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希望の正体は。

希望の正体は。


プラスチックのように軽い日常が今日も終わる。
退屈に殺された春。

「外に出なよ」
2回目の大学受験を失敗し、春に取り乱して髪の毛が伸びに伸びた僕に、君は吐き捨てるには遠く、かといって抱きしめる程ではないニュアンスで話しかけてきた。

僕は桜が嫌いだ。人の出会いと別れの季節にだけ咲いて散ってる、ただそれぽっちで持て囃されているだけなんだから。
そんな花に何を期待している。それを見て酒飲んでそんな

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宿罪

宿罪

初恋の人のウェデイング姿はそれはそれは美しくて、隣に居る事が出来たならそれはそれは最高なのだが、それはそれは権利がございませんでした。
泣く泣く遠くで見るのが精一杯でした。虚しいより清々しい、そう思っていたのですが、美しい美しい新婦と目が合いました。少しドキッとしましたが私はすぐ顔を下に向け目線から逃げました。すごく恥ずかしい人間だと思っております。その後も少しなぜか視線と人の居る気配がし恐る恐る

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再週回

再週回

私には用がないパチンコ玉、私には少し大きいサイズのTシャツ、私には好かれないであろうタバコ、総てを遺骨のように、大事に手に取りゴミ袋に集荷した。
洗濯機の近くのカゴの中は2分の1の量に減っており、冷蔵庫には飲めないビールが残ったままで、何度も交わったベットには使わない枕が一つ出来ていた。
もう一つの声はなくなり、会話は行われない。そしてTVが垂れ流す、笑い声だけが無情に響く。
小さな小さな、キッチ

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短編小説「愛こそはすべて」

短編小説「愛こそはすべて」

All You Need

「おじいちゃんやおばあちゃんに戦争の話を聞いてきてくだい」
小学生だったぼくに出された宿題でした。

殺風景な和室、盆栽だって掛け軸だって置かれていないのに、なぜかアコースティックギターだけがありました。むしろそれしか置かれていないのに賑やかな部屋でした。その賑やかの大半の正体は陽気なじいちゃんであった。
ただ、ぼくの一言で部屋が急に重くなったように暗くズシっと重力が掛

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短編小説「僕はくしゃみを。」

短編小説「僕はくしゃみを。」

秋にくしゃみを。センター分けメガネ上司は僕を理由もなく怒っていた。今日も僕は意味もなく謝まっていた。それだけで仕事は終わった、気がした。
無人のレジ機でスーパーの割引アジフライ弁当と発泡酒の支払いを慣れた作業で済ませ、日が変わる前にと、構造上1人しか住む事が出来ないボロいアパートへの帰路を急ぐ。酷暑は夜も続き汗が止まらない。金木犀の香りが今日はすごく甘ったるくうっとしい。

早くクーラーで涼しさを

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短編小説「コインランドリーと匂いと習慣」

短編小説「コインランドリーと匂いと習慣」

僕のコインランドリー僕はコインランドリーの匂いが好きだ。生暖かく心まで洗浄されるあの匂いが好きだ。オレンジのような青いようなあの匂いが大好きだ。
毎週金曜日夜八時、ルーティーンのように通うコインランドリー。

「あ、そこ洗濯出来ないわよ!
その代わりあなたが忘れかけた愛を感じてた瞬間が見えるから、1回だけよその代わり」

少しネジの外れたおばさんが僕に言った。そんな言葉を気にするほど他の洗濯機が空

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短編小説「僕等は深く広く」

短編小説「僕等は深く広く」

僕達は車を盗んだ。遠く遠く逃げる為に。


「これ現金にしたら2000万ぐらい価値あるんじゃないか。」
先輩はこの上無い悦楽に酔いしれていた。
「はやく車を出せ、警備員が来るぞ」酔いしれてるくせに冷静だ。
エンジンを掛けようとするがまさかのバッテリー上がり。
「お前はいつもミスばかり、ふざけるなよ」
「どうしましょう、先輩」

