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vol.137 モーパッサン「脂肪の塊」を読んで(青柳瑞穂訳)

人間はいかに身勝手で愚かなものか。他人のことはどうでもいい。自分にとって有利か不利かだけが判断基準。この作品に描かれた上流階級の人たちの、愛国心や道徳心、思想はいかに薄っぺらいものか、それを思わせる内容だった。

また、女性が男社会の中で軽蔑的に扱われてきたかを想像させるものだった。

内容
時代は晋仏戦争(1870年−1871年)のさなか、プロシア軍に占領されたフランスのルーアンから大型馬車で避難する。その馬車には、たまたま集まった伯爵や県会議員やその婦人、革命家、尼さんなど、10人が乗っていた。その中に「ブール・ド・スイフ(脂肪の塊)」とうあだ名の太った可憐な娼婦も乗っていた。

当初、馬車に乗り合わせた上流階級の人たちは、この娼婦を眉を細めて遠巻きに見ていた。しかし、娼婦がみんなに分け隔てなく、自分の持っていた食料を振る舞うと、徐々に彼女に対する態度が和らいでいく。

大型馬車(イメージ)

後半、この馬車がいったん宿舎に着くが、そこにはプロシア兵がいた。そこから展開が変わっていく。

プロシア兵は娼婦に目をつけ、「いっしょに寝るまで馬車を出さない」と、彼女が従うまで馬車を宿舎に足止めにする。強い愛国心を持つ娼婦は、敵国のプロシア兵には従わず、勇敢に抵抗の姿勢を示す。同乗者たちもプロシア兵を非難していたが、やがて娼婦に、プロシア兵に従うよう、彼女を説得しだす。

ついに「ブール・ド・スイフ(脂肪の塊)」とあだ名された娼婦は、いやいやプロシア兵の部屋におもむく。同乗者たちはやっと目的地に向かうことができると、喜び合う。

娼婦 (イメージ)

翌朝、みなは敵軍の士官と寝た娼婦を汚物のように無視して、持参した食事を自分たちだけで食べる。娼婦は侮辱的な同乗者の態度に怒りながらもじっと耐える。そんな中、革命家の「コルニュデ」だけは、みんなの行為を非難する。最後にこの「コルニュデ」が「ラ・マルセイエーズ(フランス国家)」を歌い続ける。その間娼婦はずっとすすり泣く。(内容おわり)

このフランスの革命歌をじっと聞かされる娼婦の涙に、当時の偽善者たちの薄っぺらさと、虐げられながらも生き続けなければならない女性の深い悲しみを感じた。

モーパッサン「女の一生」でも、男性にもがれるための果実として女性を軽蔑的に扱う逆説的な手法で、性差別が当たり前の社会を批判していた。


ギ・ド・モーパッサン(1850年ー1893年 フランス)

厭世的なモーパッサンの初期の二つの作品から、当時の女性の生き方を思う。

男性が優位な立場に立っ て,女性を見下す。女性は男性と対等なパートナーではなく,一段低い位置にはめられる。着飾ったり,媚を振りまいたりして男性を誘惑しようと働きかけることはあっても,基本的には男性という行為者に選択してもらうのをじっと待つ受動的な存在だった。

一方男性は、天下国家を語ることで、目の前のめんどくさいことを自分の都合のいいように片付けてしまう。女性を養っているという欺瞞から、なりふり構わずに本能を振りかざす。

モーパッサンの冷静な観察力がみなぎる作品だった。

おわり


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