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ショートショートの小部屋

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拘ることなく、自然に筆を進ませてみた。そんなショートな物語をご覧ください。
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#小説

恒星間の過ごし方

恒星間の過ごし方

もう彼此何年が立つのかな。
前回のスリープ明けにもそのような会話されていましたね。

助手のミーチャはそういった。
そう言っても仕方がないだろう。キミは若い身体のままスリープに入れたが
私は恒星間飛行中も研究に冒頭し、気づいたときには10年という歳月が流れていた。
キミと同じ年だった私の身体は10年の老いを感じている。

サージは少し皺の増えた目元を気にしながらミーチャをみている。
若さとは必要な

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真夏の午後

真夏の午後

正美は知っていた。今日はオジサンたちは出かけて帰ってこない。
父の弟夫婦に厄介になっている私は弟夫婦の行動をよく観察していた。

家では二人ともよい夫婦を演じている。当然といえばそうなのかもしれないが。
今日出かけたカバンはいつもより大きかった。特に叔母さんのは海外でも行くのかと思わんばばかりのトランクであった。
二人とも趣味が違っているので、それぞれで楽しんでいればいいのだが、最近のちょっとした

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異次元喫茶店 第1話

異次元喫茶店 第1話

1. 居場所

今日も客が来るか来ないか分からない喫茶店のマスターを私はしている。

ピクピク星のスズナリという生物か名前さえも分からないやつに、ここを紹介された。
借用書もなければ契約書もない。
ここは、今日からお前の店だ。好きにすればいいと言われた。外に出ればいつも市が開かれている。でもそこにいるのは容姿は出鱈目だ。いや、私の方がおかしいのかもしれない。

ここの時間の流れ方は実に妙だ。気分に

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雨宿り

雨宿り

走り梅雨の季節。突然の雨降りは困りもの。
傘はない、雨に濡れれば寒い。いいことは特にない。

そんな雨降りの街の片隅で困ったちゃんがいた。

「いや、急に降ってくるからびっくりしたね。」
「今日、雨の予報だったっけ?」
「いやそんなことはないはずだよ。2丁目のピーコちゃんは絶対今日は降らないって言っていたから。」
「またピーコちゃんの話かね。ごちそうさまだね。」
「いやいや彼女はすごいんだって。だ

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まもるべきは

まもるべきは

守るは自分か、護るはあなたか。

言葉のはしっこが、どうにもひかかってしまう。
適当に生きているほうが、今の世の中ではいいように思う。隣を気兼ねすることなく。

例えばだが、布団を干していて雨が降っている時に慌てて布団を取り込むとする。同じマンションの他の階で布団を干している時どうするだろうか。

ほっとくのが一番いいという人がいる。
他人なのだから、わざわざ声をかける必要はないと言う。
私は、わ

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ママの匂い、好き!

ママの匂い、好き!

