西野 友章

気ままな読書と感想文を考える時間が好き。近代文学を中心に感想文を載せています。ワイン好…

西野 友章

気ままな読書と感想文を考える時間が好き。近代文学を中心に感想文を載せています。ワイン好き。背泳ぎが得意。こんな活動もしています。→ https://always-kana.jimdo.com

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vol.144 又吉直樹「月と散文」を読んで

ネットで見る又吉直樹の空気感に心地よさを感じている。芥川や太宰が大好きだと公言している著者と、近代文学ばかり読んでいる僕とは、勝手ながらおもしろいなぁと思う感覚が似ているのかもしれない。 彼の視点は気付かされる部分も多い。「東京百景」のころからずっとその言動にも興味を持っている。小説「火花」も「劇場」も「人間」も、社会の隅っこで息をしている人のことが描かれており、興味深いテーマだ。 近代文学は、著者が実際に経験したことや感じたことを基に、創作されているものが多い。このエッ

    • vol.143 有島武郎「一房の葡萄」を読んで

      有島武郎が亡くなって100年経った。今でも時々教員の教材として扱われているとのこと。 <概要> 「小さい時」の「ぼく」を、大人になった後の「ぼく」が語る話しとして描かれている。「ぼく」はある時学校で、同級生のジムの絵の具を盗む。それを知られてしまうが、先生の計らいでジムと仲直りできたという物語。(概要おわり) この作品を教員教材として捉えるなら、過ちを犯した子どもにどう寄り添うか。教員としての、適切な指示と対応は。家庭や学校を含む社会全体の課題として受け止めるべきではない

      • vol.142 シェイクスピア「ハムレット」を読んで(福田恆存訳)

        「ハムレット」を楽しむ。 420年以上前に描かれ、世界中で上演されていたシェイクスピアの全5幕からなる戯曲。1600年ごろ。舞台はデンマークの城。死んだ父の亡霊から復讐を命ぜられる。理性と感情のはざまで悩むデンマーク王子「ハムレット」の復讐劇。 ハムレットのジレンマを凝縮した名ゼリフ「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ(第三幕第一場)この有名な哲学的な問いに、一歩も近づけないまま、読み終えた気がする。 それでもさすがに魅力的な作品だと思う。そう思わせるのは「ハムレット

        • vol.141 庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」を読んで

          東大紛争に翻弄される日比谷高校3年生「薫」くんの物語。 東大に進学するつもりだった彼の、ついてない1日(1969年2月9日日曜日)をしゃべり言葉で語る構成。第61回芥川賞受賞作。 なんのために大学に行くのか。自分はどう生きようとしているのか。自分の言動と内面との違和感。大人たちへの不信感。10代のころ身に覚えのある心の葛藤だが、その時代背景に興味がわく。1960年代の青年の目を通して、当時の揺れ動く価値観のようなものを考える機会にもなった。 <内容> 東大紛争による東

        vol.144 又吉直樹「月と散文」を読んで

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        vol.128 向田邦子「父の詫び状」を読んで

        vol.119 宮沢賢治「風の又三郎」を読んで

        vol.105 ジーン・ウェブスター「あしながおじさん」を読んで(谷川俊太郎訳)

        今年も読書を楽しみたい

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        • 日本近代文学
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        • 世界近代文学
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          vol.140 幸田文「台所のおと」を読んで

          とても静かな小説。しみじみとした文章。モノクロ写真の奥にある物語を見せられている感覚。人にはそれぞれの音がある。人の物音から見えてくる気質や感情の移り変わりが繊細に描かれた作品だった。 <内容> 病床の夫「佐吉」は、台所で料理をしている妻「あき」がたてる小さな音を追っていた。この夫婦は20歳も年齢の開きがあり、互いに何度目かの妻であり、夫であった。二人で小さな料理屋を営んでいた。 「あき」は、医者から「佐吉」の病がもう治る見込みがないことを聞いていた。そのことを「佐吉」

