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「おうちにいよう」は「マンガを読もう」だ! 今こそ読みたい傑作20選

本稿は新潮社のニュースサイト「Foresight」に掲載されたコラムを再構成したものです。編集部のご厚意で転載しています。

新型コロナウイルスの影響で、学校は長期休校、大人も在宅勤務と、誰もが自宅で過ごす時間が激増しています。生活のリズムが狂い、日々のニュースを見れば気持ちも沈む。
「コロナ疲れ」は深刻です。

でも、今、我々にとって「おうちにいよう」は、文字通り、日本と世界を救うための使命です。この辛い現実をうまくやり過ごすため、あらゆる資源を総動員すべきです。
私は日本人にとって、この戦いにおける最強の武器はマンガだと思います。

マジメに。

読書家でも「本が読めない」

先日、ある博覧強記で知られる読書家のツイッターアカウントがこんなことをつぶやいていました。

「活字の本が読めない自分に驚いている。どうしても集中できない」

読んでハッとしました。私自身、相当の本好きなのですが、読書の「持久力」が落ちているのを自覚したのです。

巣ごもりに備えて面白い本、読みたい本を買い込んで、「積読」は充実させたのに、手が伸びない。
読み始めても、没入できず、気づくとスマホをいじっている。

映画も同じような状態です。Amazon Prime Videoの「お気に入り」に登録済みの大量の名画のリストを見ても、上映時間2時間超となると、躊躇してしまう。

どうやら今、ある程度集中して消化するタイプのコンテンツは摂取量に限界があるようなのです。

例外がマンガです。

活字より視覚的で「世界に浸る」ハードルが低く、映画と違って自分で「幕間」を調整しながら、長編なら数日にわたって楽しめる。
「コロナ疲れ」を癒やすため、今こそ本棚から引っ張り出すか、「大人買い」でド長編を再読する、あるいは未読の名作にトライする好機です。

以前、『人生に必要な知恵はすべて「マンガ」で学んでね』と題して、高井家流のマンガ「R指定」システムをご紹介しました。

作品が一部重複しますが、今回は改めて「おうちにいよう」の最良の友となるマンガをご紹介します。
普段の連載では「手元にある完結した作品」を時事に絡めてご紹介していますが、今回は「ストレス無しで楽しめる」をテーマに、未完のマンガも取り混ぜています。

一部の長編マンガは「お試し購入ライン」もご提案してみました。セレクション含め、完全に私個人の独断と偏見によるものです。「大人買い」の参考になれば幸いです。
では、能書きはこれぐらいで。

親子でイケる「鉄板」10選

まず「子どもを『スマホ漬け』から救う」という喫緊の課題に応えるラインナップを。もちろん、大人のスマホ中毒・コロナ疲れにも効果抜群です。

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1.『鋼の錬金術師』荒川弘

まずは通称、ハガレン。陳腐な表現ですが、これは「読んでないのは人生損してる」レベルの傑作です。構想とプロットに一部の隙もなく、大人も子どもも一気読み必至。
読みやすさ抜群の作画、特にアクションシーンの「何が起きているか一目でわかる」描写力は、下手な映画では太刀打ちできないレベルです。単行本全巻一気買いで間違いなし。

2.『ARMS』皆川亮二 七月鏡一・原案協力

こちらもバトル系の傑作。「戦闘力のインフレ」と「今日の敵は明日の友」的なありがちな展開ではありますが、「アリスとは何者か?」という謎解きが太い軸として貫かれているので、グイグイと引き込まれます。「これ、本当に週刊連載だったのか?」という作画も圧巻。
「ハガレン」よりは好みが分かれるところかもしれないので、まずは第1部「覚醒編」、単行本なら3巻までをトライしてみてはどうでしょうか。

3.『HUNTER×HUNTER』冨樫義博

説明無用で「買い」ですので、「子どもと一緒に」の方に注意点だけ。
そこそこ残虐なシーンがあるので、我が家では「小学校5年生から解禁」という縛りをかけていました。気になる方は「グリード・アイランド編」、単行本なら18巻までにとどめれば安心かもしれません。
大人なら「キメラ=アント編」が最強に面白いので30巻まで一気買いでOK。

と区切ってみましたが、結局、既刊全巻買う羽目になると思います。最大の問題は休載が多いこと。続きが気になって悶絶して、「冨樫、働け」と叫ぶ勢力の一員になってしまうことでしょう。

