挿絵かまぼこ

なにを言ってるのかさっぱりわからない本

全裸でベッドに寝っ転がって口を開けてスマホをいじっていても、自分が何屋であるかは決して忘れていない。

 #字面は追えたがなにを言ってるのかさっぱりわからなかった本

タイムラインに流れてきたハッシュタグに、本屋センサーが反応した。

正座で猛然とTwitterを遡る。

一体どの本が、まるで異世界からの交信のような言われ方をしているのか。本屋として、見過ごすことはできない。

すると…出るわ出るわの名作文学たち。超有名な国内外の古典から、映画化され大ヒットした現代小説まで。

必ずしも「売れている本=誰にとっても面白い本」ではない。

なぜなら本は、基本的に買った後に読むものだからだ。

読んでみないと、今の自分にとって面白いかどうかがわからない。なにを言ってるのかさっぱりわからないってこともそりゃあるだろうが、それも、読んでみたからわかることなのである。

とはいえ「おたくで買った本、字面は追えたんだけど、なにを言ってるのかさっぱりわかりませんでしたよ」といったご意見を店頭で聞いたことは、この10年で一度もない。

世間で売れている本なのに、読んでもさっぱり意味がわからないのは、なんだか恥ずかしいことのような、自分のほうががおかしいような気がしてしまうのかもしれない。

「字面は追えた」ということは、楽しもうと努力はした、ということである。その人は本にお金を使ったり、貴重な人生の時間を読書に割いたりした。

それなのに「さっぱりわからかった」としたら、本に対してネガティブな気持ちや怒りを抱いてしまっているのではないか。それがとても心配だった。

しかしそのハッシュタグは、本そのものを貶めようとしているわけでも、それを書いた人や売った人を糾弾しようとしているわけでもなかった。

あくまでも、わからなかった自分のカミングアウトであり、皆、ただわからなかったという事実を言いたいだけなのだ。そしてわざわざそういうことをしている時点で、本のことがやっぱりどこかで、すごく気になっているのだ。

実際、わからなかったからこそ読書にはまってしまった、という人も少なくない。

子供の頃に読んで、よくわからないが、ワクワクする本も確かにあった。

「不思議の国のアリス」なんて、そのわけのわからなさが、30年以上も私を惹きつけている魅力だったとしか思えない。

わからないということは、つまり、面白いのかもしれない。

(絵:まんしゅうきつこ)

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