いつも先輩に助けを求めると、万能薬のようになんともなく解決をしてくれ

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短編小説「ミスター親父」

短編小説「ミスター親父」

前書き
【キーワード】を各々2つずつ出し合って
計4つのお題を元に競作してみる第一弾!
〚キーワード〛
池未裕輝:夜間の学園/飴玉

https://note.com/iyamiikemi

和奏眠人:天体観測/蜘蛛の巣

https://note.com/minto_wakana

〚ルール〛
キーワードは文中にワードとして入れなくても、発想やニュアンスが入ればOK!
それではどうぞ。

ミスタ

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ショートショート「強気な私にはナイフを、弱気なあなたには盾を。」

ショートショート「強気な私にはナイフを、弱気なあなたには盾を。」

 愛で揺れてるこの世界で、過ぎてく日々は高速で、でも消したい過去は鈍足で私の周りを彷徨く。何を目的で生きてるかって問を急にされたら、いや多分されないがもし、もしされたなら、来週の漫画の続きが気になるから、ただそれだけでしか生きてない、それしか生きてく意味を見出せない、夢もなければ彼氏もいない何のために生きてるの?それ続きが気になるただそれだけ。でもその漫画に命を救われてる本当に素晴らしい、最終回が

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短編小説「アマービレ」

短編小説「アマービレ」

僕が最後のギターの音を掻き鳴らすと田舎の小さいライブハウスの
溢れ出そうな客は怒号に似た歓声を上げていた。
今までにはない景色を僕は見た、僕が創り上げた。

フェローチェ=荒々しく。

「おい金井少年!聞いてんのか!人生な先に出たもの勝ちなんだよ」
スタジオ出た瞬間に話しかけてくるおっさん。無性髭だらけのおっさん。
ここのライブハウスのおっさん。本当ちゃらんぽらんで適当なおっさん。
「水飴はかわい

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ショートショート「4畳半の天気」

ショートショート「4畳半の天気」

まえがき
「コロナ、菅野 M1グランプリ」
インスタで3個のお題をもらい1週間を目処に仕上げる事を試みました。

そのままぶち込むのはなんか嫌だったので2つは適当にしれっとでも1つは大胆に入れました。ご愛読お願いします。

四畳半の天気

晴れ

連載中の漫画が打ち切りだなんて、好きだったのに
恋人に振られたなんて、好きだったのに、
仕事はコロナのせいでクビ、これは嫌いだったからいいけど。

外は

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エッセイ「TRAIN?ーTRAIN?」

エッセイ「TRAIN?ーTRAIN?」

栄光に向って走る あの列車に乗って行こう

大阪に来てまだ2日目の田舎者の僕は駅の迷路に泳いでいた。人々の群れの中に僕は1人迷い込む、すれ違う人々に話し掛ける事もできず、掲示板に貼られた案内に初めて感謝をしやっとのこさで行くべきホームへ階段を降りる。3番線のホームには想像を越える人が溢れていた、これが都会の普通かと思ったがそれは直ぐにアナウンスと電子掲示板に否定される。

「人身事故のため高槻行き

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本当にあった話「2001、夏、鳥取」

本当にあった話「2001、夏、鳥取」

僕達は狂犬には負けたが権力に対して戦いを挑んだ話。

狂犬力

2001年6月梅雨まっしぐら、しかし夏直前。暑さで出た汗は僕らの肌に浮きTシャツにすぐ吸収される。下校はいつもの3人、リーダー格の1つ上の小学3年生ノリさん、少しぽっちゃり体質の小学3年生あづささんそしてこの物語の常に主役の小学2年イケミのスリーマンセルだ。

今日はいつもの三人。天気は晴れのち曇り。後ろを歩いてる老人男性。主人に繋が

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「20月」ショートショート

「20月」ショートショート



照り付ける太陽、Gショック付けた部分だけは白い肌、ただ僕は海を眺めたフリして君の横顔を見ながら

僕は勇気と喉を振り絞り、また1年後夏に会いましょうと
月並みの言葉を出した。

どんな美しい女優が作った笑顔よりも
美しくも儚い満面の笑顔で彼女は答えた。
「そうですね12ヶ月後に」

嬉しさのあまり僕は駆け引きなんか全て捨てて咄嗟に
そ、そうです12ヶ月後の8月にまた会いましょう
高揚を

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