働け、冨樫。

4.『はじめの一歩』森川ジョージ


このボクシング漫画の傑作の問題は、巻数が「こち亀」(こちら葛飾区亀有公園前派出所)並みで二の足を踏んでしまうところ。既刊120巻オーバーはさすがに「一見さん」にはトゥーマッチです。

そこでオススメは、まず単行本30巻の対千堂武士戦まで読むこと。
「お試し」にしては長すぎるとお思いかもしれませんが、この一戦まではオーソドックスなボクシングものとしてクオリティが極めて高く、しかもこのタイトルマッチは同作中、屈指の名勝負です。ページを繰る手が止まりません。

5.『ハクメイとミコチ』樫木祐人

殺伐としたバトルものが並んだので、ぼちぼちと中和していきます。
身長9センチの小人たちとリアルサイズの動物の生活を描いた日常系ファンタジーです。一点物のイラストのような緻密な絵柄で、ボーイッシュなハクメイとお姉さん体質のミコチの豊かでスローな暮らしぶりが描かれます。

練り込まれた世界観のなかで愉快で多彩なキャラクターが遊ぶ姿に子どもが夢中になり、やたらと旨そうな料理やお酒を見て大人は「家呑み」が進みます。

6.『ハイキュー!!』古舘春一

バレーボールを題材にとった、安心して読める部活マンガの王道。
これはお子さんはもう読んでいる、あるいは読みたい・そろえたいと思っている可能性大。「大人買い」してしまいましょう。お父さん・お母さん株急騰のチャンスです。
大人が読んでも十分面白いので「投資」は確実に回収できます。
なお私の「推し」は青葉城西高校の及川徹キャプテンです。

7.『ヒカルの碁』ほったゆみ・原作 小畑健・作画

インドアで楽しむことを強いられている今、この名作は外せません。
こちらも全巻一気買い推奨ですが、あえて言えば単行本17巻までの「佐為編」が神がかった出来。
ヒカルや周囲の少年少女の成長物語として、「読者側が謎を知っているミステリー」ものとして、何より囲碁の世界の入口として、マンガ史に残る作品です。

未読の大人は、まだ読んでいないのを幸運だと思って、この機会にぜひ読んで、子どもと囲碁が楽しめるとなお良いのでは。
ちなみに私は倉田厚五段推しです。

8.『ブルーピリオド』山口つばさ

つい最近「マンガ大賞2020」に選ばれたばかりの話題作。私も最近すっかりハマったので、ラインナップに加えておきます。
こちらもインドア派で、お絵描き欲を刺激してくれます。少々、レベルが高すぎますが。
東京藝術大学を目指す高校生の成長物語から、「絵を描く」という行為の本質が垣間見える奥深い作品で、大人でも目から鱗な視点やエピソードが盛りだくさんです。

まだ7巻までと「尺」が短いので、食い足りない方には同系列で、羽海野チカ『ハチミツとクローバー』もオススメします。

9.『ガラスの仮面』美内すずえ

世代を超えて人間を徹夜に追い込むモンスター級のページターナーですので、スマホから距離をとらせる最終兵器です。未読の大人は、不明と怠惰を反省したうえで、お子さんと一緒に「一般教養」として読んでください。

熱烈なファンから怒られそうですが、「紫の影」編までが鉄板ゾーンです。コンパクトで買い揃えやすい白泉社文庫で言えば、19巻までは一気買いして間違いなし。
なお、「徹夜モノ」と書きましたが、免疫力を保つためには睡眠不足は禁物です。
くれぐれもご注意を。

10.『精霊の守り人』上橋菜穂子・原作 藤原カムイ・作画

最初にお断りを。この一作を推薦するのは反則かもしれません。なぜなら私自身、未読だからです。
それでも、推します。
私は上橋菜穂子さんの大ファンで、この作品は原作の小説とアニメ版をそれぞれ数回、再読・再視聴しています。原作の面白さは折り紙付き。そして作画が『雷火』の藤原カムイ。このコンビなら「鉄板」確定。
なぜ今までコミックを買っていなかったのか、我ながら謎です。

これを入り口に、『守り人』シリーズ、『獣の奏者』へと引き込まれていけば、お子さんを「マンガから活字の本へ」というコースに導けます。
そんな計算は抜きで、私自身、先日届いたばかりの漫画版を読むのを楽しみにしています。
追記:記事掲載後に読みました!最高!

