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独選「大人の必読マンガ」案内

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新潮社フォーサイトで連載中のコラム「独選『大人の必読マンガ』案内」を転載しています。名作・傑作をしつこく推薦し、皆さんがうっかり読む前に死んでしまうリスクを軽減するのが本コラムの…
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#コラム

ウイルス禍から救われるべき「弱者」を知る 青木雄二『ナニワ金融道』

ウイルス禍から救われるべき「弱者」を知る 青木雄二『ナニワ金融道』

新型コロナウイルスの感染拡大は、世界保健機関(WHO)がパンデミックを宣言する事態に発展した。

本コラムでは前回(3月3日)、細菌やウイルスに関する基礎テキストとして『もやしもん』(講談社)をご紹介した。

この中で私は、新型ウイルスについてこんな見解を示した。

・すでに完全な「封じ込め」は難しい
・医療リソースの枯渇を回避し、治療法とワクチンの開発の時間稼ぎをするべきだ
・難しいのは感染抑制

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愚行と矜持を描き切った叙事詩 宮崎駿『風の谷のナウシカ』

愚行と矜持を描き切った叙事詩 宮崎駿『風の谷のナウシカ』

自然の前で人間の力など小さなものだ。

新型コロナウイルスに翻弄される日々は、我々にこの陳腐な言い回しを再認識させる。
一方でその小さな存在が気候変動を引き起こし、人類は自然と調和したあり方を模索しつつある。

我々は危機を前に賢明な選択ができるのか。

この一大テーマを念頭に最近、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』を精読した。

映画とはまったく別の作品マンガ版『風の谷のナウシカ』は、中断を挟みつつ、

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「おうちにいよう」は「マンガを読もう」だ! 今こそ読みたい傑作20選

「おうちにいよう」は「マンガを読もう」だ! 今こそ読みたい傑作20選

本稿は新潮社のニュースサイト「Foresight」に掲載されたコラムを再構成したものです。編集部のご厚意で転載しています。

新型コロナウイルスの影響で、学校は長期休校、大人も在宅勤務と、誰もが自宅で過ごす時間が激増しています。生活のリズムが狂い、日々のニュースを見れば気持ちも沈む。
「コロナ疲れ」は深刻です。

でも、今、我々にとって「おうちにいよう」は、文字通り、日本と世界を救うための使命です

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ルームメイトはイスラムな女の子 『サトコとナダ』

ルームメイトはイスラムな女の子 『サトコとナダ』

最近の米国とイランの関係悪化など騒然とした中東・イスラム圏のニュースは日々、耳に飛び込んでくる。今や世界人口の4分の1がイスラム教徒で、将来には「3人に1人」までその割合は高まるとされる。都内でも最近、ヒジャブを身に着けた女性を見かけることが増えた。

とはいえ、多くの日本人にとってイスラム教やその信者はまだ遠い存在だろう。一方的に流れてくる不穏な国際ニュースの洪水と、不足がちな等身大のイスラム教

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誰もが落ちうる奈落とその先の救い 『失踪日記』

誰もが落ちうる奈落とその先の救い 『失踪日記』

独選「大人の必読マンガ」案内 (17)
吾妻ひでお『失踪日記』
吾妻ひでお氏が10月、69歳で亡くなった。
今回は追悼の念をこめて本コラムで「いつかは」と考えていた『失踪日記』(イースト・プレス)とその続編『失踪日記2 アル中病棟』(同)を取り上げたい。

帯で「全部実話です(笑)」とうたう『失踪日記』は3部構成で、第1部と第2部が吾妻氏自身の失踪時の体験記、第3部は自らのアルコール依存症の発症と

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「エコは人間のエゴ」という悟り

「エコは人間のエゴ」という悟り

独選「大人の必読マンガ」案内 (16)
岩明均『寄生獣』
16歳の少女の “How dare you”という火を吹くような糾弾が世界の注目を集めたかと思えば、日本では国会議員の公党党首が世界的な人口増について、「あほみたいに子供を産む民族はとりあえず虐殺しよう」と公言して騒動を起こしている。

後者の暴言は論外として、環境問題が取りざたされると再読したくなる漫画が、岩明均の『寄生獣』(講談社)だ。

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含羞を帯びた痛切な鎮魂歌 『あれよ星屑』

含羞を帯びた痛切な鎮魂歌 『あれよ星屑』

独選「大人の必読マンガ」案内 (15)英語に brothers in arms という表現がある。ともに武器をとった仲間、戦友を指す言葉だ。一定年齢以上の読者なら、ダイアー・ストレイツの名盤のタイトルを思いだすかもしれない。
戦場という極限状態を共有した強い絆は、文学や映画でも、男の友情を描く格好の題材となってきた。

『あれよ星屑』(エンターブレイン、KADOKAWA)は2人のbrothers

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「よつばと!」で英語を学ぼう!

