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創作

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1人でも多く読んで貰いたいので頑張ります。 1年で短編50本チャレンジ中
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#ショートショート

カミキリ

カミキリ

 

神切神社を知っているだろうか。神でさえ縁を切りたくなるという有名な縁切り神社のことである。なんとも物騒な名前ではあるが、その最寄りにある『神切駅』がここまで大きくなったのは、他でも無くこの神社のお陰だ。街のシンボルである神切神社を、私は一日に二度見ることになる。

 会社の行き帰り、私は神切駅で地下鉄から他の路線へ乗り換える。改札を一度出なければ行けない為出社の際には億劫だが、帰り道はショッ

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【サンプリング小説】この僕はイケアのサメのぬいぐるみでないし君を強く抱けるよ

【サンプリング小説】この僕はイケアのサメのぬいぐるみでないし君を強く抱けるよ

この僕はイケアのサメのぬいぐるみでないし君を強く抱けるよ
引用:Twitter @uzume_no_hijiri(あめのうずめ 様)

僕たちは、心を巡る感情が余りにも沢山で複雑だ。
だから人間は、喜怒哀楽を表に出してコミュニケーションを行っている。
僕は人間の、心に収まり切らなくなって表情が変わる瞬間というものが堪らなく好きだ。
それが笑顔だろうが泣き顔だろうか、はたまた怒りだろうが、感情が表に

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クリスマス・ミッドナイト

クリスマス・ミッドナイト

「ねぇ、お母さん。
僕の家は煙突が無いのに、
どうしてサンタさん来てくれるの?」

すっかり寝静まっている功太の
台詞を思い出しながら、
葵は温かい紅茶を飲んでいた。

「サンタさんは何だって出来るのよ」

1人で過ごす夜の12時、
テレビの音は一番小さくして、
クリスマスらしいバラエティ番組を何となく付けている。
葵は咄嗟に誤魔化してしまった返答について思い直していた。

サンタクロースは、遠い

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金魚鉢

金魚鉢

江戸時代の忍者みたいな気分だ。
いつ、誰にやられるか分からない身分だと、
こういう気持ちで日々を過ごすのかしら。

朝、上靴を履く前にしなくちゃいけない習慣がある。

まずは中をしっかり覗いて、つま先の方に画鋲が入っていないか確認する。
画鋲を取り除いたら、ようやく履いて
それから教室へと向かう。

ここで安心してはいけない。
敵は思わぬ方向から攻撃をしてくる。
廊下でホウキを持っている者や、

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モモ

モモ

田んぼに囲まれた田舎道で、
ヨチヨチと歩いている小さなアヒルを拾った。

正直、アヒルかどうかも分からなかった。

アヒルにしては薄汚れているし、
ただこの辺を歩いているのだからアヒルだろうと思った。

抱きかかえると、アヒルは低い不細工な声で
「ヴー」と鳴いた。

お世辞にも可愛いとは言えなかった。

それでも、大人になるまできちんと育てようと思った。

白鳥になるかもしれない。
かの有名な童話

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シロとクロ

シロとクロ

私は知ってるの。
夢のことならなんでも知ってる。

今日も怖い夢を見たでしょう?
見たことのない化け物に
追いかけられる夢だったでしょう?

私は知っているの。
夢のことなら知ってるの。

その夢から覚めたとき、
心臓はドキドキしてるでしょうか?
案外何とも無いのでしょうか?

私には何もわからないの。
目が覚めた瞬間、分からなくなってしまうのよ。

ところで気付いていましたか?

私を捨ててから

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アルコール度数19%

アルコール度数19%

お酒を少し頂けませんか?