人間への信頼感を

新旧織り交ぜて10作品を羅列してきました。
共通項は、もちろん「面白い」なわけですが、もう1点、選ぶうえで考えたのは、「人と人との繋がりで、登場人物たちが成長していく」という作品の枠組みのようなものです。

新型コロナは私たちの社会の形を変えようとしています。
今は、その過程でネガティブなインパクトが表面化しやすい時間帯です。
メディアやネット空間の言説も不安とギスギスとした空気に満ちています。

マンガは所詮、フィクションではあります。
しかし、フィクションだからこそ描ける人間の善性もあります。

コロナ禍で戦う前線の方々への畏敬の念は忘れてはいけない。
同時に、私たちのように「おうちにいる」ことが「持ち場」である大多数には、心の余裕を生んでくれて、人間への信頼感を取り戻せるコンテンツが不可欠です。

そんな困難な時期にうってつけの素晴らしい作品を生み出してくれたクリエイターたちに敬意を払いつつ、思う存分、マンガを楽しんではいかがでしょうか。

大人の優先課題は「現実逃避」だ!

新型コロナウイルスの影響で、遊び盛り、学び盛りの子どもたちが友だちに会えないのは胸が痛みます。
でも、我々大人も、自宅待機はかなりストレスフルです。
慣れないテレワークで仕事の効率が上がらず、運動や外食、ショッピングで発散もできない。巣ごもりの副作用で「コロナ離婚」が増えているという不穏なニュースも耳に入ってきます。

私は今、多くの大人にとって優先度の高いアクティビティは「現実逃避」だと思います。

(伝染病と経済的打撃のさなかに、何を呑気な!?)

もし、今、反射的にこんな思いが浮かんだのなら、それは危険な徴候かもしれません。

少し前にネットで欧米の医師の職業観について、こんな印象的フレーズを見かけました。

「もし帰宅後も患者のことが頭から離れないようだったら、医師であるあなた自身がメンタルヘルスのケアを受けるべきだ」

四六時中、患者のことを考えてくれるのは素晴らしい医師のように思えます。しかし、そんな精神状態は多くの人間にとってサスティナブルではない。

新型コロナの脅威は逃れられない現実です。
ニュースを見れば感染者や死者の増加が伝えられ、企業業績の急激な悪化や中小・零細企業の倒産、「町のお店」の閉店・休業を直接目にすることも増えています。

本来、こうした厳しい現実から逃げられる安全地帯が自宅のはずです。
しかし現状、その安全地帯そのものが「戦場」の一部になってしまっています。
しかも、この籠城戦は、どうやら相当の長期戦になりそうです。

人間には現実から離れて、心を休める場所が必要です。
意識的に「現実逃避」を取り入れないと、長期戦は乗り切れません。
「積極的現実逃避」のツールとしてマンガほど良いメディアはそうそうありません。ほどよい受け身感で、つまみ食い的に時間もコントロールできます。

大人のファンタジー10選

ここからは「大人の現実逃避」に向いているマンガを独断と偏見でご紹介します。
オジサンの私が逃げ込めるファンタジーワールドを選んでいるので、ラインナップが男性向けに偏っているのはご容赦願います。

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1.『ヴィンランド・サガ』幸村誠

私見では今一番アツいマンガです。
バイキングが席巻した11世紀初頭の欧州を舞台に、ストーリー展開、キャラクターの魅力、作画、テーマ性などあらゆる角度から、当代で最高峰の作品でしょう。どっぷりと没入できます。
既刊23巻一気買いで間違いなし。私はトルケル殿と「蛇」のファンです。

マンガにハマったら、『NHK』で放送されたアニメも必見レベルの出色の出来です。「円盤」以外に、Amazon Prime Videoで視聴可能です。
幸村誠作品は以前、当コラムでとりあげたSFマンガ『プラネテス』も文句なしで面白い。描かれる時代は違っても、両作品は「愛と自由とフロンティア」というテーマでつながっています。
こちらもぜひ。

