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書店に勤める会社員のエッセイ

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エッセイ集『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』にはあえて書かなかった、書店員っぽいエッセイはこちらに
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#エッセイ

エッセイ「日比谷で本を売っている。」 〔赤いスカートと緑のエプロン〕新井見枝香

エッセイ「日比谷で本を売っている。」 〔赤いスカートと緑のエプロン〕新井見枝香

日比谷で働く書店員のリアルな日常、日比谷の情景、そして、本の話(第4回)。 ※最初から読む方はこちらです。

 以前勤めていた書店では、制服を着て働いていた。ワイシャツだけはなぜかピンクと水色と黄色から選べたが、紺色のベストとスカートを貸与されれば、自分らしさを出す気にもならない。今日は何色のシャツを着ようかと悩んだところで、どのみち同じ色を着ている人はいるし、時には全員、店内が黄色で揃ってしまう

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エッセイ「日比谷で本を売っている。」第2回 〔スポーツクラブと百獣の王〕 新井見枝香

エッセイ「日比谷で本を売っている。」第2回 〔スポーツクラブと百獣の王〕 新井見枝香

日比谷で働く書店員のリアルな日常、日比谷の情景、そして、本の話。

 職場のある商業施設「日比谷シャンテ」は、地下2階で地下鉄の日比谷駅に直結している。最高だ。雨の日も風の日も、特に冬は、生命を脅かすほどの寒さから私を守ってくれて、本当にありがとう。今後も、仕事選びの条件として【職場が駅直結】を真っ先に挙げたい。時給が100円安くても構わないほどだ。
 その地下2階の飲食店街を抜けると、「メガロス

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エッセイ「日比谷で本を売っている。」 〔ナマケモノと私〕新井見枝香

エッセイ「日比谷で本を売っている。」 〔ナマケモノと私〕新井見枝香

日比谷で働く書店員のリアルな日常、日比谷の情景、そして、本の話(第6回)。※最初から読む方はこちらです。

 最近、私の部屋にはナマケモノがいる。手足がひょろ長くて、目がぱっちりとしたぬいぐるみだ。それは書店員の傍ら、踊り子としてデビューした際に、お客さんからもらったものである。どうせパチンコかなんかの景品だとは思うが、あげたくなった理由は「似ているから」と言っていた。確かに私の髪は獣のような金色

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エッセイ「日比谷で本を売っている。」 〔「#ジブン追い越す」と〇〇嫌い〕新井見枝香

エッセイ「日比谷で本を売っている。」 〔「#ジブン追い越す」と〇〇嫌い〕新井見枝香

日比谷で働く書店員のリアルな日常、日比谷の情景、そして、本の話(第3回)。 ※最初から読む方はこちらです。

 「オイコス」というヨーグルトをご存じだろうか。最近どこのスーパーやコンビニでも並んでいる人気商品だ。タンパク質が摂れて、脂肪ゼロ、1カップ100Kcal未満のカラダにうれしいヨーグルトである。しかもコクがあって美味しい。つい回し者みたいに絶賛してしまったが、インドア派かつ運動不足なイメー

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エッセイ「日比谷で本を売っている。」〔大人の矛盾と子供のモヤモヤ〕新井見枝香

エッセイ「日比谷で本を売っている。」〔大人の矛盾と子供のモヤモヤ〕新井見枝香

日比谷で働く書店員のリアルな日常、日比谷の情景、そして、本の話(第7回)。※最初から読む方はこちらです。

 勤め先の書店がある商業施設「日比谷シャンテ」は、地下2階で日比谷駅に直結している。その通り道には、大好きなスターバックスがあって、通りかかるたびに甘いドリンクを飲む習慣がついてしまった。しかし、行きも帰りもとなると、さすがに節制したほうが良いのではと思い、ミルクを無脂肪に変更することにした

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エッセイ「日比谷で本を売っている。」第1回 〔土の香りとレトルトのパスタソース〕 新井見枝香

エッセイ「日比谷で本を売っている。」第1回 〔土の香りとレトルトのパスタソース〕 新井見枝香

日比谷で働く書店員のリアルな日常、日比谷の情景、そして、本の話。

 私は都内でひとり暮らしをする、39歳の会社員だ。こうして物を書くこともあるが、基本的には、書店に立って本を売っている。
 3年前に台東区の実家を出て、ひとり暮らしを始めた。縁もゆかりもない東久留米を選んだのは、単に不動産屋に勧められたからである。その頃、新しい書店のオープンに携わっていて、ハムスターのカラカラみたいに、働いても働

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エッセイ「日比谷で本を売っている。」 〔ビュッフェと地球〕新井見枝香

