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星の逢瀬


惑星No.XX、そして惑星No.XYとナンバリングされた星の調査に訪れたのはケイタを含む3人のチームだった。その二つの星は互いの重力に引かれあいながらも絶妙な距離を保っており、それぞれに無数の小惑星帯を纏っている。
両惑星の生態系について比較調査するように、というのが上からの指令だった。

ケイタは調査チームを二つに分けることにし、2台の調査艇でそれぞれの星の生態系調査に向かった。No.XXはサブリーダーのキャリーが、No.XYはケイタが担当する。

惑星No.XYに降り立ったケイタが見たものは、一面の海で泳ぐエイのような生物だった。その内の何匹かを麻痺銃で捕らえて仔細に調査する。

その生き物はこの星の生態系の頂点に君臨しており、翼のようなヒレで海の中を飛ぶように泳ぎながら、尻尾の先にある器官で獲物を麻痺させて捕食している。これを仮にバトイデアと呼称することとした。

不思議なのはその過剰にも思える強固な外皮だった。そのおかげで生態系の支配者となったことは容易に想像できたが、それにしても海中に住むには不適切と思えるほどの重量と強度を備えていた。レーザーメスでも解剖に苦労したほどだ。

もう一つ不思議な点として、ランダムに複数匹捕らえたはいいが、どれも雄体と思われることだ。通常の調査では雌雄それぞれを十分捕獲できるくらいの数を捕らえたにも関わらず、だ。
雌雄同体なのかとも考えたが、生殖器官は備えているが、どう調べても幼体を生育できるような器官は見当たらなかった。

つまり、この星にはバトイデアはオスしかいないことになる。

同じタイミングでもう片方の惑星、No.XXに調査に行ったキャリーからも驚きの報告があった。惑星No.XXにもバトイデアと同種と思われる生物が発見されたが、そちらは幼体の育成器官を備えているものしかいないと言う。

つまりあちらの惑星にはバトイデアのメスしかいないことになる!

ケイタは調査データを母船に送ると、いったんキャリーと母船で合流することにした。

母船に戻ると、待機していた観測員のロバートと、一足先に戻ってきていたキャリーがケイタに駆け寄ってきた。

「ケイタ、これを見てくれ」

ロバートがハンディの端末で両惑星の詳細な軌道計算結果をケイタに示す。

それは驚くべき結果だった。

二つの惑星の軌道はおよそ一年に一度、最接近軌道を描く。最接近と言っても互いに干渉しない十分な距離を保つのが通常だが、この惑星達はその大気がお互いに混ざり合うほどの距離まで接近する。衝突しないのが不思議なほどの距離だ。
データを見つめながらキャリーが言う。

「ねえケイタ、私このデータを見て考えたんだけどね、もしかしてバトイデアって普段はこの2つの惑星に分かれていて、この最接近の時に繁殖行為を行うんじゃないかしら」
「それは、まさか」

にわかには信じられない仮説だった。
だがバトイデアの持つ不自然なほどに強固な外皮を考えるとあながち荒唐無稽とも言えない。

ケイタはキャリーの仮説を確かめるべく、最接近のタイミングで再びチームを率いてこの宙域を訪れることにした。


そして訪れた最接近の日。

ケイタ、キャリー、そしてロバートは固唾を飲んでその荘厳な光景を見つめていた。

二つの惑星は最接近軌道を描きながらゆっくりと近づいていく。
近づくにつれて互いの重力に引かれあうようにそれぞれの大気が、そして海の一部までもが混ざり合っていく。
うねり、歪み、交じり合い、惑星を構成する分子成分そのものから混交されていく様は、惑星そのものの交合のようだった。

天体の間には周囲を漂っている小惑星帯が重力に引きずられて集まり、まるで橋のようにそれぞれの天体を繋いでいる。

ケイタはコンソールを操作し、観測レンズをズームする。

そこにはキャリーの仮説通り、それぞれの惑星に生息する大量のバトイデア達が、まるで波に乗るように積極的に最接近地点へと移動していた。

2つの惑星の間を遠距離観測すると、雌雄のバトイデア達がぎりぎり生存できるくらいの大気成分だった。
もし少しでもバランスが悪ければどちらかが生存できず彼らは絶滅してしまうだろう。こんな「危ない橋」をバトイデア達は何世代にも渡って通り抜けていたのか。

カササギの橋を渡り、一年に一度の逢瀬を重ねる。

ケイタは思わずつぶやく。

「まるで七夕だな」

それは1年に1回、七夕の日だけ出会うことの出来る織姫と彦星のようだった。

愛を交わしあう二つの惑星、そしてバトイデア達を、3人は飽きることなく見つめ続けていた。


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