2.『BLUE GIANT』石塚真一

高校生で初めてジャズに触れ、天啓を受けたように「世界一のサックス奏者」を目指す若者の成長物語。音楽の力と自身を信じ、真っすぐに進む主人公・宮本大の生き方が眩しい。スターダムへと駆け上がるプロセスの目撃者として作品世界に浸れます。
「無音のメディア」のマンガは、不思議と音楽というテーマと相性が良く、秀作が多い。本作もページから音が響いてくるような迫力があります。
石塚真一は代表作『岳』も素晴らしい作品です。両作品のちょっとした共通点は主人公のブロークンな英語がリアルなこと。実にうまく「崩して」います。
国内編10巻だけでなく、海外編『BLUE GIANT SUPREME』の既刊10巻も同時に一気買いしないと、届くまでに続きが気になって悶絶する羽目になるでしょう。

3.『遥かな町へ』谷口ジロー

大林宣彦氏が亡くなり、映画『時をかける少女』をなつかしく思いだした方も多いでしょう。谷口ジローの『遥かな町へ』は、さながら「時をかける中年」。
ある日、働き盛りのくたびれたオジサンが意識を失い、目覚めたら中学2年生の時代にタイムスリップしてしまう。「心は中年、体は少年」の状態で中学時代をやり直し、長年の謎だった父親の失踪の真相に迫る。

文章にしてしまうとありがちな設定で、実際、お約束のような展開が多いのですが、そこは谷口作品。クオリティーは折り紙付きです。安心して身を委ねて、わが身を振り返って「ああ、こんな風に『生き直し』ができたらな」と空想に浸れます。余韻のあるラストも素晴らしく、「オジサン向けファンタジー」の理想形のような1冊です。
余談ですが、私はこの手のタイムスリップものが好きで、長年の愛読書『リテイク・シックスティーン』(豊島ミホ)のマンガ化を熱望しています。

4.『永遠の野原』逢坂みえこ

さらに一歩、甘酸っぱい方向に踏み込んで現実逃避するなら、恋愛マンガの力も借りたいところ。正直、この方面はあまり「手持ちのカード」が豊富ではないのですが、我が家のコレクションで自信をもって推せるのがこちら。

二太郎という少年の視点が中心で、その親友・太との関係が恋愛要素よりも「グッとくる」こと、大人の登場人物のエピソードも魅力的なことなど、大人の男性読者でも世界に入り込みやすい条件が整っています。
作品としてのクオリティーも文句無し。美しい描線と余白が多めの構成に目から癒されます。少女マンガ特有のポエムも抑制が利いた良いさじ加減です。
逢坂みえこ作品では、『ベル・エポック』と並んで2~3年に1度は一気読みしたくなるAll Time My Favoritesです。

5.『QP』髙橋ヒロシ

180度趣向を変えまして、「男のファンタジー」の一大ジャンル、不良マンガから。ストレートに『湘南爆走族』や『BE-BOP-HIGHSCHOOL(ビー・バップ・ハイスクール)』といった古典を再読すればオジサンは鉄板で楽しめそうですが、未読なら少し新しい世代の作家にトライしてみては。

髙橋ヒロシといえば代表作は『クローズ』ですが、巻数がそこそこあるうえ、スピンオフ的な作品が増殖して手を出しにくいのが難点。
『QP』は単行本8巻とコンパクトで入門に最適。主人公のキューピーこと石田小鳥や他の不良少年たちの造作は髙橋ワールドの魅力十分です。「不良少年たちは、どう『大人』になっていくか」がテーマで、モラトリアム期間の冒険譚が中心の通常の不良マンガより大人も共感しやすいでしょう。

6.『本気(マジ)!』立原あゆみ

『仁義なき戦い』シリーズや『ゴッドファーザー』3部作を挙げるまでもなく、ヤクザ・マフィアモノも男のファンタジーの類型です。弱肉強食の抗争やアウトローのサクセスストーリーも悪くないですが、現実逃避が狙いなら『本気!』がお誂え向きでしょう。

主人公・白銀本気は仁義を重んじ、縄張り(シマ)の平和を守るため命をかけ、無欲なのにそのカリスマ性で図らずも日本屈指の侠客への道を歩みます。さらに物語の軸になるのは、薄幸の少女・本城久美子とのプラトニックラブです。
どこからツッコむか迷うほど非現実的な世界観とストーリー展開ですが、なぜかハマります。脇役も魅力的。私のお気に入りのキャラは、本気の相棒の次郎ちゃんと久美子の母親です。

