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なっちゃん 第七話 最終回

新社会人として華やかな年になると、気合いを入れる夏子であったが、徳島に帰って父から就職先の話を聞いて行くうちに、いつもの口癖が出始めていた。

夏子の就職先は自動車整備工場の事務職であった。しかも社長一人に従業員は社長夫人と私。
話を聞くうちに、その社長が父の陶芸教室に一緒に来ていた人で、さらに言うと酒飲み友達であった。

春空の蒼くくすんで見える中津峰山を見ながら、ふたたび呟くのであった。
「まぁそんなもんですよね。人生って。」

就職して、最初は擦った揉んだはあったが、日頃の負けん気と元気だけが取り柄の夏子は社長夫人(単なるおばさん)と仲良くなっていた。
もちろん社長ともうまく言っていたし、取引先も「元気な威勢のいいのが入ってきてくれてよかったなぁ」と言われるまでになってた。
大学中に取った秘書検定が役に立っていた。その時ばかりは自分を褒めていいよねと思うようになっていた。偶然がよんだ産物とでも言うように。

「なっちゃん!こっち来てくれる?」
「はーい!」
夏子は元気よく返事をした。

「今日はな、ちょっと珍しいお客さんが来るんよ。大谷焼きの販売をしている人なんやけどな。海外までそれを売り込んでるんよ。若いのよくやるわな。」
「なんでまた、そんな人が。」
「お父さんの知り合いでな。例の陶芸教室を開いている大谷焼きの作家さんの息子さんらしいんよ。夏になるとお父様の車検があるからとわざわざ車を届けにきてくれるんよ。」

夏子はあまり関心なく
「そうなんですか。じゃぁお茶の準備しときますね。」
そう言って給湯室に向かった。

応接室では、その作家さんのおぼっちゃま君がお見えになったようで
(夏子の偏見でおぼっちゃまと思ってしまっていた)
社長の豪快な笑い声と、少し若めの男性の声が聞こえてきた。
「うちにも若い事務が入ったんよ。めっちゃ威勢がいいし、えーこやで。色々気が利いてな。お前さんの嫁にどうや。」

どうやら、社長は私を売り込んでいるらしかった。
いつも取引先来ると、私を売り込んでいるのは気にしていたが、その理由は私の父から、どうも売り込んでくれと嘆願されている事実を夏子は遠回しに気づいていた。
気づいても、そんな素振りは一切みせず、社長の売り込み文句を楽しく聞いているのであった。

「さぁ今回のおぼっちゃま君はどういう反応になるかしら。」

夏子はタイミングを見計らって、応接室のドアをノックしお茶持って入るところであった。

「ほんといい子ですね。いただいていいんですか。」
その声の主を見て、夏子はお茶をこぼしそうになった。

「・・・ヒロアキさん」

「偶然は3回目には真実になりますよ。なっちゃんさん。」

夏子の目からは雫がどんどん溢れ出していた。
社長は今の現状を察してか、いつの間にか応接室から静かに姿を消していた。

「ど、どうして。。だって、だってメール。メール返事こなかった。。」

「それは私のミスなんです。海外の長期出張で携帯を故障させてしまってメールが見えなくなっていたんです。先週やっと電話会社に事情を説明できてメールを復活させてもらったら。阿呆の一言があって慌てて、こちらに来たんですよ。」

「で、でも。なんでココが。」

「東京でなっちゃんさんの家でそうめんをご馳走になった時に、偶然でしたが、父の大谷焼きの作品を目にしました。」

「そこから・・」
「ココにいるのはわかったのは大谷焼きの繋がりとでもいうのでしょうか。でも、そこからではありませんよ。」

「え?なに言っているの。わからない。」
夏子は涙でぐちゃぐちゃになりながら、困惑していた。

「なっちゃんのお見合いを断ったのは私です。」

「えー!!でも飛行機の中で・・・やっぱりそうだったんだ。」

「そこで確信したんです。なっちゃんが、私の初恋の相手だったことが。」

「ヒロアキさん・・私なんだ分かんないよ。でも私はあなたが好き。」

「ええ、僕もですよ。あなたと四つ葉のクローバーを見つけたときからずっと。」

夏子はやっと理解した。
全ては偶然と思っていた。でも今はそれが必然であったことが理解できた。

「でもでも。あなたは隣のお兄ちゃんじゃない・・・」

「僕はあなたのいう隣のお兄ちゃんではなく、隣のお兄ちゃんの友達でしたよ。そこは隣のお兄ちゃんに嫉妬しちゃうな。」

「馬鹿」

「阿保の次は馬鹿?」

「そう、大馬鹿もの。とっても大好きな大馬鹿者よ。」

夏子はヒロアキに抱きつくと顔をヒロアキの胸に埋めた。

「はいはい。花嫁さんお二人はこっち向いてくださいね。」
ウエディングドレスをまとった二人の花嫁はカメラマンに向かってポーズをしていた。

夏子の父はすでに大泣きしている。
娘二人が同日に結婚式をするという大イベントと、二人とも自分から離れていってしまうという寂しさがそれを後押ししていた。

「人生ってまぁそんなもんですよね。」
いつもの口癖を雰囲気を変えていってみた。

ヒロアキは笑いながらこう言った。
「人生ってそんなに簡単に説明できないけど、決まっていることはあるんだなと思うよ。」

「まぁ、素敵な言葉。」
夏子はヒロアキに抱きついて、頬にキスをした。

「四つ葉のクローバー見つけてくれてありがとう。」

夏子はヒロアキの耳元で囁いた。

おわり

#なっちゃん #徳島 #小説 #四つ葉 #クローバー

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