をしている方たちとの交流も、挨拶がきっかけでした。

もし僕たちが受け身のままで、自分からなにもせずにいたら、マナビバ池上店はどうなっていたかわかりません。自分から行動する積極性は、事業をするうえで必須だと感じています。

―― 今回、慣れない土地で事業を始めて、けれど成功している姿を見せていただいて、とても勇気をもらいました。「池上で新しいことを始めたい」と考えている方にとっても、励みになるのではないかと思います。
最後に、池上でなにかチャレンジを考えている方に、メッセージをいただけますか?

僕も、今でこそマナビバの成長を感じていますが、最初は想定外のことばかりでした。スムーズにいくことより、うまくいかないことのほうがずっと多かったです。スタッフと何回も話し合って、みんなでたくさん悩んで……。

だけど「予防介護を広めたい」という軸は、全員が昔から変わっていません。自分の「これを貫きたい!」という思いさえブレなければ、仮にやり方が変わっても、そこまで気にしなくていいんじゃないでしょうか。

あとは、やっぱり積極的に人に話しかけること! 池上は人との交流が好きな方が多いので、コミュニケーションを大切にしていれば、きっと応援してもらえると思います。

manaviva 池上スタジオ
東京都大田区池上7-2-10
https://www.mana-viva.net/ikegami.html

池上エリアリノベーションプロジェクトは、2022年3月をもって終了いたしました。公式サイトの運用停止にともない、取材記事をこちらに移動しています。

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