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#小説
【短編小説】フェイク、スライド、フェイク
透明な包み紙が幾重にも重なり、やがてわたしになってゆく。
この皮膚の下を流れるのは甘ったるいチョコレート菓子だろうか、それとも誰かの祈りだろうか。
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客間の灯りが消えた。
窓を閉め、頭からシーツを被ると聞こえ始める。一段、また一段。階段を上がる足音はふらついて不規則だが、着実に近づいてくる。わたしは固く目をつむる。
かっ、かっ、かっ。
扉を金属で引っ掻くような音と共に、薄暗い
【短編小説】圧力鍋の真実
貧乏ゆすりで筋肉痛になると知っている人がどれだけいるだろう。
いつも通り朝7時に目を覚ますが、体を起こそうとすると太ももとふくらはぎに激痛が走る。それは癇癪をおこしたときの娘のように手がつけられないタイプの痛みで、中途半端な態勢に腹筋が先に負けた。
妻のゆりが「あなた、朝ごはんー」と呼ぶのにも応えられないまま、足の違和感の正体を探る。昨日は気持ちよく晴れた秋の一日だった。
自宅でPC
短編小説_ふゆちゃんのカイリュー #あの失敗があったから
やっぱり、ふゆちゃんがカイリューを引き当てたのが最初だったんだと思う。
新品のカードは角がぴったり重なってすぐにめくれないから、わたしとふゆちゃんは「あー」とか「もう!」とか言いながらコンビニの駐車場でパッケージを破る。その数秒のロスで運命が大きく変わってしまうみたいに慌ただしく中身を確認すると、四枚目で声が上がった。勝ち取ったのはふゆちゃんだった。
「すごいすごい! カイリューのキラカード入
短編小説_きみとうたたねの頃に
定時五分前になると時計に意識が向くのは、ミキちゃんの先輩になってからついた癖だった。
「せんぱーい、なにかすることありますかぁ」
書類が散乱したデスクに可愛らしい建前が弾んで落ちる。はじめこそ「思っていないことは口にするもんじゃない」と心のなかで毒づいていたが、今は先日社内報で回ってきた「パワーハラスメントに関する規則」の条文が頭をかすめる。加害者側に自覚がなくとも、被害者側が不快に感じればハ
手品師は薔薇を添え、鳩を出さない
「私の愛を受け取ってくれないか?」
差し出されたのは薔薇の花束。それも禍々しいほどの深紅が漂う愛の塊だ。
芳しいを通り越してくらくらするような花の香りは妖艶な年上の女性を彷彿とさせる。熟成されたベルベットの花びらの艶やかさが幾本も集まるとまさに壮観の一言で、ピンと張りつめたフィルムに包まれた美しい人は頑強な茨の城で守られ、その気高さを一層増して見せている。
なるほど、薔薇の花束が女性の憧れと
give back to the Beast
『この世の人間の前世はすべて異形の獣であったとある学者が言う。
真偽はさて置くとして、これから君たちの目の前にあらわれる物語にはこの学者の一見暴論にも思える学説を現実にする力がある。
タイムトラベルなどによって歴史を遡るといったいわゆる科学的な手法ではなく、むしろ限りなく非科学的な、一種の心理的構造を利用したやり方で君たちを導くだろう』
「誰も知らない物語」はこんな書き出しから始まる。
一
欠ける、満ちる、食べる。
中国や台湾では、どこも欠けていない満月を「円満・完璧」の象徴ととらえている。中秋節の満月の日に、家族が日本の正月のように集まり、食事をしながら満月に見立てた丸い月餅というお菓子や、文旦という果物を食べる習慣がある。
引用:https://www.gldaily.com/inbound/inbound2611/
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理由なき否定ほど、腹の立つものはない。
結婚前に勤めていた職場の上司は「な