          vol.140 幸田文「台所のおと」を読んで

          vol.139 宇野千代「八重山の雪」を読んで

          「はる子」と「ジョージ」の無邪気な愛の物語。後先考えずに突き進むそのひたむきさに、心が微笑ましくなった。宇野千代が実話をもとに書き下ろしたとういこの作品、著者の人柄も伝わってくる。 内容 主人公「はる子」が若い頃の「いたずら」を語る形式で始まる。時代は太平洋戦争後2、3年の頃、松江(島根)に駐屯していた英国海軍兵「ジョージ」と出会う。「はる子」には結婚話が進んでいた男がいたが、「ジョージ」と恋に落ち、大金を持ち出して逃げる。すぐに捕まるが「ジョージ」は軍を脱走し、再び「は

          vol.139 宇野千代「八重山の雪」を読んで

          vol.138 森鷗外「じいさんばあさん」を読んで

          ばあさんの名は「るん」71歳。過酷な運命の中でも献身的に生きてきた。37年ぶりに再開したじいさんと、今、仲睦まじく暮らし始めた。 この物語「じいさんばあさん」だが、ばあさんの存在が光っている。「るんばあさん」に会って話がしたい。自分の人生をどう思っているのか、その心の中をのぞきたい。 時代は江戸中期、主従関係に基づく統治の中では、女性は自分で生き方を選べなかった。「るんばあさん」も、家の事情、夫の事情、お上の事情に左右されながら、その時々で身の置き方を強いられていたに違い

          vol.138 森鷗外「じいさんばあさん」を読んで

          ちょっと報告

          網膜剥離の診断を受け、緊急に水晶体手術を行いました。 術後の経過は順調ですが、まだ、視力は快復途中です。 左目の歪みもあるため、読書を控えています。 また、ゆったりと読書を楽しみたい。 また、じっくりと感想文を書きたい。 でも今は、ちょっと休む時かな。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 西野友章

          ちょっと報告

          vol.137 モーパッサン「脂肪の塊」を読んで(青柳瑞穂訳)

          人間はいかに身勝手で愚かなものか。他人のことはどうでもいい。自分にとって有利か不利かだけが判断基準。この作品に描かれた上流階級の人たちの、愛国心や道徳心、思想はいかに薄っぺらいものか、それを思わせる内容だった。 また、女性が男社会の中で軽蔑的に扱われてきたかを想像させるものだった。 内容 時代は晋仏戦争(1870年−1871年)のさなか、プロシア軍に占領されたフランスのルーアンから大型馬車で避難する。その馬車には、たまたま集まった伯爵や県会議員やその婦人、革命家、尼さんな

          vol.137 モーパッサン「脂肪の塊」を読んで(青柳瑞穂訳)

          vol.136 E・ケストナー「飛ぶ教室」を読んで(池内紀 訳)

          「子どもの涙は大人の涙より重たい時がある」この前書きに思いを馳せながら読んだ。作品は、ドイツの作家エーリヒ・ケストナーが1933年に発表した児童文学。 「子どもはいつも元気」は、大人が作り上げた思い込みなのだ。どの時代でもそうなのだ。大人以上に親のことで深く悩み、友だちを助けるために工夫を凝らし、お互いの立場を尊重し合う。人生に真っ直ぐに向き合う真剣さがある。作品からそんなことを思った。 内容 クリスマス前、少年たちが学ぶ寄宿舎(小学校4年修了後に9年間学ぶ場所)でので

          vol.136 E・ケストナー「飛ぶ教室」を読んで(池内紀 訳)

          今年も読書を楽しみたい

          近代文学が好きです。読んだ感想を書くことも好きです。 noteを始めて5年目、気がつけば135本の感想文をここに記すことができました。この間、たくさんの「コメント」や「スキ」もいただいております。とても励みになります。ありがとうございます。 まだまだ読みたい本がたくさんあります。 今年もゆっくりとしたペースであろうと思いますが、じっくりと読書を味わい、その時々の自分の感情を重ねながら、ここに感想文を書いてまいります。 どうぞ引き続きよろしくお願い申し上げます。 20

