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なっちゃん 第六話

大学三年の夏はそんなこんなで終わったしまった。
後期に入って大学に行くと内定が出た友達もいてますます夏子は焦ってしまった。
友達の中には親の脛をかじる気まんまんの人や、すでにフリーターを決め込んだ人までいる。
そんな人達は決まって学生最後の1年半を有意義なものにしようとコンパなどお相手を探すのに夢中になっていた。

夏子はそんな友達たちを尻目に、深いため息をつくのであった。

正月帰省した時は、父母そろって、どこも就職先がないのなら知り合いのところでいいなら就職お願いするよ、と言われる始末であった。

あと一年あるからと、その時は断ったものの、その一年後見事にお願いすることになるとは露とも思わなかった。

そう大学四年の夏まで、夏子は内定一つもらうことができなかった。というよりは就職活動をほぼ諦め、バイトと資格取得に躍起になっていたのであった。父からの紹介という就職先は徳島で事務職になるから資格取っておいた方がよいと思ったからだ。

夏のお盆に帰省した時に就職先の社長(どうみてもその辺のおじさん)にあって、バイトのような感じでいいからよろしくと言われた程度だった。
会社名もよく覚えようともせず、二つ返事でオーケーを出してしまった。

これ以上、父母に迷惑をかけたくなかったのと、東京のあの部屋にいると、またヒロアキが来てくれるのでないかという淡い期待がまだ残っていたからであった。
ヒロアキとは数ヶ月に一度程度、短めのメールのやり取りは続いていた。でも大学四年の夏からピタリと音沙汰がなくなってしまったのである。

「まぁそんなもんですよね。人生って」
毎日の口癖になりつつあった。

妹の美咲の結婚はなかなか決まらなかった。というより、二人して今の恋人ごっこを楽しんでいるようであった。
そんな様子をたまに教えてくれる母からの電話に夏子は少し安心を覚えていた。
「もう自分は後回し!」そんな風にも思い始めていた。

大学の四年の正月明けから、友達と卒業旅行で沖縄。大いに騒いできた。大きな声で笑い、飲んでは歌って。とてもお嬢様の大学を卒業するようには周りからは見えなかったと思う。
沖縄では若い男性に声をかけられた。でも夏子は、その気になれず、またしても気を逃してしまったのである。

夏子はヒロアキのことが好きになってしまっている自分に嘘がつけないでいたのである。
でもこちらからは声をかけるのをためらっている自分がいた。フラれるのは怖くなかった。嫌われるのが怖かったのである。

卒業式も無事に終わり、徳島への引っ越し準備がはじまった。実家に世話になるため、ものの大半は捨てることになったので、量的にはそれほど多くはなかった。引っ越しの日、ヒアロキに短いメールを送った。
「徳島の実家に帰ることになりました」と。
ヒロアキからの返事はなかった。

徳島についた夏子はヒロアキに最後のメールを送ることにした。
「阿呆!」
それでもヒアロキから返事は来なかったのである。

#なっちゃん #徳島 #小説 #就職活動

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