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旅と建築探訪記

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【建築】ルーヴル・ランスに似合う空(SANAA)

【建築】ルーヴル・ランスに似合う空(SANAA)

その日、滞在中のベルギー・ブリュッセルは雨だった。市内の美術館は一通り巡ったし雨の建築探訪は煩わしいし、どうしようか…。しかし近隣の天気予報を調べると、少し遠いが晴れている場所があった。しかも有名建築もある!

ヨシ、そこ行こう!

ベルギー国鉄からフランス国鉄に乗り継いでランス駅(Lens)で降りる。建築ファンであれば、ここが何処なのかお分かりになるだろう。

そう、あのルーヴル美術館の別館、ル

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【建築】洞窟のようなレストラン maison owlで晩餐を(石上純也)

【建築】洞窟のようなレストラン maison owlで晩餐を(石上純也)

数年前から業界で話題になっていた建築がある。このnoteでも何度か紹介している建築家・石上純也さんによるmaison owl(プロジェクト名はHouse & Restaurant)だ。
石上さんの建築には、建築に詳しくない人にも分かりやすい特徴がある。パーゴラを足すことで旧家の庭園を異なる印象の空間につくり変えたり、80m×50mという大空間を柱無しの構造でつくったり、ガラス壁だけで屋根を支えたり

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【建築】上野東照宮の2つの対照的な建物/社殿と静心所(中村拓志)

【建築】上野東照宮の2つの対照的な建物/社殿と静心所(中村拓志)

年が明けて間もないある日、久しぶりに上野公園まで出掛けた。この日の東京は冬らしい綺麗な青空が広がり、寒さも控えめで、散策には絶好の天気であった。

公園内には多くの美術館や博物館、動物園などがあるが、来園目的は国立西洋美術館での企画展である。しかし予約した入場時間までまだ1時間ほどあるので、以前から気になっている上野東照宮に立ち寄ってみることにした。

東照宮と言えば、陽明門で有名な日光東照宮がイ

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【建築】水と光と影がつくるセレモニーホール Hofheide(RCRアルキテクタス)

【建築】水と光と影がつくるセレモニーホール Hofheide(RCRアルキテクタス)

人生の最後の場、家族や友人が集まり大切な人を偲ぶ場である葬礼。かつてはお寺や個人宅、現在はセレモニーホールで行われることが多い。
そのセレモニーホール、不特定の人が短時間利用するだけなので、装飾は控えめな建物が多い。実用的と言えるが、凡庸とも言える。

しかし近年は、日本でも海外でも建築家が設計した洗練されたデザインのセレモニーホールもある。伊東豊雄さん設計の「瞑想の森 市営斎場」は有名だ。

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京都の建築を支えてきた北山杉と文化的景観

京都の建築を支えてきた北山杉と文化的景観

京都市街から北西へ20km。北山方面に向かい、神護寺で有名な高雄を通り過ぎると、間も無く山間の小さな集落と出会う。

京都市北区中川北山町。
この中川周辺は"京都府の木"である北山杉の里として知られている。

北山杉は、古くは桂離宮・修学院離宮をはじめとする数寄屋や茶室、近年は一般住宅でも床間の床柱などに使われている木材だ。

その特徴は滑らかで光沢のある木肌で、磨丸太とも呼ばれる。一口に磨丸太と

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【建築】図書館の"本のあり方"を問うブック・マウンテン(MVRDV)

【建築】図書館の"本のあり方"を問うブック・マウンテン(MVRDV)

市民にとって身近な公共施設である図書館。最近は著名な建築家が設計を手がけることも多く、デザイン面でも注目される傾向にある。
こうした図書館には一つの特徴がある。それは本の収納・閲覧はもちろん、居心地の良さにも配慮していることだ。落ち着きのあるインテリア、くつろげる閲覧席、快適な光環境、etc。

特に光環境、つまり自然光の取り入れ方は重要だ。
一般的に図書館と自然光との相性は良くない。直射日光が入

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【建築】美しい森に溶け込む自然公園のパビリオン(石上純也+STUDIO MAKS)

【建築】美しい森に溶け込む自然公園のパビリオン(石上純也+STUDIO MAKS)

建築家・石上純也。私のお気に入りの建築家の一人だ。しかし実はまだそれほど作品を見ていない。今までにKAIT広場、KAIT工房、木陰雲を訪れた程度である。その中でもKAIT広場はスゴかった。「技術に走り過ぎている」という批判もあるようだが、スゴいものはスゴイとしか言いようがなかった。

