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建築家、映画を語る。『ブエナビスタ・ソシアルクラブ』ヴィム・ヴェンダース監督

2019年の7月、ハバナに到着した初日。

まずはヘミングウェイ行きつけのバー「フロデリータ」に行き、
名物ダイキリを頼む。

まだ昼前なのに外は茹だるような暑さ。

店内は俗な白人観光客で溢れかえっている。

ダイキリは大変に美味でお代わりをする。

「フロデリータ」。ベタベタの観光スポットだが、ダイキリは美味しい(というか、キューバのダイキリのレベルがそもそも高いのだと後々気が付いた)

すると、エントランスの脇で数人がバンドのセッティングを始める。

「ああ、観光客相手の箱バンか、、」とシラケながらダイキリを啜る。

セッティングが終わり、演奏が始まる。
メンバーは音大生風情の若者たちだ。

「ああ、バイトね、、」と思っていると、

案の定、ブエナビスタ・ソシアルクラブの『チャン・チャン』のイントロが聴こえてくる。

「あ〜あ、、」と眉間にシワが寄る。

(これじゃまるでデパートの屋上のビアガーデンのハワイアン生演奏と同じだよ、、、、)

と、もう一口ダイキリを啜る。

演奏が進む。

何十回も聴いたイントロから、歌が入って来た。

なんと!

これがブエナビスタ・ソシアルクラブ本人たちと殆ど変わらないほど演奏力が高いのだ。

唖然としながら聴いていると、コーラスも完璧、ダンスに至っては神、、、

「こいつら、普通にブルーノート東京に出演出来るぞ!」

と、音楽(と食)にはスーパーうるさい私が感服したのだから、本当に凄いのだ。

その後、ハバナでいくつかの生演奏を聴いてわかったのだが、
キューバのミュージシャンの演奏レベルが異常なまでに高い。

私はその時に脳裏に閃いた。

のこのことハバナにやってきた老ライ・クーダーは、泊まったホテルの箱バンやってるお爺ちゃんたちの演奏を聴いてひっくり返った。

すぐに彼らを拘束し、老ヴェンダースを呼んで映画をデッチ上げて世界で大ヒットした。

こんなイメージだ。

ところが現地キューバでは、全てのミュージシャンが「あれくらいの演奏」は軽〜くできるのだ。

例えば、鬼怒川温泉ホテルの宴会場で演歌の生演奏カラオケを奏でている箱バンのお爺ちゃんたちを連れて、サントリーホールでコンサートを開くようなものである(それはそれでライ・クーダーがビビる「日本のブルース」を演奏をするだろうが)。

そして、映画のクライマックスの演奏シーンで、
突然、老ライ・クーダーが演奏ぶち壊しのスライドギター弾き始めた時に、

「オマエが弾くんかい!?」

と関西弁で突っ込んだ音楽ファンは少なくない筈だ。

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さて後日、ハバナの某ジャズ・クラブを訪れた。

ここで「最先端」のキューバン・ジャズを浴びて驚いた。

元々キューバン・ジャズは凄いタレントを輩出しているが、
日本のジャズ・マーケットの主軸である団塊世代のお爺ちゃんたちには理解出来ないグルーヴなので今一つ日本での知名度は無かった。

しかし、「ストリート・ミュージック」としての「生きている」ジャズがここにあったのである。

その自由奔放なエネルギーとストリートの匂いに、ライブハウス内が満たされていた。

(あゝ、ジャズってコレだよなあ、、)

「うぇ〜い!!最高だよ!!!」

と、入場料にオマケで付いてくるドリンク券で買ったモヒートを啜りながら、私は演奏に嬌声をあげた。

今、骨董品でないリアルなジャズを聴きたいならキューバ!

なのである。

という訳で、
キューバに行ったら

「ブエナビスタ・ソシアルクラブが聴こえたら逃げろ!」

そして、

「若手ジャズマンが夜な夜なとんでもないプレイをしている街場のジャズ・クラブに行くべし!」

というのが鉄則なのです。


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