エッセイ「日比谷で本を売っている。」 〔ビュッフェと地球〕新井見枝香

日比谷で働く書店員のリアルな日常、日比谷の情景、そして、本の話(第5回)。※最初から読む方はこちらです。

 私は「ビュッフェ」が好きだ。いろいろなものをちょっとずつ食べるという行為に、お腹を満たすこととは別の幸福を感じる。ひとり暮らしで自炊するようになってからは、そこにありがたみも加わった。ひじきと、切り干し大根と、おからと、春雨サラダと、ポテトサラダと、おひたしと、だし巻き玉子と、肉じゃがを、

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エッセイ「日比谷で本を売っている。」第8回 〔秘湯と白猿〕新井見枝香

エッセイ「日比谷で本を売っている。」第8回 〔秘湯と白猿〕新井見枝香

 日比谷で働く書店員のリアルな日常、日比谷の情景、そして、本の話(第8回)。※最初から読む方はこちらです。

 秘湯と呼ばれるその温泉は、気が遠くなるほどつづら折りを繰り返した、山の奥の奥にあった。江戸時代には、立派な茅葺き屋根の宿が3軒並んでいたそうだが、今はいちばん奥の1軒を残すのみ。火事で焼けてしまった真ん中の跡地は、そのままになっていた。そのいちばん手前、趣きのある新しい旅館が、今夜泊まる

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新井見枝香のイベント情報(2018年11月23日更新)

新井見枝香のイベント情報(2018年11月23日更新)

イベントに関するお問合せ→ 開催店舗

新井へのリクエスト→ @honya_arai 

※楽しいお仕事の依頼は、会社ではなく、新井にDMでお願いします

NEW! 2018年11月25日(日)14時00分~

蒼月海里さんとわちゃわちゃミニトーーーク!!!

明正堂アトレ上野店の前

実は元同僚なんです。そのくせなぜか、ふたり揃って明正堂アトレ上野店に

超お世話になっております。

予約

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腐る程された質問に今さら答える

腐る程された質問に今さら答える

インタビューに限らず、商談で、飲み会で、腐る程されてきた質問がある。それなのに、今に至ってもまだ、上手く答えることができない。

ひと月に何冊くらい読むんですか?

1冊なのか100冊なのか、わからない。ひと月につぶグミを何粒口に入れるのかわからないくらいわからない。

だが、クリープハイプのアルバム「世界観」に収録された「バンド」という名曲で、そういう質問に《今更正直に答えて》いる姿がかっこ良く

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君たちは《何を食べ》どう生きるか

君たちは《何を食べ》どう生きるか

体がかたい人でもベターッと開脚できるようになる本が100万部売れたからといって、100万組もの足がきれいにパカーンと開いたとは到底思えない。おそらくまだ半分も開かれてはいないのではないか。

それは本の内容がどうとかでなく、脚は読むだけでは開かないという当たり前の理由による。少なくとも私が生で目撃したのは、その本を読んでいない母かよ子の180度開脚だけだ。その体勢で菓子パンを食べていたのだから、彼

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点と点と線と短歌

点と点と線と短歌

今日も本を買った。

本を買う行為は点だが、それはどこかの点から線でつながっている。

10年前からだったり、その点をもう憶えていなかったりもするが、今日のそれは、記憶に新しい数時間前の点。こういう勢いのある買い物って、クラクラする。

ランチタイムも過ぎた頃、チェーンのとんかつ屋へ行くと、中に入れなかった。
入口で客が団子になっている。
どうにか中に入ると、中国人と思しき2世代ファミリーが、食券

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なにを言ってるのかさっぱりわからない文

なにを言ってるのかさっぱりわからない文

全ての人に誤解がないように、誰にでもわかるように書こう書こうとすると、文章というものはみるみる面白くなくなるから困ったものである。

でも誤解しないでほしいのだが…と書いて、あっ、それは今からこれも面白くない文章になっていくってことか?と思ったが、多分違うと思う。思いたい。

この道すべるから気をつけてと言ったそばから自分がステーンとすべって恥をかくアレだったらどうしよう。

もういいや。

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なにを言ってるのかさっぱりわからない本

なにを言ってるのかさっぱりわからない本

全裸でベッドに寝っ転がって口を開けてスマホをいじっていても、自分が何屋であるかは決して忘れていない。

#字面は追えたがなにを言ってるのかさっぱりわからなかった本

タイムラインに流れてきたハッシュタグに、本屋センサーが反応した。

正座で猛然とTwitterを遡る。

一体どの本が、まるで異世界からの交信のような言われ方をしているのか。本屋として、見過ごすことはできない。

すると…出るわ出る

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