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日本近代文学

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2019年5月の記事一覧

vol.47 中島敦「李陵」を読んで

vol.47 中島敦「李陵」を読んで

誰も興味さなそうな、古い古い中国の話。この作品、新潮文庫100選図書になっており、もう一つの代表作、「山月記」(vol31)もとても印象深かったので気になっていた。漢書を原典としているだけあって、漢字が多く戸惑った。それでも、主要な人物の思考や心情、変わっていく心持ちなどが端的に描かれており、評価の高い所以だと思った。

<あらすじ>

中国、古代の統一王朝、前漢のことを記した歴史書「漢書」を原典

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vol.46 井伏鱒二「山椒魚」を読んで

vol.46 井伏鱒二「山椒魚」を読んで

教科書で見覚えのある作品を読んだ。当時、さっぱりわからなかった。興味も湧かなかった。国語の先生の「これを読め」の授業が理解できなかった。悲しさとか辛さとか愛情とか、何にも経験を積んでいない頃に読む近代文学は、ただ流れていくだけなのかもしれない。「山椒魚は悲しんだ」で始まるこの小説も、経験の積み重ねによって、その読み取り方や楽しみ方は、ずいぶんと違うのだろう。

<あらすじ>

岩屋をねぐらにしてい

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vol.44 森鷗外「高瀬舟」を読んで

vol.44 森鷗外「高瀬舟」を読んで

とても考えさせられるテーマを感じた。

死に切れずに苦しんでいる弟を思いやった「喜助」の行為は、仕方のないこと、という気持ちが残った。そして、安楽死について考えさせられた。これは答えの出せない重い問題だと思う。また、「自殺ほう助」という罪についても、決して素通りできない問いだと思った。

<あらすじ>

京都の罪人を遠島に送るため高瀬川を下る舟に、弟を殺した喜助という男が乗せられていた。護送役の同

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