耳を疑った。
終電間際、人の通りも少ない駅のホーム。
幾つもある柱の1つに支えられている彼女は、
初対面の僕にお酒を要求した。
顔色が悪い。
お酒など持っていなかったので
自販機で水を買って差し出すと、
彼女はゆっくりと首を横に振った。

「水は嫌い」

『じゃあずっとそうしておけば良い』

本当はそう言いたかったが、
顔色が益々悪くなっていくので、
僕は何も言わずに離

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雷様を連れて来る

雷様を連れて来る



その日はずっと雨が降っていた。
漸く1日が終わって静かになった頃、
遠くの方から不穏な音が鼓膜に響いた。
低く、世界に不安を掻き立てるようなゴロゴロである。

由香里は枕元の
目覚まし時計をセットしているところだった。

「雷?」

海斗は由香里の顔色が変わったことに気が付いて、
窓を開けて様子を伺った。

音の小ささからして距離は随分遠いようだが、
このまま近付いてくるのは間違いない。

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トカゲのしっぽ

トカゲのしっぽ

綾子が喋らなくなったのは、
中学2年生になったばかりの頃だった。

1年生の頃は自然な会話が出来ていただけに、
クラスの皆が戸惑いを隠せずにいた。

綾子が話さなくなった瞬間は、
親友の莉花と、綾子自身だけが気付いていた。

2年生、春の始まり。
クラスメイトが順番に自己紹介をする時間があった。

出席番号に沿って、
1人ずつ立ち上がる。

皆照れ臭そうに名前と一言を述べては、
後ろの席へとバトン

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鯨のお腹

鯨のお腹

鯨のお腹の中は、
暖かくて懐かしい音がして、
案外心地良かった。

私が乗っていた船が転覆しかかったのは
昨晩の夜のことである。

貨物船員として働いている女性は、
世界中探してもきっと少ない。

だから、嵐に巻き込まれて船がひっくり返りそうになった時
真っ先に救命ボートを使って逃したのは
唯一の女性である私だった。

その瞬間は、確かに私を助けてくれたのだと思った。

だからこそ、絶望が大きかっ

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僕の心と君の言葉

僕の心と君の言葉

口が1つしかないのは
心が1つしか無いからだと、
僕は痛い程に思い知った。

小さな市民体育館が空っぽになって、
主催者の男が茶封筒を渡して来た。

「いやはや、想像以上に大盛況でしたよ。
大人も子どもも喜んでくれて」

小太りでスーツを着た男は、
満足げに笑っている。

カメラを持った女性が小走りで近付いてきて、
名刺を僕に手渡した。
肩書きには
『南市役所広報担当』と記されている。

シンプル

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僕の小さな世界と大きな洗濯機

僕の小さな世界と大きな洗濯機

洗濯機の底がどこかへいってしまった。

気付いたのは今朝のことで、
洗濯をしようと蓋を開けて、
今まさに靴下をぶちこもうとしたところだった。

あと数秒気付くのに遅れていたら、
お気に入りの靴下は
どこかへいってしまっただろう。

洗濯機は縦型のやつで、
底を覗くとアニメでよく見る
ブラックホールのように
モヤモヤとしていた。

寝ている間に、
何かと繋がってしまったのかもしれない。

僕は呆然と

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タロちゃん

タロちゃん

髪を切った。

洗面台の前で、
安いカットバサミを使って、
バッサリ切った。

そうする他に無かったからである。

『人は、思い込みでヒトを認知する』

大学時代、心理学の授業で教えて貰った。

だから、私の髪が長いと信じているタロちゃんは
私を見つけられないと思った。

大胆に切った髪は上手く整えられるはずもなく、
毛先もバラバラでヘンテコだった。

でもそんなこと構わなかった。

私はお母さん

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名前のついた猫たち

名前のついた猫たち

大和家のお屋敷は不穏な空気であった。

このお屋敷はとっても広くて、
ご主人様とその奥様の元、
4匹の猫が住んでいる。

お屋敷は平屋で、
その代わり部屋の数がとっても多い。

猫たちには、部屋が幾つあるかなんて
最早把握出来ていなかった。

このお屋敷の猫たちは、
みんな奥様が拾ってきた猫ばかりだ。

1番年上はタマゴロウ。
真っ白くてスマートなオス猫で、
みんなが頼りにしているリーダー的存在だ

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