「よつばと!」で英語を学ぼう!

独選「大人の必読マンガ」案内(14)
あずまきよひこ『よつばと!』『YOTSUBA&!』私は現地の書店をのぞくことを海外旅行の楽しみの1つにしている。
欧州各国では、少し大きな書店には、たいてい日本の漫画コーナーがあった。他のコミックとは別枠で"MANGA"と表記されているケースが多い。何人か、MANGAを「原書」で読むために日本語を勉強してるという若者に会ったこともある。
今回は、この「原書」に

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人生に必要な知恵はすべて「マンガ」で学んでね

人生に必要な知恵はすべて「マンガ」で学んでね

高井家流マンガ「R指定」システム高井家には、今年の4月から大学1年、高校1年、中学1年になった3~4歳間隔の三姉妹がおります。この3人、特に下の2人は小さいころ、「早く5年生になりたい!」と高学年になるのを心待ちにしていました。
なぜなら、小学5年生から『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博、集英社)が読めるようになるからです。
特に「最後尾」の三女は、父と姉たちが「メチャメチャ面白い!」と盛り

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愛と自由とフロンティア

愛と自由とフロンティア

独選「大人の必読マンガ」案内(12)
幸村誠『プラネテス』史上初のブラックホールの撮影成功やJAXA(宇宙航空研究開発機構)の無人探査機「はやぶさ2」の活躍など、宇宙を巡って夢のあるエキサイティングな話題が相次いでいる。
一方、中国が月の裏側へ探査機を送りこみ、ドナルド・トランプ米大統領が宇宙軍創設や月面への有人探査を表明するといった、大国間の宇宙を巡る覇権争いにも拍車がかかりそうな気配だ。

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Brexit迷走の謎を知る最良の教材

Brexit迷走の謎を知る最良の教材

独選「大人の必読マンガ」案内(11)
浦沢直樹 ・勝鹿北星・長崎尚志『MASTERキートン』英国・アイルランドでは、頭文字を大文字で表記する「The Troubles」という特別な言い回しがある。
日本語として定着している「トラブル」という一般名詞のイメージとは違い、この言葉には血生臭い歴史が染みついている。テロや弾圧で3000人以上の死者を出した北アイルランド問題を指す婉曲表現だからだ。

当初

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ユーモアに殉じたリベラリスト 左翼こそ「へうげもの」に学べ!

ユーモアに殉じたリベラリスト 左翼こそ「へうげもの」に学べ!

独選「大人の必読マンガ」案内(6)
山田芳裕『へうげもの』畢生の大作という言葉がある。「代表作」ではまだ足りない、生涯に一度しか書けない、渾身の一作という言葉だ。
まだ50歳とはいえ、山田芳裕にとって、『へうげもの』(講談社、読みは「ひょうげもの」)はまさに畢生の大作だろう。

主人公は美濃の戦国武将、古田佐介(のち古田織部正重然=おりべのかみしげなり、織部助重然)。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と

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理想の上司 vs 悪魔的起業家 「パトレイバー」の魅力

理想の上司 vs 悪魔的起業家 「パトレイバー」の魅力

独選「大人の必読マンガ」案内(5)
ゆうきまさみ『機動警察パトレイバー』「理想の上司像は?」という質問に、私は定番の答えをもっている。
「パトレイバーの後藤さん」というのがそれだ。

ゆうきまさみの『機動警察パトレイバー』(小学館)は、東京を舞台とする近未来SFマンガの傑作だ。多足歩行式ロボット「レイバー」が広く普及し、急増するレイバー犯罪に対処するため、警視庁が本庁警備部内に設置した「パトロール

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「新潮45」休刊を超えて 出版再生と土田世紀「編集王」

「新潮45」休刊を超えて 出版再生と土田世紀「編集王」

本記事は10月3日に新潮社のニュースサイト「Foresight(フォーサイト)」に連載中のコラム、独選「大人の必読マンガ」をもとにしたものです。
このコラムは編集部のご厚意で毎回、noteに転載していますが、今回はコラムと同時期にアップしたnoteの投稿「私の一部は新潮文庫できている」を取り込んでまったく別のコンテンツになっています。
執筆・掲載は独断によるもので、全責任は筆者にあることを明記しま

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