信号を待つ間、親子連れの自転車が隣に止まった。

なにを思ったのか、自転車の後部座席に座っている僕ちゃんが突然、ママの背中をクンカクンカ。

「ねぇ何しているの?」
「ママの匂い、好き!」
「やだ、何言ってるの。。」

ママと言われた女性は、恥ずかしながら、左手で前髪を耳にかけた。
照れ笑いしているようにも見えた。

そんなママにお構いなし。僕ちゃんは相変わらず、ママの背中をクンカクンカ。

信号

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びびでぃばびでぃぶ

びびでぃばびでぃぶ

切ないアニメを見た。
救いようのない愛が溢れている。

どこまでいっても答えは無い。
そして時間だけが過ぎていく。

あの時好きと言えなかった僕の未熟さが、ずっとずっとのしかかり僕はその思いを越えようとしていた。

青春の甘酸っぱい思い出であればいいのに。でも実際には今も引きずっている。

あの時の寂しさはきっとずっとずっと死ぬまで忘れることはないだろう。

寒さで震えるように、雪の中をずっとずっ

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限界、そしてレイン

限界、そしてレイン

晩酌をあまりしない。酒が嫌いなわけではない。ただあまり呑んでも、そこまで気分が晴れることもない。

でも、やっぱり呑みたいときはある。
積もりに積もった鬱憤と、それを処理できなくなった自分との葛藤に負けたときアルコールは私の血液となる。

今日はそんな日だった。

夕食前の1時間。私は缶チューハイを1缶開けて、ため息を1つ吐きながら口に流し込んだ。

酒のお供は、魚肉ソーセージとさけるチーズと小魚

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一杯のコーヒーから始まることもある。

一杯のコーヒーから始まることもある。

何気ない一言を聞くためには、場所と時間と、それと一杯飲み物が必要だ。

それはBARで一杯のカクテルかもしれない。
または居酒屋で二杯目の日本酒かも入れない。

いやいや、一杯のコーヒーでもそれは可能なのだ。
時と場所があなたを、私を、導いてくれる。

それはどこにでもある?
いや、そんな街は多くはないが、街の片隅ひっそりとあるはずだ。

それは、熟しきったオトコ、オンナたちが囁く街、ちょっとばか

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車がほしくなった日

車がほしくなった日

このマスクなご時世。窮屈さもここまでくれば慣れというもの。

顔が見えないことに対して、あまり考えなくなってきた。

テレビで芸能人やニュースキャスターの代わり映えしない顔を見ても、なんか近所の人のように親しみやすいを通り越し感激することもなく、素通りしてしまいそうだ。

そんなことを思いながら、テレワークの昼休み。

昼ごはんを早々に終わらせ、近所のスーパーへ。
マスク人たちに囲まれながら、夕食

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赤い墓標のカルマ

赤い墓標のカルマ

君はいつも僕の後ろにいる。
そして僕を見ながらいつもケタケタと笑っている。

僕が君に気づいたのは、ある晴れた後のことだった。
湖畔の水面を見ながら、午後の散歩を楽しんでいるときだった。

君は木陰から僕をじっと見つめている。
その時君は、唇をしっかり閉じたまま目は僕のほう向いていた。

その日は爽やかな風が山から湖畔にかけて吹いており何とも気持ちがいい日だった。

僕は君を見て怖がるわけではなく

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喫茶桃子の懲りない面々 第一話

喫茶桃子の懲りない面々 第一話

ねぇ、マスター、今日、朝にさあ。

いつものように五郎が話しかける。
毎朝の恒例行事だ。

喫茶桃子の朝は早い。近くに幹線道路があるためか、いや工場(こうば)もあるため、彼らの活力の源として朝早くから営業しているのだ。
すでに店を開いて、30年。常連の中に親子二代で通う人も少なくない。
営業当初は、夫婦水入らずで切り盛りしていたが、母ちゃんはダンディな男に手を出して、何処かにトンズラしてしまっ

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なっちゃん 第七話 最終回

なっちゃん 第七話 最終回

新社会人として華やかな年になると、気合いを入れる夏子であったが、徳島に帰って父から就職先の話を聞いて行くうちに、いつもの口癖が出始めていた。

夏子の就職先は自動車整備工場の事務職であった。しかも社長一人に従業員は社長夫人と私。
話を聞くうちに、その社長が父の陶芸教室に一緒に来ていた人で、さらに言うと酒飲み友達であった。

春空の蒼くくすんで見える中津峰山を見ながら、ふたたび呟くのであった

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なっちゃん 第六話

なっちゃん 第六話

大学三年の夏はそんなこんなで終わったしまった。
後期に入って大学に行くと内定が出た友達もいてますます夏子は焦ってしまった。
友達の中には親の脛をかじる気まんまんの人や、すでにフリーターを決め込んだ人までいる。
そんな人達は決まって学生最後の1年半を有意義なものにしようとコンパなどお相手を探すのに夢中になっていた。

夏子はそんな友達たちを尻目に、深いため息をつくのであった。

正月帰省した時は

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