その石上さん設計のパビリオンがオランダの公園 Park Vijversburgにある。
「石上さん設計」と書いたが

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【建築】簡素でありながら心が震えるファールス修道院(ハンス・ファン・デル・ラーン)

【建築】簡素でありながら心が震えるファールス修道院(ハンス・ファン・デル・ラーン)

皆さんは映画・音楽・美術館などに行く時、何から情報を得るだろうか?
訊くまでもない質問だと思うが、今の時代、ほとんどの人はネットで調べるだろう。私が建築を見に行く時もそうしている。そして実際に訪れてみると、それなりに満足感も得られる。ただし意外性のある建築に出会うことは少ない。どうしても自分好みの建築を選んでしまうからだ。
そこで最近はネットに加えて、というか以前はそれは普通だったが、詳しい人や地

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タイルたちよ、蘇れ!

タイルたちよ、蘇れ!

「工場は仕舞う、されどタイルは蘇る」のPart 2である。

窯業の街・常滑の老舗の建築陶器メーカー旧 杉江製陶所。

老朽化に伴い工場が閉鎖・解体されることになったが、戦前につくられた貴重なタイル見本室が"再発見"されたことから、有志によるタイル救出プロジェクトが動き出した。

建物の解体は2022年5月に始まり、8月にはほぼ更地となった。

しかし6月から7月にかけて行われたクラウドファンディ

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【建築】60年前に建てられた常滑陶芸研究所(堀口捨己)がカッコいい!

【建築】60年前に建てられた常滑陶芸研究所(堀口捨己)がカッコいい!

愛知県知多半島の中ほどに位置する常滑市。窯業が盛んな街である。古来より壺や甕がつくられてきたが、明治以降には土管や建築陶器も製造された。大正に入ると帝国ホテルの建設をきっかけに伊奈製陶(→INAX→LIXIL)が創立され、常滑のタイルや常滑焼の名は全国に知られるようになる。
残念ながら現在の窯業はかつての勢いはないが、それでも焼き物の町として、あるいは招き猫生産日本一の町として活性化を図っている。

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建築が切り取るキリトリ風景

建築が切り取るキリトリ風景

以前「窓」の記事を書いた。窓には採光や換気といった機能があるが、外部の風景を"切り取る"ということもできる。窓はその風景をより強調し、時には絵画のように見せる。窓だけでなく、床・壁・柱・天井・梁などの建築がつくるフレームにも同様の効果がある。

建築が切り取るキリトリ風景。普段は見過ごしてしまうこともあるが、改めて覗いてみると、そこには素晴らしい光景があるかもしれない。

ジェットウィング・ライト

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【建築】ル・コルビュジエの傑作と絶賛されるサヴォア邸は好きですか?

【建築】ル・コルビュジエの傑作と絶賛されるサヴォア邸は好きですか?

多くの人にとって最も身近な建築といえば"住宅"だろう。そして近代建築の歴史において必ず名前が挙げられる住宅がサヴォア邸である。もちろん傑作として紹介されるのだが、果たしてサヴォア邸はそんなにスゴいのだろうか?

パリから電車で30分。

郊外の街ポワシーで降りる。

駅から趣のある石畳の住宅街を歩くこと20分。

フェンスで囲まれた一画に出た。

敷地に入ると、木々の向こうに一棟の住宅が見えてくる

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【建築】ピーター・ズントーは投入堂を見たのか?

【建築】ピーター・ズントーは投入堂を見たのか?

いつの時代も人間は少し無茶をしたがる生き物だ。挑戦とでも言おうか?
建築においても、孤島、険しい山の上、海の中など「何故そんな場所に無理してつくった?」と問いたくなるものが古今東西・世界各地にある。

日本では古来より山を修行の場とする山岳信仰がある。また霊山として、山そのものを御神体や崇拝の対象としている寺院や神社も少なくない。

霊山は全国にあるが、鳥取県では大山が有名だろう。

その大山から

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工場は仕舞う、されどタイルは蘇る

工場は仕舞う、されどタイルは蘇る

谷口吉郎の名建築、愛知県陶磁器美術館。

そこに掲げられた看板
「もっと伝えたい、愛知のやきもの」

その通り! 愛知は焼き物王国なのだ!

その起源は5世紀後期までさかのぼる。古墳時代から鎌倉時代にかけて、現在の名古屋市東部から豊田市を中心に猿投窯と呼ばれる古窯が広がっていた。やがてそれは北部では瀬戸焼として、南部では常滑焼として発展した。

常滑では、初期には大型の甕や壺が、江戸時代末期には土

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