7.『頭文字(イニシャル)D』しげの秀一

名作『機動警察パトレイバー』の作中で「後藤さん」が喝破するように、子どもの夢は「基本的に『運転手さん』になること」です。カーレースものも『サーキットの狼』、『F』、『capeta(カペタ)』と傑作が多い。「ハチロク(AE86)」という車種に思い入れのある世代なら、外せないのがこちら。

主要キャラは若き走り屋たちですが、主人公・藤原拓海の父など適度にオジサンキャラが絡んでくるので、新旧両世代の視点で楽しめるオジサンには、一粒で二度おいしい。
ネックは単行本48巻という分量でしょう。試し読みラインは主人公と「ハチロク」が転機を迎える10巻まで。ここまで読んでお気に召せば、17巻の第1部終了までは青春モノとして楽しめるでしょう。私の定番の「再読ゾーン」はプロレーサー舘智幸とのバトルをおさめた21巻までです。
忍者アタック、最高。

8.『め組の大吾』曽田正人

「運転手さん」と同じように憧れの職業であり、市井のヒーローでもあるのが消防士。その派手な活躍を濃縮還元1000%で詰め込んだのが本作です。単行本で20巻、文庫版なら11巻と一気買いにピッタリの分量かと。

主人公・朝比奈大吾の「天性のレスキュー野郎」という造形と、次から次へと起きるトラブルの舞台設定が秀逸で、息つく間もないスリルと温かみのあるヒューマンストーリーがたっぷり味わえます。周囲を振り回す大吾の奔放さに引き込まれ、時間を忘れてページをめくることになるでしょう。こちらはお子さんと一緒でも楽しめる一作。
私の推しは、もちろん「五味さん」です。

9.『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』安彦良和・作画 矢立肇、富野由悠季・原案

こちらは説明不要かと存じます。私は今年で48歳ですが、同世代の男性が全巻買い揃えていないとは想像しがたい。
万が一、未入手でしたら単行本24巻、愛蔵版12巻、どちらでも良いので即刻大人買いしましょう。

10.『神々の山嶺(いただき)』谷口ジロー・作画 夢枕獏・原作

「10選」で同じ漫画家を2本入れるのはどうかと迷いましたが、やはり挙げておきたい。谷口ジローは「原作付き」で数々の良い仕事を残した作家なのでご容赦を。

この作品の凄さは原作の再現度の高さ、いや、マンガという表現手段の力で「原作超え」を果たした偉業です。原作者自身がマンガ化するなら「描き手は谷口ジロー以外にはない」と熱望し、「山の描写は圧倒的だ。高度感があって、怖い」と認める傑作を見逃す手はない。登山という、過酷ではあるけれど、日常生活からはるか離れた別世界に連れ去ってくれます。

羽生丈二と長谷常雄という2人の男の歩みは常人離れしたものですが、よく知られているように、実在の著名クライマーをモデルとしています。ノンフィクションを読む「体力」が戻ってきたら、羽生のモデルであるクライマー森田勝の生涯を描いた珠玉のノンフィクション『狼は帰らず』や長谷川恒男の一連の著書も一読をお勧めします。

無数の「逃げ場」が日本の武器

これらの作品は、私自身がいますぐ逃げ込めるシェルターのようなものです。
これ以外にも、手塚治虫や鳥山明の作品群、マンガ版『風の谷のナウシカ』、『AKIRA』、『釣りキチ三平』など「逃げ場」はいくらでも思いつきます。枚挙にいとまがないスポーツマンガや、好みのギャグマンガで馬鹿笑いするのも免疫力向上に役立ちそうです。

冒頭に記した通り、本稿は新潮社のニュースサイト「Foresight(フォーサイト)」に掲載されたコラム、独選「大人の必読マンガ」特別編の転載です。編集部のご厚意で公開から一定期間後にこちらにもアップしています。本文、画像など一部を加筆修正しています。
マンガコラムの連載バックナンバーはこちらのマガジンにあります。
こちらの作品も「イチオシ」ぞろいなので、ご参考になさってください。

繰り返しになりますが、我々は嫌でも新型コロナという現実に直面せざるを得ません。
厄介な敵との戦いでスキを見せないためにも、「心の疲れ」の蓄積は禁物です。

マンガという、ハードルが低く、胃にもたれないコンテンツを大量に持っているのは、日本の大きな武器です。
紆余曲折の末、給付金の一律支給も決まったようですし、一部はこの頼りになる籠城戦の備えに回すことを検討してみてはいかがでしょうか。

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