          今年も読書を楽しみたい

          vol.135 太宰治「駆込み訴え」を読ん

          イスカリオテのユダ(新約聖書に出てくるイエス・キリストの弟子のひとり)の視点で、「旦那さま」という誰かよくわからない人に、イエスに対する感情を述べるという形式で書かれていた。 混乱するユダの苦悩やその感情に至った経緯を太宰なりの言い回しで表現している。そこがおもしろい。しっかりと読んだ記憶がない新約聖書や「ユダの福音書」にも興味を持った。 太宰の小説の中では、「私」であるユダが、「あの人」であるイエスの酷さを、官憲であろう「旦那さま」という人に、切々と訴える。 「あの人

          vol.135 太宰治「駆込み訴え」を読ん

          vol.134 森鷗外「牛鍋」を読んで

          思わず箸を伸ばしたくなる「牛鍋」を初めて読む。1,800字ぐらいの作品はあっという間に終わる。読み終わった後に、どういうことなのだろうと考える時間が好きだ。 <内容> 夫を亡くした女とその幼い娘と亡き夫の友人である男が牛鍋を囲んでいる。男は一人でひたすら箸を動かし牛肉を口に運んでいる。女は「永遠に渇しているような目」で男の動くあごを眺めている。幼い娘は箸を持って牛肉を食べる機会をうかがっている。 幼い娘が牛肉を食べようとすると、「待ちねぇ、それはまだ煮えちゃいねえ」と決ま

          vol.134 森鷗外「牛鍋」を読んで

          vol.133 芥川龍之介「歯車」を読んで

          作家であり続けることはこんなにも辛いことなのだろうか。 発狂の恐怖に怯えながら、精神的に追い込まれていく主人公「僕」の意識の流れが描かれていた。「芥川の遺書」としての評価があるこの作品、著者の「ぼんやりとした不安」を抱え込んでいる様子が苦しいほどに伝わった。 <内容> 主人公「僕」は、知人の「結婚披露式」に参加するため、ある避暑地から東京に向かう。その途中レエン・コオトの幽霊の話を聞く。それ以来、たびたびレエン・コオトを目にすることになり、ついにはレエン・コオトを着た義兄

          vol.133 芥川龍之介「歯車」を読んで

          vol.132 川端康成「千羽鶴」を読んで

          名作と名高いこの小説、伝統的な陶器の美しさを絡めながら、愛と罪と死が漂う作品だった。これぞ川端作品だと感じながら、繊細で美しい文章と描かれた世界を楽しんだ。 <内容> 主人公、三谷菊治は25歳ぐらいの独身の会社員。父と母を相次いで亡くし、茶室のある屋敷に女中を置いて暮らす。栗本ちか子はお茶の師匠で、生前の菊治の父と関係を持っていた。ちか子の茶会に来た菊治は、千羽鶴の風呂敷を持った美しい令嬢、稲村ゆき子にめぐり合う。その茶会で、菊治は幼い頃から敵意を持っていた父の愛人大田未亡

          vol.132 川端康成「千羽鶴」を読んで

          vol.131 夏目漱石「文鳥」を読んで

          どこか意図しての切なさと、はかなさと、残酷さが漂う作品だと思った。同時に、主人公の孤独と、鳥籠に入れられた可憐な文鳥との絶妙な距離感に、当時の漱石の苛立ちのようなものを感じた。 <内容> 三重吉(みえきち)という人物から文鳥を飼うよう勧められ、飼うこととなった。書斎で仕事(小説家)をしている合間にも、千代千代(ちよちよ)と時折鳴いていた。そんな白い文鳥を愛らしく思い、過去の「美しい女性」と重ねて眺めることもあった。 家人(うちのもの)に文鳥の世話をさせながらも、自身も丁寧

          vol.131 夏目漱石「文鳥」を読んで