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Random Walk

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執筆したショートストーリーをまとめています。
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#SF

【掌編小説】regulation No.49

【掌編小説】regulation No.49

「関係者の皆様へ
平素より、我々が主催するグランアスロン競技へのご理解とご協力をいただきまして誠にありがとうございます。皆様のお力添えを受け、身体の一部を機械と置き換える義体化技術を施した選手がトライアスロンを行うグランアスロン競技は年々その競技人口を増やしております。未だ発展途上の当競技ではありますが、この度、我々グランアスロン実行委員会は新たにレギュレーションNo.49の改定を行いこれまで禁止

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【掌編小説】騒がしい知識

【掌編小説】騒がしい知識

 二十一世紀の初めの頃、世界人口の増加ペースに食料生産能力がいよいよ追いつかなくなったと分かったときに、一部の富裕層は自らを電子データに変換することを決断した。彼らはデータ生命と呼ばれている。

 インタビュアーが感心した様子で話す。

「凄い決断でしたね」

「ところがそういう訳でもなくてね。ヨガやらゼンやらのブームと同じくらいの感覚で、『食糧難の時代到来。いまこそ肉体を捨ててクールでスマートな

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LAST HOLIDAY

LAST HOLIDAY

午後五時になると、いつも通り部屋の隅に備え付けられたスピーカーから音楽が流れ始める。

ライブラリに表示される曲名は、ドヴォルザーク交響曲第九番「新世界より」第二楽章「家路」。

はるか昔にこの部屋を作った人が設定したのだろうか。私は流れるメロディを聴きつつ、分厚いガラスが填め込まれた窓から外の景色を眺める。
地平線を埋めつくすような巨大な太陽はいつまでも沈むことはない。
夜空は真っ赤に燃えていて

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光について

光について

「ハツヒノデ?」

頭に疑問符を浮かべてリリィが呟いた。宇宙服のヘルメット越しでもきょとんと不思議そうな顔をしているのがよく分かる。いつでもくりくりと表情豊かなのが彼女の可愛いところ。宇宙空間での単調なメンテナンス作業の時でも彼女といると退屈しない。

「そう、初日の出。ニューイヤーを迎えるときの最初の太陽の光のことなんだけど、良かったら一緒に見ない?」

彼女の疑問にそう答えながら、私は作業の手

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無限掃除機

無限掃除機

我が家の掃除機には一つ不思議な点があった。
よく掃除機にはゴミを一定量吸い込むとゴミを溜める紙パックの交換目安として本体のどこかにランプが設置されている。御多分に漏れずこの掃除機にもその機能がついている。

しかし買ってから5年ほどたつのだけど、そのランプが全く点灯しないのだ。

僕は掃除は結構好きな方で、部屋全体に軽く掃除機をかけてから、ゴミ取りワイパーでフローリングをくまなく拭き上げる。汚れが

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星の逢瀬

星の逢瀬

惑星No.XX、そして惑星No.XYとナンバリングされた星の調査に訪れたのはケイタを含む3人のチームだった。その二つの星は互いの重力に引かれあいながらも絶妙な距離を保っており、それぞれに無数の小惑星帯を纏っている。
両惑星の生態系について比較調査するように、というのが上からの指令だった。

ケイタは調査チームを二つに分けることにし、2台の調査艇でそれぞれの星の生態系調査に向かった。No.XXはサブ

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月は見えている?

月は見えている?

『ねえ、そこから月は見えるかい?』

彼が通話機越しに尋ねてくる。
私は通話機を持ったまま、ベランダのドアをそっと開けて外に出る。
少し冷たい夜風を受けながら空を見上げると、そこにはぽっかりと丸い月が浮かんでいた。

「今日は雲もなくて、丸い月がよく見えるわ」
『そうか、こっちはタイミングが悪いのか、よく見えないよ。こちらの月はそっちより見やすいはずなんだけどね』

彼が寂しそうに笑う。通話機の向

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LAIKA CAME BACK

LAIKA CAME BACK

その日、いつものように地上から上がってきたパレットから荷物を降ろしていると、どこかでガタガタと音がした。

「なんか音がしねえか?」

同僚のユイカに問いかける。彼女は手元の端末で積み荷の中身と個数のチェックを行っているところだった。
端末から目も上げずに彼女が言う。

「えー、タカヤさんの気のせいじゃないですか?」
「いや絶対したって、ガタガタっていったぞ」
「積み荷の梱包が甘かったんじゃないで

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